アマゾン「地球上で最大の品揃え」を実現しているワケ
本記事では、アマゾンが多くの顧客の生活になくてはならないサービスとなり得ている「強み」の1つ、品揃えを支える「マーケットプレイス」について、マーケットプレイスを統括する元事業本部長があげるいくつかのポイントをチェックしていきたい。
◆「マーケットプレイス」へのシフト
アマゾンジャパンの2018年のマーケットプレイス流通総額は9000億円を超えている※1。そして、各メディアなどの推計によると、アマゾン直販部隊の売上とマーケットプレイスの販売事業者による売上を含めた流通総額は、およそ2.4~2.7兆円程度である※2。
※1…2018年6月20日 アマゾンジャパン 中小企業インパクトレポート
※2…2019年5月16日 ECCLab2018年EC流通総額ランキング、2019年2月16日 ネットショップ担当者フォーラム
アマゾンジャパンの品揃えはおよそ数億点であるが、商品数のみの割合からするとほとんどはマーケットプレイスでの出品である。アマゾンが標榜(ひょうぼう)する「地球上で最大の品揃え」は、マーケットプレイスの成功と成長が支えている。とはいえ、アマゾンを利用する顧客が「アマゾンではなくマーケットプレイスから買っている」と意識することはあまりない。
マーケットプレイスに出品する多くの販売事業者が「FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)」と呼ばれる在庫配送代行サービスを利用している。顧客にしてみれば、アマゾンのサイトで購入した商品は、アマゾン直販品と同じ箱に入って同じ配送スピード、品質で、さらに配送料は無料で届けられる。
第三者が出品するマーケットプレイスのサービスを開始する当初、アマゾンにとっての懸念は、アマゾンの矜持(きょうじ)である配送品質や低価格の維持をコントロールできないという点にあった。でも、販売事業者がFBAを利用しやすくすることや、シングルディテールページによる販売者間の価格競争の明確化によって、マーケットプレイス全体のサービスレベルの向上を果たしている。現状で満足することなく、「基準」を引き上げることにより実現したことだ。
さらに、マーケットプレイスからアマゾンが得る収益は定額の出品料や、販売取引ごとにおおむね8~15%※3程度の手数料である。アマゾンが直接仕入れて販売する場合、たとえば10%の粗利を確保することが簡単ではない商品であったとして、マーケットプレイスなら価格設定をするのは販売事業者であり、アマゾンは販売事業者の利益率には関係なく手数料を得ることができるのである。
※3…Amazon出品サービス料金プラン
その価格設定であるが、アマゾン直販商品は競合他社と価格を合わせているので安価、要はコントロールできているが、販売事業者の商品の価格を法律上アマゾンがコントロールすることはできない。
販売事業者同士が競争し合って価格が適切になる自然最適化作用に加えて、販売事業者が出品管理をする「セラーセントラル」というシステムツールには競合他社の価格に合わせた販売推奨価格が出てくる。
もちろん、販売事業者がこの価格に合わせるかどうかの保証はないが、アマゾンはできる限りの施策でアマゾン全体、すなわちアマゾン直販だろうが、マーケットプレイスにおける出品者だろうが、顧客が価格や配送スピードに差を感じないように「基準」を引き上げる仕組みを作り上げている。
需要が高い重要商品はアマゾンが直販し、ロングテール商品はマーケットプレイスで拡充する。もちろん、マーケットプレイスでの商品についても、価格、配送、返品、カスタマーサービスなどはアマゾン品質をキープする。
このアマゾン直販とマーケットプレイスのハイブリッド方式を顧客に提供できるのが、アマゾンの大きな強みになっている。これが、たとえば楽天は100%マーケットプレイス同様の第三者による販売であり、逆に大手量販店などのEコマースサイトはほぼ100%が直販だ。
アマゾンは顧客の需要が高い商品は、直販部隊が仕入れ、在庫管理をし、適正価格を維持することで、顧客の大きな信頼を得る。その信頼がマーケットプレイスにも広がり、第三者である販売事業者が、直販だけではとてもカバーすることができない品数を出品することで、顧客に「品揃え」という利便性を提供し売り上げも上げている。顧客、販売事業者、アマゾンのWin-Win-Winな関係なのである。
ブランドオーナーとの関係強化で「悪質販売」を防ぐ
◆模倣品と独禁法への対策
最近、ことにアメリカでは「ブランドオーナー※4」と呼ばれる、ブランドを保有するメーカーなどだけがアマゾンの小売直販部門と直接取引を行い、重要商品のみを直販に供給、それ以外はマーケットプレイスでの販売に切り替えていくというアナウンスがされている。ブランドオーナーは他の業者による自社製品のマーケットプレイス出品商品を常にチェックして、模倣品などを駆除するパトロール権限ももっているようだ。
※4…Amazon Brand Registry-https://brandservices.amazon.co.jp
悪質な販売事業者による模倣品の出品増加は、アマゾンが推進してきた品揃え拡大戦略、マーケットプレイス成長戦略のネガティブな副産物だった。アマゾンとしてもすでにマーケットプレイスに入り込んでしまっている悪質業者を排除し、さらに新規登録できない仕組みの強化を進めているが、ブランドオーナーとの関係強化は、模倣品対策としても有効だ。
模倣品というと、中国の販売事業者の存在を想起する方も多いだろう。アマゾンジャパンのマーケットプレイスには中国の販売事業者の出品が多いし、もちろんそのほとんどは良質な販売事業者で顧客に素晴らしい品揃えと低価格な商品の購入機会を提供している。とはいえ、素性の悪い業者が混在していることは否めない。
