本記事は、2018年6月29日刊行の書籍『地主を破滅に導く 危険な相続税対策』(株式会社イーミライ・ホールディングス・福本啓貴氏著)から抜粋したものです。その後の法令等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

2022年以降、「生産緑地」が宅地転用され大量放出

「生産緑地の2022年問題」が賃貸市場に大きな打撃をもたらすといわれています。

 

生産緑地とは都市部に残る緑地を守る目的で1970年代に制定された生産緑地法に基づいて、市町村から指定を受けた農地のことです。この指定を受けることにより、農地所有者は税制面での優遇措置を受けることが可能となりました。しかし、1992年に、東京、大阪、名古屋の三大都市圏を対象とした生産緑地法改正が行われます。この改正の結果、生産緑地の指定を受けられるのは、30年以上営農継続の意志のある場合に、つまりは農業を続ける場合に限られることになったのです。

 

その背景には不動産バブルによる地価高騰がありました。国は、生産緑地法の改正によって「都市部の農地への課税強化→宅地の供給増加→地価抑制」という効果を狙ったのです。

 

現在、全国には約1万3000ヘクタールの生産緑地が存在します。このうち、約8割は1992年の改正生産緑地法に基づいて指定されたものです。したがって、それから30年たった2022年以降は「農業を続けなければならない」というしばりがなくなり、所定の手続きを経れば指定を解除することができます。つまりは、宅地として利用することが可能になるわけです。

 

そこで、2022年を迎えた暁には、現在、生産緑地に指定されている大量の農地が不動産業者によって買い取られ、建売住宅や賃貸アパートなどに形を変え一斉に放出されることが予想されています。このような想定のもとで、「賃貸市場はますます厳しくなる」と囁かれているのです。

 

賃貸市場はますます厳しくなる
賃貸市場はますます厳しくなる

すでに東京西部エリアも「フリーレント」が当たり前に

「不動産は一にも二にも立地がすべて」といわれています。立地条件が悪ければ、不動産事業で安定的な収益を確保することが難しくなります。

 

人口の減少、生産緑地の指定解除による住宅用地の大量供給――賃貸経営にとっては楽観を許されない将来が待ち受けている中で、「どの場所に物件を持つのか」という立地の重要性はこの先、さらに増してくることになるでしょう。

 

現時点でも、入居者を安定的に確保できている物件は都市部の駅から徒歩10分圏内のアパート、マンションに限られているといっても過言ではありません。それ以外の物件に関しては、一定期間、賃料を無料にするフリーレントを実施するなど、オーナーが空き部屋を埋めるために四苦八苦しています。

 

例えば、2017年10月21日付日本経済新聞では、借り手を確保できず、フリーレントを行っているオーナーの状況を以下のように伝えています。

 

【入居者様募集――。JR栃木駅から徒歩30分。空き地や山々に囲まれたある地域には、アパートの入居者を募るノボリや看板がわずか数百メートルの範囲に8つも立っていた。今夏に完成した新築の物件は20部屋弱のうち、9割ほどは埋まっていない。不動産店に問い合わせると「今ならキャンペーンで2年間は賃料を毎月5千円下げる」という。

 

物件を大手不動産サイトで検索すると、「フリーレント」のサービスを付けると書いてある。不動産業界は空室が埋まらない場合、1~3カ月の無料貸しをしたうえで契約に結びつけることがある。栃木では千件以上の物件がフリーレントに出ている。地元の主婦は「昔は兼業農家が多く、誰も土地を売らなかった。今は農業をしないし、相続対策でアパートが増えた」と話す。】

 

この記事では、栃木県の小山市のケースが取りあげられていますが、東京でも都心から離れた八王子市やあきる野市のような西部エリアのアパートなどでは、入居者募集広告でフリーレントが当たり前のようにうたわれています。駅から遠く賃貸の坪単価が4千円、3千円という条件の悪い場所では、6カ月間、賃料が無料という例さえ見られます。

借主確保のため「AD名目」の支払いが発生!?

