当然ですが、不動産の売買にはさまざまな契約・検査が発生します。たとえば、建築基準法で定める検査が完了したことを示す「検査済証」と呼ばれる書類があります。売買で問題になりがちなのは、この「済証」をはじめとした基本的な書類が足りないケースです。そこで本記事では、『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』より実際のトラブル事例を紹介します。

「検査済証・建物の設計図・敷地の測量結果」全部ない

検査済証がないことから、高値で売りにくくなってしまった不動産の実例を紹介しておきます。

 

場所は、東京都世田谷区。幹線道路沿いの商業地です。土地の広さは約20坪。そこに、築50年近いビルが立っています。地上4階建てで、エレベーターは設置されていません。立地条件から考えればテナントはいくらでも付きそうに思いますが、半世紀近く前に建てた古いビルということもあって、オーナーは第三者に賃貸する意欲を失っており、ご自身で一部を使用していました。

 

ある時このビルを売りに出そうと、オーナーは銀行系の不動産仲介会社に相談を持ち掛けたそうです。すると、済証がない点のほかにも、いくつかの問題点を指摘されてしまったといいます。

 

それはまさに、書類不足です。済証がないばかりか、建物の設計図面も、敷地の測量結果を示す図面もなかったのです。つまり、敷地の実測面積や建物の順法性が不明確なまま。これではさすがに、誰かが購入しようとしても、買い手は金融機関の融資を受けることができません。

 

金融情勢からいえば、金融機関の貸し出し意欲が高いことは間違いありません。2016年2月から日本銀行はいわゆるマイナス金利政策を取っていますから、企業や個人への貸し出し意欲はそれまで以上に高まっているはずです。

 

実際、金融機関が融資の可否を決めるハードルは以前に比べれば低くなっていると感じます。済証がない程度なら、メガバンクはともかく、融資相手の限られる地方銀行や信用金庫なら融資を受けられる可能性がないとはいえません。ただ必要な書類がここまで何もないと、それも心もとないところです。

 

測量して土地の実測面積を確定するように、オーナーは相談を持ちかけた不動産仲介会社に促されたそうです。そこに立つ中古ビルは一部を自己使用しているだけですから、すぐにでも取り壊すことは可能です。取り壊してしまえば、それは売り物ではなくなるので、済証や設計図面がなくてもまったく問題はありません。敷地の測量と中古ビルの取り壊しで、売却に向けた条件はぐんと改善するわけです。

 

ところが、オーナーはそれらの作業に手を付けるのを面倒に感じたようです。測量にしても中古ビルの取り壊しにしても、当然費用が掛かります。身銭を切って、手間を掛けてまで、売却に向けた条件を改善しなくてもいい、と判断したのでしょう。結局、それらには一切手を付けず、総額5000万円の価格で売却することを決めたのです。

 

この判断は、私からすればとてももったいないことです。設計図面も済証もない中古ビルを取り壊し、敷地を測量していれば、この土地を購入しようとする買い手は金融機関の融資を受けることができるはずです。測量やビル取り壊しの費用は掛かったとしても、もっと高値で売却できることは疑いようがありません。土地は約20坪とそう広くありませんが、立地条件はいい。本来はもっと価値の見込める土地です。

 

書類不足を指摘されてしまったオーナー
書類不足を指摘されてしまったオーナー

総額3000万円の価値はある土地が「約800万円」に

問題は、検査済証の有無だけではありません。特殊な事例かもしれませんが、埼玉県草加市内ではこういう例にも遭遇しました。

 

住宅地に位置する広さ約85坪の土地です。普通に考えれば総額3000万円の価値はあるはずです。その土地売買が成立した価格は何と、総額約800万円。本来の価値の3割にも満たない水準です。この土地もやはり、ある事情から金融機関の融資を受けられないことが災いして、これほどまでに成約価格が抑え込まれてしまったのです。

 

ここで問題になったのは、道路です。正確にいえば、道路に見える第三者の所有地です。この土地が接している、あたかも前面道路に見えている箇所の一部が、実は第三者の所有地ということが判明したのです。

 

この土地と市道である本当の道路用地との間に、その第三者の所有地が細長く挟まれている形です。なぜそういうことになってしまったのか、事情は詳しくは分かりません。

 

この土地と第三者の土地が不動産登記上の単位である筆(ひつ)は分かれていたものの、もともとは一体の土地だったことが考えられます。この土地を売買した時に何かの事情で道路に面した筆の異なる土地だけを残してしまったのでしょうか。

 

道路用地との間に第三者の所有地を挟んでいるとなると、この土地はそもそも普通には利用できない「死に地」ではないのかという疑問が浮かぶかもしれません。しかし結論からいえば、決してそうではありません。

 

この土地を敷地としてそこに建物を建設する計画に対する建築確認を行政などに求めれば、それを受けることはできるはずです。建築確認時には確かに敷地と前面道路の関係が法令などに違反していないかという点を確認しますが、このケースの場合、その点には問題がないからです。前面道路には確かに第三者の所有地が含まれていますが、それらが全体として法令で定める「道路」を構成していると見なされれば、何のおとがめもありません。

 

ただ、たとえ建築確認を受けて建物を建てたところで、それを誰に売却するのかという段階で問題が顕在化します。立地条件や土地の広さからすれば、戸建て住宅を建設することが素直に考えられます。

 

そうなると、購入検討者は住宅ローンを組んでそれを買おうとする層です。ローンを組めるということが、購入に当たっての必須条件です。仮に最初の買い手はローンを組まずに購入できるとしても、それを何かの事情で売却しようとしたときに次の買い手が見つかるのかという視点で考えると、どうでしょう。

 

たとえローンを組まずに購入できるとしても、そこを自らが売却処分しにくいとなれば、購入を逡巡したり断念したりすることは十分に考えられます。将来にわたって買い手が限定され続けるというのは、金融機関の融資を受けられない不動産の最大のネックです。不動産を本来それが持っているはずの価値で売却する――。これが、不動産を高値で売却しようとするときの鉄則です。

 

一般の買い手が購入を検討できるように金融機関からの融資を受けられる環境を整えておくことが、何よりまず欠かせません。

 

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