不正アクセスや煽り運転など、現在の日本では誰もが被害者になる可能性があります。本記事では、警察組織の内部構造の問題点等について警察OBが解説します。※本連載は『新装改訂版 警察は本当に「動いてくれない」のか』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、改編したものです。

組織のため、守らなければならない秘密はあるが…

どのような組織でも、外部に知られると不利益になる事実は隠したがるものです。日産自動車の報酬虚偽、SUBARUのデータ書き換え、東芝の粉飾決算などの例が示しているように、日本を代表するような大企業であっても、不祥事があったときにその事実を隠ぺいするような行動をとることは珍しくありません。

 

当然、警察にも組織を維持するために守らなければならない秘密が多かれ少なかれあります。そして、そうした組織内の秘密や外部には知られたくない内輪の不祥事を必要以上に守ろうとする警察の姿勢が、「隠ぺい体質だ」とマスコミや世論によって批判されることも少なくありません。

 

最近も、北海道警が、本来公表することを義務づけられている、所属警察官に対する懲戒処分の事案を非公表にしていたことが問題になりました。

 

警察庁が定めた「懲戒処分の発表の指針」では、警察官に対して以下の懲戒処分があった場合には、その事実を公表するよう求められています。

 

(1)職務執行上の行為及びこれに関連する行為に係る懲戒

 

(2)私的な行為に係る懲戒処分のうち停職以上の処分

 

(3)行為の態様、行為の公務内外に及ぼす影響、職員の職責等を勘案し、国民の信頼を確保するため発表することが適当であると認められる懲戒処分

 

にもかかわらず、道警では、強制わいせつや住居侵入、ひき逃げなど法令違反が疑われる七つの事案に関して行った警察官への懲戒処分を公開していなかったのです。このような道警の姿勢に対して専門家は次のような批判的な論評を行っています。

 

「同志社大の太田肇教授(組織論)は『法令違反が疑われる事案は、警察庁指針の(3)に該当する』とした上で、『強制捜査権を持つ警察は高い順法精神が求められる。公表の是非は国民の常識に照らして判断すべきであり、恣意的な判断をすべきではない』と指摘している」(2015年12月13日付毎日新聞より)

 

警察は「隠ぺい体質」というバッシングを受けやすい
警察は「隠ぺい体質」というバッシングを受けやすい

若くして出世するキャリア組は、現場を知る機会がない

警察は今、ノルマ主義の弊害や現場の警察官たちが疲弊し巡回連絡すら満足に行えなくなっている状況に直面しています。そのような現状を改めるためには、上にいる人間、つまりはキャリア組のエリートたちが、取り締まりや捜査の現場で起こっている問題をしっかりと認識する必要があります。

 

しかし、キャリアの人たちは若くして出世するために、現場の状況について直接知る機会はほとんどありません。

 

また、本来、現場に関して適切な情報を上に伝えるべき中間層、すなわち下から叩き上げで出世していった幹部たちは、ネガティブな事実を上に上げることを嫌がる傾向が見られます。現場を管理する自分たちの責任とみなされ、出世に悪影響が出ることを恐れているからです。

 

そのために、現場の実態とは大きくかけ離れた情報だけしか上層部には伝わらなくなっています。キャリアの人たちはみな優秀なので適切な情報を得ていれば、然るべき改革を断行するはずです。しかし、不適切な情報しか与えられていないのでは、行われるべき改革が行われないのは当たり前の話です。

 

なお、この「現場」の話について一つ触れておきたいことがあります。テレビではよくコメントをしている元警察官などを見かけますが、現場一筋で定年を迎えた方はともかく、若くして退職しテレビで解説などをしている方は現場の経験が少ないのではないでしょうか?

 

そんなふうに、根拠のない情報が切り貼りされるテレビというマスメディアが私は苦手なので出演は控えるようにしています。

何もしてくれない警察への苦情は、公安委員会へ

警察官の職務執行について苦情がある場合、たとえば「警察に行っても何もしてくれない」などという時には、公安委員会に対して、苦情の申出を行うことが可能です。手続は簡単で、以下の事項を記載した文書を提出するだけです。

 

① 申出者の氏名、住所、電話番号

 

② 申出者が住所以外の連絡先への処理の結果の通知を求める場合には、当該連絡先の名称、住所及び電話番号

 

③ 苦情申出の原因たる職務執行の日時及び場所、当該職務執行に係る警察職員の執務の態様その他の事案の概要

 

④ 苦情申出の原因たる職務執行により申出者が受けた具体的な不利益の内容又は当該職務執行に係る警察職員の執務の態様に対する不満の内容

 

申出を行なった苦情に対して、警察は回答を行うことが義務づけられています。実際、私のところに相談に来たある女性相談者が、この制度を使って警察を動かすことに成功した例もあります。ぜひ、積極的に利用してみてください。

 

 

佐々木 保博

株式会社SPI 会長

 

新装改訂版 警察は本当に「動いてくれない」のか

新装改訂版 警察は本当に「動いてくれない」のか

佐々木 保博

幻冬舎メディアコンサルティング

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