実のところ、アマゾンが対策を打っても、さらに裏をかいてくる悪徳事業者とのいたちごっこが続いており、模倣品、違法商品、不良品を100%排除するには至っていない。AIを駆使して自動的に悪徳と思わしき事業者の出品凍結をしてはいるものの、良質な事業者も含まれてしまうミスも発生し、事業者コミュニティーの不満の温床になることもある。
加えて、最近は「サクラレビュー」も散見され、出品したばかりの商品に数百もの★評価5のレビューが並ぶことも珍しくない。なかには、高い評価のレビューを書いてもらう見返りに顧客に商品代金を返金するという中国販売事業者からのアプローチもある。
このマーケットプレイスの闇は広がり、深くなっており、アマゾンが抜本的な対策を行わないと、永年築き上げてきた顧客、そして良質な販売事業者からの信頼を失う大きなリスクとなっている。アマゾンの顧客中心主義を貫く幹部社員がきちんと現状把握をして、大鉈を振るう対策をとることに期待している。
課題は模倣品対策だけではない。独禁法の観点から、アマゾンがマーケットプレイスに出品する販売事業者に対して、他のEコマースサイトに出品しているものとの「価格同等性」を求めることはできない。その結果、たとえば、中国から海外顧客向けのEコマースサイトであるAliExpress(アリエクスプレス)で販売されている商品が、アマゾンのマーケットプレイスに何倍もの価格で出品されているようなケースも残念ながら存在している。
実際のところ、マーケットプレイス出品者に対して「価格同等性」を求めることは米国などでは問題はない。アマゾンジャパンでも当初は米国と同様に、他販売チャネルとの「価格同等性」を求める規約を採っていた。アマゾンで顧客が購入する商品の価格が常に最適である状態にするためである。しかし、日本は、アマゾンが急成長を遂げる中で公正取引委員会から指摘されて中止した経緯がある※5。
※5…2017年6月1日 公正取引委員会-アマゾンジャパン合同会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について
アマゾンのビジネスモデルは原則として世界共通ではあるが、展開する各国の事情が少なからず影響することは避けられず、顧客の利便性を訴求しながらもアマゾンが各国の事情、法律に則って正しいビジネスを実践していることを示す事例といえる。
◆amazonマーケットプレイスを利用した販売事業者によるビジネスの拡大
アマゾンジャパンでマーケットプレイスのサービスが始まったのは2002年。今ではグローバルの流通総額の58%をマーケットプレイスでの売上※6が占めるまでになっている。ジェフ・ゾベスが2016年度の年次決算報告書(アニュアルレポート)で、プライム、AWS、マーケットプレイスという三つの戦略を最重要視していると明言したことは、書籍『amazonの絶対思考』に詳しい。今後もますますマーケットプレイスの拡充が進んでいくだろう。
※6…『amazonの絶対思考』21ページ 決算報告書からグローバル、セグメント毎の売上額、成長率、経費率&利益率 推移表
販売事業者がマーケットプレイスを選択するのは、相応の魅力や利便性があるからだ。新規事業者の登録方法、「セラーセントラル」と呼ばれる販売管理ツールの機能や利便性、配送代行サービスである「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」の提供や「アマゾンレンディング」と呼ばれている運転資金の融資システム、さらには販売事業者の海外進出サポートである「グローバルセリング」や「スポンサープロダクト」などの低コストで販売に結びつく広告システムなど、販売事業者へのフォローは手厚い。
販売事業者にとっての利便性やメリットはどんどん大きくなっており、アマゾンが独自にイノベーションを積み重ねてきたサービスの完成度は高い。
マーケットプレイスへの出品は中小企業が多いのだが、実は大手小売事業者の出品も多くある。日本での例を挙げると、成城石井や高島屋、ビックカメラや上新電機といった企業がマーケットプレイスに出品、たくさんの商品を販売している。
アマゾンを競合と捉える一方、自社ではアプローチできないアマゾンの顧客セグメントへの販売、最先端のEコマースの実践的な経験とノウハウの取得などを目的とし、アマゾンを上手く利用しながら販売を継続している。もちろん、アマゾンは競合なので絶対に出品しないという頑(かたく)なな会社があることも事実である。
出品をしている販売事業者の立場からすると、楽天市場のようなショッピングモール内にストアを保有する出店形式ではないため、マーケティングEメールなどで自社ストアに顧客を誘導し販売することができない。
あくまでも商品一点一点の出品で、シングルディテールページによりアマゾン直販部隊を含めた他出品者と価格などで競合しなければならないので、販売拡大には価格、納期などのファンダメンタルな点を強化しなければならない。加えて他社が販売していないユニーク(唯一)商品の拡大を強化し販売拡大を模索していく必要がある。
ただ私は、amazonマーケットプレイスを利用し、見事復活したシャッター商店街の小さな店舗、投資リスクもなく海外販売展開に成功した個人事業主、amazonの配送代行サービス(FBA)を利用し、夜な夜な出荷作業をしていたところから脱出、従業員のモチベーションアップにつながった会社、アマゾンからスピーディーな運転資金融資を受け事業拡大に成功した中小企業など、成功例をこの目でいくつも見ている。アマゾンを使いこなすのも経営者の判断ではあるが、事業拡大の1つの方法であると考える。
星 健一
kenhoshi & Company 代表