国際通貨基金(IMF)は、1月20日に最新の世界経済見通し(WEO)を公表した。これによると、今年の世界経済の成長率は3.3%と、前回昨年10月のWEOでの見通しから0.1%下方修正された。また、2019年の成長率は2.9%で着地したとの見通しを示し、前回10月時点での実績予測3.0%を0.1%下回った。2021年の予想は3.4%成長と、0.2%ポイント引き下げた。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bankの長谷川建一CIOが解説する。

米国、ユーロ圏は下方修正 英国は安定成長を見込む

米中通商交渉が第1段階の合意に達し、1月15日に署名されたことは、底入れする兆しが出始めている貿易や企業活動を支え、世界経済への不透明感を改善する可能性が高まると指摘した。ただ、景気が改善への転換点を越えてきたことを示すデータはまだほとんどない状態であるとして、慎重な見方も示した。

 

地域別に見ると、米国経済については、2017年に実施された税制改正によるプラスの効果が薄れている一方で、連邦準備理事会(FRB)が金融緩和姿勢を維持することを織り込んで、2020年の成長率を2.0%と予想した。これは、前回見通しで示された予想からは0.1%下方修正されたことになる。2021年も1.7%成長と、厳しめの予想である。

 

ユーロ圏経済は2020年は1.3%成長の予想で、こちらも前回見通しから0.1%の下方修正となった。ドイツ製造業の停滞が継続することや、スペインなど主要国での内需が低迷する見込みがユーロ圏経済に重しとなる見通し。 2021年は、1.4%成長見込みと控えめに留まった。

 

英国については欧州連合(EU)からの離脱で、ハードブレクジットになることが避けられる見通しが強まったとの見方から、2020年は1.4%、2021年は1.5%と前回まで懸念を示していた見通しを改め、比較的安定した成長を見込めるとした。

 

2020年の世界経済、どうなる?
2020年の世界経済、どうなる?

中国は上方修正、ただし新型コロナウイルスに注意

注目された中国の2020年の成長率は6.0%との予想である。これは、前回見通しから0.2%の上方修正となる。米中通商協議での米国が発動予定だった一部関税措置を取り下げたことなどをプラス材料と見ているためと考えられる。ただ、新型コロナウイルスの流行が、人の移動や物流を制限したり、春節(旧正月)の消費を抑制する要因になるなどの可能性もあり、どれほど深刻化・長期化するかなど、動向には注意を払っておく必要があるだろう。2021年は5.8%の成長にとどまる見通しが示された。

 

今年の成長のドライバーとして期待されている新興国の経済成長予測に関しては、下方修正された。特に、インドを含む主要新興国について経済見通しを再評価した結果、信用収縮やノンバンク部門の資金繰りが圧迫されたことにより、内需が予想より減退したことが響いているという。インドの2020年成長率は5.8%の見込みで、前回見通しから1.2%と大幅に下方修正された。2021年には、財政政策による景気刺激策の効果を見込んで6.5%の成長に回帰するとの見方を示したが、前回見通しからは0.9%ポイント下方修正された。 ほかの新興国では、チリでは政情不安、メキシコでは投資の減少を理由に成長率見通しを引き下げた。

 

年明け早々、中東では地政学的な緊張の高まりが見られる事態も発生し、この地域での紛争のリスクを再認識させられたことが指摘された。また、オーストラリアやアフリカ・アジアの一部で、気候変動による経済的な損失が生じたことなど、通商問題から地政学リスク、気候変動問題など幅広いリスクが存在していることで、見通しの不確実性は高いとの認識が示された。

トランプ大統領は選挙戦を意識した政策を続行か

今回IMFが発表したWEOでの見通しにおける注目は、世界経済の成長リスクは引き続きあるものの、前回時点よりは悪い方向への傾きは小さくなったと分析している点だ。製造業の企業投資や世界貿易量の底入れから回復への兆候が見られることに加えて、米中通商協議が好転しプラスの材料となっていることや、昨年の主要国の中央銀行による一連の金融緩和策が下支え要因になり、前向きな芽が出始めていると指摘した。

 

2020年の成長率は、3.3%と2020年比で0.4%上昇、2021年の成長率も3.4%へと緩やかながら加速するシナリオである。なお、ムニューシン米財務長官は、米国国内の景況感の底固さや消費動向に陰りが見られないことに加え、米中間の通商合意の成立や米ボーイングの旅客機737MAXの運航再開などのプラス要因から、2020年の米国経済の成長率はIMFの予測を上回る可能性があると述べた。

 

トランプ大統領の政策の一貫性について、疑念が払拭されたとまでは言い切れないが、イランへの攻撃に見られたように深刻な正面衝突や対立激化は回避する姿勢が示されるなど、大統領選挙を控えて選挙戦にプラスになるかどうかを判断軸とすることは、はっきりしてきている。その意味では、トランプ政権の政策にかかわる不確実性は後退したと市場は捉えているのではないか。その判断軸に則れば、米中通商合意も、摩擦の深刻化は米国景気にマイナスであり、それは再選に不利に働く。選挙が終わるまでは対中国での対立激化はないだろうという見通しが妥当であると考えられる。

 

2020年の世界経済の成長率が、大きく加速するとは想像し難いが、昨年も戒めたように極端な悲観論も持つべきではないだろう。不確実性が弱まり、国際貿易量の回復、そして景況感好転に結び付いていくシナリオも描いておく必要はある。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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