また、借主を確保するために「AD」の名目で仲介業者に法定の報酬以外の手数料を支払うこともあります。

 

ADとは宣伝広告料のことです。

 

オーナーが仲介業者に支払う不動産仲介の報酬は宅地建物取引業法(宅建業法)で定められており、その額よりも1円でも高い場合には違法となり処罰の対象になります。具体的には、アパート、マンション等の居住用の建物であれば、貸主、借主それぞれから賃料の半分ずつしかもらうことはできません。なお、依頼者の承諾がある場合は、いずれか一方から賃料の1カ月分以内を受けとることができます。ただし、この場合も貸主、借主から受ける報酬の合計額は賃料の1カ月分以内でなければならないというルールがあります。

 

このように、報酬に関しては法律で厳しい規制が課されていますが、一方で、「宣伝広告を行ってほしい」などオーナーからの特別な依頼に基づく費用については受けとることが認められています。

 

そこで、ADという形で特別な手数料を付けることで、仲介業者のモチベーションを刺激してより積極的な営業活動を促し入居者獲得につなげることが業界では常態化しています。

 

ADの額は「100%」であれば賃料1カ月分、「200%」であれば賃料2カ月分というようにパーセンテージで示されます。築年数が古いなど入居者を確保しづらい物件ほど、ADの額は高くなっていきます。多くは100%ですが、200%、300%のケースも見られます(先日、「400%」の例も目にしました。ここまで高いものはさすがに私も初めてでした)。

 

このように、現在の厳しい賃貸市場の状況の中で、空室を避けるためには、フリーレントやADの活用など、何らかの工夫や努力を行うことが必要になっています。

 

さらに、入居者を確保するためには、借り手のニーズを積極的に取り込む努力も求められます。エアコンはもちろん、インターネット設備を用意するのは当たり前となっていますし、それにプラスアルファしたサービスを打ち出すことが必要です。その結果として、賃貸経営のために要するコストはどんどん増えていくことになるでしょう。

必要経費を考慮しない「表面利回り」

コストの話と関連して注意を促しておきたいのは「利回り」の問題です。利回りとは、投資資金に対する収益の割合であり、投資した物件からどれだけの利益を得られるのかを予測する指標として用いられています。アパートやマンションを購入するときには、「このアパートは年間7%の利回りで回ります」などというように業者の側から利回りが示されるはずです。

 

そして、この業者から示される利回りは「表面利回り」とよばれており、通常、以下のように年間の賃料収入の総額を物件価格で割り出した計算式で求められているはずです。

 

利回り=年間の賃料収入の総額÷物件価格×100

 

例えば、2億円の物件で1年間に1400万円の賃料収入が得られる場合には、「1400万円÷2億円=0.7」から利回りは7%になります。

 

この利回りの数字を見ると、「7%もあるのか、結構いいなあ」と思うかもしれません。しかし、このような賃料収入だけを分子とした利回りの計算方法には実は「落とし穴」があります。それは、賃貸経営に必要となる経費が一切考慮されていないことです。

 

アパートやマンションは建てたときのイニシャルコストだけではなく、運用している間のランニングコスト(維持費等)も必要となります。具体的には、固定資産税・都市計画税、保険、修繕費等の費用があげられます。また、右で述べたADの費用やエアコン、インターネット設備等のコストも含まれることになるでしょう(さらに、最終的には建物を解体することになるでしょうから、その解体費用も考慮に入れておくことが必要となります)。

 

利回りを求める場合には、本来、それらの諸費用も含めなければならないはずです。つまり、利回りを正しく求めようとするのなら、年間の賃料収入から維持費等を引いた額を物件価格で割り出すべきなのです。その場合、計算式は以下のような形になるでしょう。

 

利回り=(年間の賃料収入の総額マイナス年間の維持費等)÷物件価格×100

 

例えば、上記のアパートの例で維持費等が年間で400万円かかるのであれば、「(1400万円マイナス400万円)÷2億円=0.5」から利回りは5%になります。

 

このように経費を入れて利回りを考えると、思ったほど利回りがよくないことに気づくことがあるかもしれません。

地主を破滅に導く 危険な相続税対策

地主を破滅に導く 危険な相続税対策

福本 啓貴

幻冬舎メディアコンサルティング

入居率、利回り、節税効果、不動産会社のセールス全てが嘘っぱち。地主の資産を狙う「相続税対策ビジネス」の実態と確実に資産を残す方法を徹底解説。

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