勤務医の特殊な勤務形態「オンコール」とは?
近年、勤務医の労働環境は過酷な状況にあります。
2018年に開催された「第9回医師の働き方改革に関する検討会」の資料によると、勤務医の40.5%が週60時間以上働いており、うち10.5%は80時間以上も働いています(図表1)。労働基準法第32条で定められている労働時間は週40時間なので、4割の勤務医がその1.5倍働き、さらに1割の勤務医は2倍以上も働いていることになります。
単に労働時間が長いだけでなく、勤務医には当直というイレギュラーな勤務も課せられます。全国医師ユニオンが2017年に行った調査によると、勤務医の平均的な当直回数は月に2、3回でした(図表2)。当直中の忙しさは病院によって異なりますが、3人に1人以上の勤務医が、診療数が多く通常勤務と変わらないと回答しています(全国医師ユニオン「勤務医労働実態調査2017」より)。
さらに、ほとんどの勤務医は一晩中診療に当たった後に、そのまま続けて通常と同じ日勤をこなさなければなりません。当直明けに休める勤務医は3.9%しかおらず、15.4%が半日勤務、78.7%の医師は通常どおりに勤務していることが分かっています(図表3)。
さらに、勤務医には「オンコール」と呼ばれる特殊な勤務形態があります。当直とは異なり自宅にいることはできますが、病院から電話連絡があればすぐに対応する必要があり、場合によっては病院に駆けつけなければなりません。そのため常に気が抜けず、入浴中や就寝中も安心してくつろぐことができないのです。このように一定のストレスがかかり続けることから、苦痛を訴える人も少なくありません。
前述のアンケート調査によると、月に10回以上このオンコール待機を課されている勤務医は17.5%に上ります(図表4)。6人に1人は3日に1度以上の頻度で、気の休まらない夜を過ごしているのです。
勤務医には休日が極端に少ないという問題もあります。月間の休みがゼロという勤務医が10.2%もおり、労働基準法で定められた4週に4日という基準に届かない人は32.9%に上ります(図表5)。長時間勤務を強いられ、さらには深夜の当直まで課されたうえ、最低限の休日すらない人が全体の3分の1を占めるという勤務状況は、非常に過酷であるといえます。
「医師の犠牲」で病院の経営が成り立っている側面も…
長時間勤務は心身の疲弊をもたらします。休みを取れない中疲弊が進むと、体調を崩してさまざまな疾患を発症し、中には過労死や自殺といった痛ましい結果につながってしまうことも少なくありません。
医師に過酷な労働を強いている要因は多様ですが、その一つに「応召義務」があります。応召義務とは、医師法第19条に定められている医師の義務です。条文には「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と記されています。
正当な事由については「医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られる」と厚生労働省から示されており、時間外はこれに該当しません。
2017年に出された「働き方改革実行計画」においても、労働基準法に反する医師の過酷な働き方は、事実上放置されているのです。
本来は医師を守るべき日本医師会も「働き方改革実行計画」に関して発表したコメントの中で「医師は例外」とする考えを示しました。以下は、定例記者会見における横倉義武会長のコメントの抜粋です。
この度の議論で多くの患者や国民から『医師が労働者であることは違和感がある』と言葉をいただいた。正直申し上げて、私も『労働者』と言われると少し違和感がある。応召義務の問題では、勤務時間の規制に抵触しようと、目の前の患者さんを救ってほしいというのが、多くの国民と医療者の思いである。
確かに、これも正論です。しかし、過酷な労働環境が改善する方向に進んでいるのであればまだしも、その兆しが感じられない中で、応召義務に言及するのは勤務医を守る気はない、という意思表明に等しいといえます。
医師は労働者ではないとまつりあげ、労働者ではないのだから労働基準法では違法とされる働き方を課してもいいとするのが、医療現場の実態です。
当直や時間外労働の手当を支払わないなど、医師の犠牲によって経営が成り立っている病院では、人事担当者でさえ医師がどの程度超過勤務をしているのか、確認できていないケースは少なくありません。
過労死や自殺が度々問題になってはいるものの、歯止めのかからない状況はまだまだ続くと予測できます。