「医師に追い出された」と高齢患者が感じてしまう深い理由

本記事では、医療法人南労会紀和病院理事長・佐藤雅司氏が、時間に追われる働き方一辺倒に陥っている医師たちの現状を俯瞰し、問題の解決策を提案します。今回は、高度急性期・急性期病棟における入院日数等について取り上げます。※本連載は『地方勤務医という選択』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、改編したものです。

「長く寄り添う医療」が求められているように…

医師は資格を取得し、さらには一人前と認められるまでに、長い時間とたいへんな労力を要する職種です。多くの医師は子供の頃から懸命に勉強して医学部に合格し、6年もの歳月を経て医学部を卒業、さらに勉強を重ねて医師国家試験に合格するという苦労の末、ようやく医師免許を取得します。

 

しかし、免許を取得しただけでは何もできません。現場で研修を重ね、いくつものケースを経験する中で研鑽を重ねてようやく、同僚や患者から一人前と認められる医師になれるのです。そんな苦難の道のりを歩んででも医師になりたいと思えるのは、きっと医師という仕事に特別なやりがいがあると信じているからでしょう。

 

医師のやりがいは多様です。ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑特別教授のように、研究成果により多くの人を助けることをやりがいと感じる研究医もいます。臨床医には難易度の高い手術を成功させて患者の命を救うことをやりがいとする人も少なくありませんし、日常的な治療においても、患者が健康を取り戻せるよう支える仕事にも大きなやりがいがあります。総じて言うなら、患者を幸せにすることが医師のやりがいであり、患者本人や家族から感謝された時にこそ、医師になってよかったと実感できる瞬間であるはずです。

 

ところが、都市部に多い大規模な急性期病院で勤務する医師の中には、このようなやりがいをほとんど感じられずにいる人が散見されます。

 

高度な医療を提供する病院では確かに、特別な治療によって患者を救えた、といった成功例を経験できるでしょう。しかしながら高齢患者が増える中、昨今増加しているのは高度な医療技術を用いても、短期間で劇的な回復を期待できないケースです。その場合に求められるのは、長く寄り添う医療です。

 

高齢者の治療には時間を要します。治癒を目指すのではなく、進行の抑制や苦痛のコントロールを目的とする治療を選択すべきケースも多くあります。

 

しかしながら、高度急性期・急性期病棟では入院日数が2週間を超えると、とたんに診療点数が切り下げられてしまいます。したがって、まだ治療を要する患者であっても、2週間という期限が来たら別の病院に移るよう勧めざるを得ません。時間的な制約があるため、患者にとって最適な治療ではなく、退院させるための治療を選択しなければならないこともあるのです。

患者を転院させた担当医に「追い出した」意識はない?

私が勤務する病院には、回復期病棟や療養病棟があります。そのため、急性期治療を行う病院から2週間という期限を理由に転院してくる患者が少なくありません。そんな患者や家族たちと話していると、「医師に追い出された」という言葉をしばしば耳にします。

 

これは医師としてとても胸が痛む言葉です。患者を転院させた担当医は、制度上仕方のない手続きを行っただけで、もちろん追い出した意識はないでしょう。ですから、まさか「追い出された」と言われているとは、考えたことすらないかもしれません。けれども、もしもそのことを知ったらどう思うでしょうか…。

 

「追い出された」!?
「追い出された」!?

 

患者の命を預かる医師には医学的にベストな判断が求められます。患者の容態や回復する速度はそれぞれ違うので、2週間ですべての患者が高度な治療をそれ以上必要としない状態になるわけがありません。むしろ高齢患者が増えているため、ゆっくり経過を観察しながら治療方針を変えていかなければならない患者のほうが、多いとすらいえます。

 

自らが担当した患者をそんな状態で別の病院に送り出すのは、医師にとって心苦しい選択です。医療には、治療を進める中でしか分からないことがあります。どのような治療に比較的よく反応するのか、患者が本当に望んでいるのはどのような治療なのかなどは、ベテラン医師でもなかなかすぐには把握できません。

 

2週間という期限を切られてしまうと、ようやく理解が進んだところで転院を求めることになります。もちろん、転院先に対して診療情報提供書を提供しますが、伝えられる情報には限りがあり、必要十分な情報を転院先の医師に伝達するのは不可能です。

 

患者側から見ても、日数制限は不合理です。急性期病院は長く入院すべき場所ではないとしても、せめて症状が落ち着いてからの退院でなければ不安は強く、医師への不信も募ります。「医師はベストな医療など目指していないのだ」と知れば、「裏切られた」と感じてしまうものです。

 

患者の事情に合わない制度が医療現場に導入されるのは、病院や患者のことを理解しきれていない人たちの手で制度設計がなされるためです。主に国の医療財源保持を最優先事項とする政府の姿勢により、QOLへの配慮が足りない医療制度の改変が進められているのです。

 

 

佐藤 雅司

医療法人南労会紀和病院

理事長

医療法人南労会紀和病院 理事長

1984年、奈良県立医科大学卒業後、同大の研修を経て紀和病院に30年間勤務。2011年、理事長に就任。呼吸器を中心に内科一般を診療。地域密着病院として、命の輝きを大切にする医療・介護を行うという理念と目標を掲げ、いつでも、どこでも、誰もが安心できる良い医療と福祉の実現を目指し、患者に寄り添いながら日々治療に当たっている。日本医師会認定産業医および社会医学系指導医。日本内科学会、日本職業・災害医学会、日本透析医学会所属。

著者紹介

連載過酷な職場環境で過労死寸前⁉ 現役理事長が語る「勤務医」のリアル

地方勤務医という選択

地方勤務医という選択

佐藤 雅司

幻冬舎メディアコンサルティング

都市部に多い大規模な急性期病院での勤務は激務といわれています。時間をかけて治療をすることで、患者のQOL(生活の質)を改善できると分かっていても、効率を最優先した治療を選ばざるを得ないケースも少なくないでしょう。 …

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