大袈裟すぎないか?「AIに仕事を奪われる」、銀行業の実際は

日銀のマイナス金利、メガバンクの人員削減、相次ぐ地方銀行の統合など、銀行業界は今未曾有の転換期に直面しています。人手不足も進むなか、どのように「AI時代」を生き残っていくのでしょうか。金融業務向け人工知能開発、ブロックチェーンを活用したインフラ構築ビジネスを展開する、株式会社オメガ・パートナーズの長谷川貴博代表取締役社長が解説します。

産業革命時だって「仕事が奪われる」と騒いでいた

銀行を取り巻く状況も変化していますし、海外ではすでに銀行自体が変化しています。日本の銀行員も自ずと変化を求められるようになると考えられます。

 

一方で、市場経済が続く限りは金融業、特に銀行の重要性がなくなることはありません。銀行業務の知識を有する人の必要性も、もちろんなくなりません。それゆえ、今銀行で働いている人やこれから就職したいと考えている人の未来は決して暗くはないのです。

 

とはいえ、AI時代にも必要とされ続ける人材になるためには、どのような能力が必要なのでしょうか。すでにAI導入が進んでいるアメリカの金融機関で働く人たちの人物像などを参考にしながら、AI時代の銀行員の姿を考察していきます。

 

◆そもそもAIに職業を奪われるのか

 

技術の発展で職業がなくなるということは、昔からありました。産業革命のときには、職を奪われた人たちが機械打ち壊しの暴動を起こしたこともあったほどです。しかし、産業革命によって新しい職業が生まれ、職を失った人たちは次々と新しい職業に移っていくこととなりました。最近でも同じようなことが起こっています。

 

数十年前までは電話交換手という職業がありました。昔は発話者が交換台に電話をかけて交換手に宛先を知らせると、交換手がケーブルを手でつなぎ替えていたのです。今は自動交換機が普及したため、社内やホテル内などの内線を切り替える交換手がわずかに残っているとはいえ、ほとんど見かけなくなってしまいました。銀行でもオンライン化する前は、保管書類をマイクロフィルムに撮影して管理する仕事がありました。キーパンチャーもいました。

 

これらの職業はほとんどなくなりましたが、みなほかの部署に異動するなどしており、職を失うようなことにはなっていません。このように、さまざまな仕事が人間の手から離れ、機械によって代替されるということが、過去に何度もありました。

 

人の仕事がAIで代替されることは十分あり得ます。しかし、その都度今までにない新しい仕事が生まれて、仕事を失った人はそちらに移っていったのです。

 

◆どのような職業がいいのか

 

野村総合研究所は、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究を実施しました。そして、国内601の職業のうち49%がAIで代替できるという衝撃的な結論を発表しました。

 

代替可能性が高い職業は、一般事務員、受付係、銀行窓口係、警備員、人事係事務員などです。逆に代替可能性が低いのは、経営コンサルタント、商品開発部員、中小企業診断士などです。

 

同調査によって明らかになった一般的な傾向は、次の通りです。

 

この研究結果において、芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい傾向があります。

 

一方、必ずしも特別な知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い傾向が確認できました(2015年12月2日付の野村総合研究所のニュースリリース「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~」より)。一言でまとめると「機械ができることは機械に、人間にしかできないことは人間に」ということです。

 

銀行業務には、代替できる可能性が高い「データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業」に該当するものが多いように思われます。海外でAIでの代替が進んでいるファンドマネージャーやトレーダー、あるいは融資担当者などは、まさに該当することが大いに考えられます。

 

仕事がAIで代替されることは十分あり得るが…
仕事がAIで代替されることは十分あり得るが…

「人手不足×働き方改革」出口の見えない日本社会

◆日本では人手不足が深刻

 

「AIに仕事を奪われる」という面だけが強調されていますが、そもそも銀行業務の現場では、人手は十分に足りているのでしょうか。

 

最近では減少傾向にあるATMですが、昔はATMが増えて、窓口に人がいらなくなるという人もいました。しかし、銀行の支店を見ていると、みな忙しそうに働いています。コールセンターもAIによる効率化を進めていますが、今のところ電話のつながりにくさは解消されていないようです。実際には銀行の現場は慢性的な人手不足なのです。

 

少子化が深刻化しているのに、女性や高齢者の活用がまだまだ進んでいないため、労働人口がどんどん減っています。2017年5月の有効求人倍率は1.49倍で、これは1990年7月に記録したバブル期の最高値1.6倍を上回る、43年ぶりの数値だそうです。

 

少子高齢化は今後も続くでしょう。このまま生産年齢人口を「15~64歳の人口」のままで変更しなければ、2010年で8000万人だったのが、2030年には6700万人になると予測されています。20年で1300万人もの労働人口が失われるということです。

 

ですから、銀行の支店が2人体制になるというよりは、2人体制でやらないと間に合わないというほうがより正確です。メガバンクでは支店の統廃合が進みましたが、営業も事務も人が足りず、昔と比べると1人で3人分ぐらいの仕事をこなしているというのが実感ではないでしょうか。

 

そのうえ、「働き方改革」で長時間労働や休日出勤ができない方向に進んでいます。時間短縮が実現されるのは喜ばしいことですが、サービス残業や自宅持ち帰りで仕事をこなしている人が、もしいるのだとすれば本末転倒です。

 

人も時間も足りないと悩み、憂鬱(ゆううつ)になっている人のほうがむしろ多いのではないでしょうか。人手不足だからといって、単純に雇用を増やしたり、オフショアで対応したりするのも良策ではないようです。

