相続が発生してからの「相続税対策」は打つ手が限られますので、事前の対策が重要です。相続税専門の税理士法人チェスター監修の本連載では、具体的な相続税対策について分かりやすく解説していきます。今回は、夫が亡くなってから夫の両親との親族関係を終わらせる「姻族関係終了届」について詳しく解説します。

「自分が死んだときには夫の家の墓に入りたくない」

「姻族関係終了届」をご存知でしょうか。夫が亡くなった後で届け出ると、夫の両親(姑や舅)との親族関係を終わらせることができるものです。テレビや新聞などでは「死後離婚」と呼ばれることもあります。

 

価値観の違いや家庭内の暴行・虐待などから、離婚する夫婦は3組に1組の割合にのぼります。さらに、生前は何とか夫婦関係を保っても、夫が亡くなってから「姻族関係終了届」で夫の両親との親族関係を終わらせる人が増えています。

 

この記事では「姻族関係終了届」とはどのようなものか、提出した場合にどのようなメリットとデメリットがあるかについてお伝えします。

 

夫婦のどちらか一方が亡くなったとき、亡くなった人と残された配偶者の婚姻関係は終了します。しかし、亡くなった人の血族と残された配偶者の親族関係は継続します。「姻族関係終了届」は、亡くなった人の血族と配偶者の親族関係を終わらせることができる書類です。

 

これまで「姻族関係終了届」を提出した人やこれから提出を考えている人はほとんどが女性であることから、この記事では夫が死亡して妻が残された場合について説明します。妻には夫の両親の財産を相続する権利はなく、同居していなければ夫の両親を扶養する義務もありません。しかし、高齢者を中心に「嫁は両親の世話をするべきである」という考えが根強く、夫が亡くなった後でも妻が夫の両親の世話をさせられるのが実情です。

 

このほか、夫の両親や兄弟姉妹がお金を無心したり、生活に過剰に干渉したりといったことから、夫の実家との関係が悪化しているケースもあります。自分が死んだときには夫の家の墓に入りたくないという声も多く聞かれます。

 

そこで注目されているのが「姻族関係終了届」です。姻族関係終了届を提出すれば、夫の両親や兄弟姉妹との親族関係は終了します。届け出は市区町村役場に用紙を提出するだけでよく、夫の親族の同意は必要ありません。

 

相続の権利や遺族年金の受給に影響はないが…

姻族関係終了届を提出することには、次のようなメリット・デメリットがあります。

 

【「姻族関係終了届」のメリット】

・自分の意思だけで夫の親族との関係を断ち切ることができる

・相続の権利や遺族年金の受給に影響はない

・子供と夫の両親との血縁関係は保たれる

 

姻族関係終了届の提出には夫の親族の同意は必要なく、自分の意思だけで提出することができます。提出したことを親族に通知されることもありません。昔ながらの考え方から妻が夫の両親の世話をするケースが多いですが、法的に親族関係を断ち切ってしまえば扶養を強要されても対抗することができます。

 

姻族関係終了届を提出しても相続の権利や遺族年金の受給に影響はありません。生前に離婚すれば相続も遺族年金の受給もできないため混同されることが多いのですが、姻族関係終了届を提出したからといって相続した財産を返す必要はありません。遺族年金もそれまでどおり支給されます。

 

子供と夫の両親との血縁関係はそのまま保たれます。妻が夫の親族との関係を断ち切っても、子供にとって姑は「おばあちゃん」であり舅は「おじいちゃん」であることには変わりありません。夫の両親が亡くなったとき、子供は代襲相続で相続人となります。

 

【「姻族関係終了届」のデメリット】

・夫の親族から援助が受けられなくなる

・撤回ができない

・住居や墓を自分で用意しなければならない

 

姻族関係終了届を提出しても、法的な権利に関するデメリットはほぼありません。ただし、夫の親族との関係を一方的に断ち切った以上、子供の面倒を見てもらったり、経済的な援助を受けたりすることはできなくなります。夫が亡くなってから時間が経っていない場合は、法事をめぐってトラブルを招く可能性もあります。

 

姻族関係終了届は撤回することができず、改めて養子縁組をしないかぎり親族関係を復活させることはできません。引き返すことはできないため、提出するかどうかは慎重に判断したいものです。

 

住居や墓を自分で用意しなければならない点もデメリットの一つです。すでに別居している場合は心配ありませんが、夫の両親と同居している場合は新たな住まいを探す必要があります。ゆくゆくは自身が入るお墓も用意しなければなりません。ただし、近ごろは散骨や樹木葬など埋葬のスタイルも多様化していて、これまでのお墓の形式にこだわる必要は薄れつつあります。

 

「姻族関係終了届」を提出する際に必要な手続き

姻族関係終了届は家族関係に大きな影響を及ぼす割には簡単な手続きで済みます。

 

市区町村役場に提出するだけ姻族関係終了届は、本籍地または住所地の市区町村役場の窓口に提出して受理されれば手続きは終了します。夫の死亡届が提出された後であればいつでも提出でき、期限はありません(本籍地以外の市区町村に届け出る場合は、届出人と亡くなった人の戸籍謄本も必要です)。

 

提出するのに夫の親族の同意は必要なく、提出したことを夫の親族に通知されることもありません。提出後は戸籍に「親族との姻族関係終了届出」と記載されるだけで、姓や戸籍上の扱いは提出前と変わりません。

 

【戸籍を分ける方法】

妻が結婚前の姓に戻したい場合は「復氏(ふくうじ)届」を提出することで、結婚前の戸籍(実の両親の戸籍)に戻すことができます。復氏届では新たに自分の戸籍を作ることもできます。いずれの場合も子供の姓は変わらないため、親子で姓が異なることになります。

 

子供を自分の戸籍に入れたい場合は、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出して許可を得て、市区町村役場に「入籍届」を提出する必要があります。

 

これらの手続きで子供の籍を抜いても、子供にとって夫の両親は祖母・祖父であることには変わりなく、相続権を失うことはありません。

 

「姻族関係終了届」は、夫が死亡した後で夫の両親や兄弟姉妹との親族関係を終了させることができるものです。制度上は妻が死亡した後で夫が提出することもできますが、実際は妻が提出することがほとんどです。姻族関係終了届を提出しても相続財産を返す必要はなく、遺族年金もそれまでどおり受けられます。

 

デメリットはほとんどありませんが、今後の人間関係に影響を及ぼす可能性はあります。撤回はできないので、提出するかどうかは慎重に判断しましょう。具体的な手続きや個別のケースについてのメリット・デメリットについては、司法書士や行政書士に相談するとよいでしょう。また、家族関係に大きな影響を及ぼすことから、実家もしくは友人・知人、夫婦問題を扱う相談機関などに相談できるようにしておくことも大切です。

 

税理士法人チェスター

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    本連載は、税理士法人チェスターが運営する「税理士が教える相続税の知識」内の記事を転載・再編集したものです。

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