クリニックM&Aの4つのパターンのうち、今回は、「個人開業のままで承継」するパターンについて詳しく見ていきます。

原則として「負債」や「従業員の契約」は引き継がない

本連載の第4回でクリニックM&Aの一般的なパターン分類として、次の4つをご紹介しました。
 
①個人開業のままで承継
②旧法の医療法人のままで承継
③新法の医療法人で承継
④個人開業を医療法人に組織変更してから承継

 

今回は、個人クリニックM&Aの主流である①個人開業のままで承継について具体的に説明します。

 

個人開業のクリニックのM&Aと、医療法人のクリニックのM&Aでは、大きくスキームが異なります。個人開業のM&Aは「資産売却」というかたちでクリニックを譲渡します。

 

これは、中古の家を購入するのと同じようなイメージです。引き継ぐものはクリニックの建物や医療機器だけで、資産以外の負債などは原則引き継ぎません。前の家主の住宅ローンを次の家主が引き継がないのと同じです。


譲渡価格は「固定資産の時価」に「のれん代」を加えた価格になるのが基本です。のれん代というのは、クリニックの将来性や収益性を加味した営業権のことです。周辺に競合が少なく常連患者も多く見込めるような場合は、のれん代が高めになります。反対に周辺に競合が多く、患者数が減少傾向にあるような場合は、のれん代が低めになります。


個人開業のM&Aで注意したい点は、従業員との雇用契約やカルテは原則として引き継がれないところです。従業員を引き続き雇いたい場合は、新経営者との間で新たに雇用契約を結ぶことになります。

 

また、買い手側は診療所開設許可を新規に取得する必要があります。売り手は同じ時期に診療所廃止届を提出します。この手続きにはおおよそ2~3か月かかることが想定されるので注意が必要です。カルテについては、経営者間で勝手に受け渡しすることはできないので、行政との相談になります。

 

不動産の譲渡所得税の計算方法とは?

個人開業のM&Aで生じる課税関係も確認しておきましょう。


個人名義のクリニックの不動産(土地建物)を譲渡することで、譲渡所得税が生じます。不動産以外に棚卸資産などを譲渡する場合に、譲渡価格と帳簿価格が同額であれば利益が出ないので課税は生じませんが、帳簿価格より高い金額で譲渡して利益が出るような場合には、その利益分に課税されます。


例えば、取得価格5000万円の建物を、4000万円で譲渡した場合、売却時の帳簿価格は取得価格5000万円から減価償却分1800万円を引いた3200万円です。譲渡価格4000万円から3200万円と譲渡費用300万円を差し引くと、譲渡による利益は500万円です。クリニックの建物を売却以前に5年以上保有していれば、これに対して所得税と住民税が20%の税率で課せられます。手元に残る金額は3600万円となります。

 

 

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    本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『開業医のためのクリニックM&A 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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