 

日本の金融機関は一時期、中国にコールセンターをアウトソーシングしていました。結局、日本語が通じないというクレームがあり、今はほとんど撤退しています。そこで現在では、国内の比較的人件費の安い地方にコールセンターを置いていますが、銀行のコールセンターは金融の業務知識も必要なので、まったくの素人で賄うのは難しいと考えられます。

 

業務によっては、カードの紛失対応など24時間365日の対応が求められるものもあります。こうした業務は交代制にする必要があり、その分だけ人数も必要です。

 

コールセンターの要員を集めるのは実に大変です。少子高齢化による労働人口不足を解消し、「働き方改革」にも対応できて、しかも24時間365日働いてもらえるとなると、AI活用以外に手があるでしょうか。このように考えると、日本の銀行におけるAI活用は人手不足を解消し、時間短縮を実現し、さらにやりがいのある仕事に集中できるようになるといった、大いにプラス面のあることだといっていいでしょう。

 

◆アメリカでは儲かるからAI活用

 

海外の金融マンやAI技術者と情報交換していて思うことは、日本ほどAIで騒いでいる国は珍しいということです。

 

日本では、やや「SFチック」と感じるほど、AIで世の中が大きく変わるイメージがあるようですが、アメリカの金融関係の人たちは「便利な道具が一つ増えた」くらいの感覚のようです。

 

レイ・カーツワイル(『シンギュラリティは近い』で知られる、グーグルのAI開発の総責任者)のように、それこそSFとしか思えない未来予測をする人もいますが、多くの人はいたって冷静です。それよりもどうやってAIをビジネスに応用するのがいいかを常に考えています。

 

またアメリカでは、人手不足を補うためにAIを活用しようという考えもあまりないようです。コールセンターにしても、アメリカには英語を話せる移民がたくさんいるので、人手不足にはなりません。出生率も日本ほど低くはなく、2015年で女性1人あたりの出生率は1.84人でした(2009年までは2.00人以上だったので、減少傾向にはありますが)。

 

アメリカはまだしばらくは、労働人口が十分にあるものと考えられます。では、アメリカにおいてAIが、日本などよりもはるかに活用されているのはなぜでしょうか。

 

それは、コストダウンを実現しながら、競争力も強化でき、結果として高収益高利益につながるからです。つまり儲かるからAIを導入しているのです。実にシンプルです。

 

これまで銀行や投資会社は、トレーダーやファンドマネージャーに、もちろん成績に応じてですが、高い報酬を支払ってきました。ところが、リーマン・ショックなどの金融危機や世界的なテロの頻発、あるいは大規模な自然災害の多発などが原因で経済情勢が読みにくくなり、運用成績が芳しくなくなってきました。

 

金融マーケットを人為的に操作したり、過度なレバレッジをかけた取引をしたりすることが強く非難されるようになり、規制も強くなりました。不正行為への制裁金も天文学的数字になりました。

 

こうなると、額は小さくても確実な利益を積み重ねるほうが有利な戦略となります。そこで人間のベテラントレーダーよりも、ロボットトレーダーが重宝されるようになりました。

 

運用成績も比較的良く、その状態を高い確率で維持してくれます。なによりもいいのは、報酬を求めないことです。よその給料のほうがいいからと転職することもありません。クビにしたければ別のプログラムと入れ替えるだけです。ボーナスや名声に目がくらんで不正を犯すこともありません。

 

日本とアメリカの国民性の違いもあります。日本では、投資よりも貯蓄が資産運用の主流です。投資信託を購入する人も増えてきましたが、ハイリスク・ハイリターンのファンドよりも安定的なファンドに人気があります。

 

一方、アメリカ人はリスクを取ることに比較的寛容であり、また投資に対する自己責任の文化も根付いています。したがって、ファンドの運用成績が悪いとすぐに資金を引き揚げて、別のファンドに移ります。そこは結果重視です。

 

日本人は、結果ももちろんですが、ファンドマネージャーや営業担当者の人柄も重視します。気に入ったトレーダーやファンドマネージャーを長期的に支援しようとします。トレーダーがロボットに代わったと聞けば、がっかりして別のファンドに移る人さえいるかもしれません。

 

日本ではロボットトレーダーを開発している人自体も少なく、海外と比較するといいプログラムが少ないという事情もありますが、そもそも欧米ほど投資が普及しておらず、投資信託に関しても、ファンドマネージャーや営業担当者の人間的な信頼を重視するので、なかなかロボットトレーダーへの移行が進みません。

 

しかし、日本でもスマートフォンのロボットアドバイザーの提案で投資信託を始める人たちが今後増えていくでしょうから、ロボットトレーダーやAIファンドマネージャーも増えていくと予想できます。

株式会社オメガ・パートナーズ 代表取締役社長

東北大学大学院理学研究科数学専攻修了、京都大学MBA(金融工学コース)修了。
大学院修了後、富士通株式会社に入社。
金融システム・エンジニアとして、銀行勘定系システム開発プロジェクト、および証券取引システム開発プロジェクトに参画。
その後、みずほフィナンシャルグループのクオンツ・アナリストに転身し、デリバティブ・ビジネスやリスク管理業務に従事。
株式会社Sound-Fの金融工学部門のマネージャーを経て2015年から現職。
近年では高度市場系金融システム開発プロジェクトへの参画や、金融業務向け人工知能開発、
ブロックチェーンを活用したインフラ構築ビジネスに従事している。

著者紹介

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長谷川 貴博

幻冬舎メディアコンサルティング

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