2040年には約4万人も余る予測が…医師が仕事にあぶれる時代

本記事では、医療法人南労会紀和病院理事長・佐藤雅司氏が、時間に追われる働き方一辺倒に陥っている医師たちの現状を俯瞰し、問題の解決策を提案します。今回は、専門的な医師の将来のキャリア選択について考えていきます。※本連載は『地方勤務医という選択』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、改編したものです。

名ばかりの「大病院」…診療科同士の連携は期待できず

大病院にはたくさんの専門科があるので、いざという時には並行して診療してもらえる──多くの患者はそんなふうに考えています。しかしながら、医師であれば理解しているとおり、実際は大病院ほど診療科ごとの壁が高く、他科と連携しながらの治療はなかなか実践されていません。

 

高齢化が進む中、一人の患者が一つの疾患や障害しか持っていないケースはむしろまれになってきました。高齢の患者は複数の疾患を持っている人が大半であり、ある疾患の治療が別の疾患に影響をおよぼすことも少なくありません。

 

本来は、担当する診療科同士で密に連携して、患者にとって最良の治療方針を見つける必要がありますが、高度な医療を提供する病院の医師ほど、専門科で扱う疾患の治療のみに特化する傾向があります。急性期医療を主とする病院では患者と付き合う期間が短いこともあり、病気ではなく人を診る視点や、治療後も続く患者の人生への意識が低いのです。

 

そのため、急性期医療を担う病院の医師はそれぞれ、自分が専門とする疾患しか診ようとしません。極端にいえば、その疾患を治癒することだけが目的であり、全身的な状態やその他の疾患との関係などは二の次になってしまうのです。

若い医師たちが困惑する「新専門医制度」とは?

勤務医にとって職場である病院の選択はキャリアの向上に、おおいに関係します。特に若い医師はきちんと指導してくれる指導医がいる病院で経験を積まなければ、専門医資格を取れないという問題があります。

 

しかしながら、一昔前まで多くの医師は大学卒業後、医局に所属したため、キャリアを考慮して勤務先を選ぶ習慣がありませんでした。職場となる病院は半ば自動的に医局によって決められるため、考える余地がなかったのです。

 

医師にとって専門医資格は大切な財産です。自身の能力を示す看板であり、多くの医師は専門医資格の取得=キャリアアップと認識し、日々研鑽しています。にもかかわらず、キャリアに直結する勤務先を自分で選べない時代がずいぶん長く続いてきたのです。

 

近年はそんな事情に変化が見られるようになりました。医局に入る医師が激減し、キャリアは自分で選ぶものという時代へと変わりつつあるのです。2018年からはさらに、新専門医制度が施行されたため、専門医資格の取得を巡る環境が大きく変化しました。新たな制度が目標としているのは、専門医資格の基準統一です。

 

これまで、専門医資格は各専門領域の学会がそれぞれ独自に設定して管理運営していました。そのため認定基準がバラバラであり、資格の価値が分かりにくいという問題がありました。

 

開業医は、保有している専門医資格を看板やホームページ等に記載してよいことになっているため、多くの医師が保有している資格を看板に記載したりホームページに載せたりしていますが、取得するための条件が大幅に異なると、専門医資格によって患者が医師の能力を判断しにくくなります。

 

新たな制度ではこの問題を解決すべく、第三者機関である「日本専門医機構」が専門医資格を統括することになりました。中立的な機関が認定プログラムを運用する仕組みにより、資格の基準が統一されやすくなったのです。

 

若い医師たちは困惑している…
若い医師たちは困惑している…

 

医師の側から見ると、新専門医制度の導入により生じた何よりの変化は、専門医資格の取得について一種の戦略を必要とするようになったことでしょう。新たな制度下では19の基本領域と29のサブスペシャリティ領域が設けられており、基本領域を学んだ後、それに関連するサブスペシャリティ領域を選ばねばなりません。

 

例えば、基本領域で内科を選択した医師がサブスペシャリティで感染症の専門医資格を取得できないといった問題があるため、慎重な選択が求められます。

 

新たな制度はまだ始まったばかりで、今後どのようなものになるのか分からないというのが、2019年時点における最も大きな問題です。優秀な指導医を求めて、医師の都市部集中がよりいっそう強くなるのでは、と危惧する声もあり、今後の展開はなかなか予想できません。

 

そんな中、最も困惑しているのはこれから専門医資格を取得していこうと考えている若い医師たちでしょう。高齢者が増加し、治す治療より寄り添う治療へのニーズが今後高まる中、専門医資格のみがキャリアに直結するわけではないと私は考えています。若い医師はこれから「キャリアとはなんなのか?」という根源的な疑問に対する答えを、自分で見つけていく必要があります。

高度な医療技術をキャリアと考える医師の未来は暗い

多くの医師がプライドのよりどころとしてきた高度な医療技術は、今後、AIに代替されていくと予想されています。これまでAIブームは何度か発生し、その度に「噂ほどではない」と判明して社会の熱が冷めるという現象が繰り返されてきました。

 

しかしながら、現在起きているAIブームはどうやら本物といえそうです。今までとの最も大きな違いは「ディープラーニング」と呼ばれる自己学習機能をAIが身につけたことです。医学の世界でもすでにその成果は現れ始めています。東京大学医科学研究所が導入したIBM社製のAI、ワトソンは治療の成果が上がらない白血病患者に対して、「二次性白血病ではないか」という専門医でも難しい診断をわずか10分ほどで下したと報道されました。このワトソンは医学論文を2000万件以上読み込んでいたといいますから、人間である医師がかなわないのは当然です。

 

AIは学習速度が人に比べて格段に速いうえ、疲れを知らないので、読影など診断の分野ではすでに人間を上回っているといわれます。また、現在ではまだ難しい手術においても、将来的にはAIが人よりも優れた成果を残すようになるだろうと予想する専門家もいます。そのため、高度な医療技術をキャリアと考える医師の未来は暗い……といった声が近年は上がるようになりました。

 

医師不足が問題視されていますが、いつまでもそんな時代が続くわけではありません。人口──特に高齢者の人口が減少すれば、医療ニーズは減少します。2040年には1.8万~4.1万人の医師が余ると厚生労働省は推計しているので、現在30代の医師が50代になる頃には、医師が仕事にあぶれる時代がやってきます。

 

医師が余る時代に仕事を失うのはAIに代替される技術をよりどころとする医師たちです。専門技術を積み上げることがキャリア形成だとする医師の常識は、転換期を迎えているといえそうです。

 

 

佐藤 雅司

医療法人南労会紀和病院

理事長

医療法人南労会紀和病院 理事長

1984年、奈良県立医科大学卒業後、同大の研修を経て紀和病院に30年間勤務。2011年、理事長に就任。呼吸器を中心に内科一般を診療。地域密着病院として、命の輝きを大切にする医療・介護を行うという理念と目標を掲げ、いつでも、どこでも、誰もが安心できる良い医療と福祉の実現を目指し、患者に寄り添いながら日々治療に当たっている。日本医師会認定産業医および社会医学系指導医。日本内科学会、日本職業・災害医学会、日本透析医学会所属。

著者紹介

連載過酷な職場環境で過労死寸前⁉ 現役理事長が語る「勤務医」のリアル

地方勤務医という選択

地方勤務医という選択

佐藤 雅司

幻冬舎メディアコンサルティング

都市部に多い大規模な急性期病院での勤務は激務といわれています。時間をかけて治療をすることで、患者のQOL(生活の質)を改善できると分かっていても、効率を最優先した治療を選ばざるを得ないケースも少なくないでしょう。 …

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