中小企業の人材不足が深刻化しています。2018年上半期における「人材不足倒産」の件数は3年連続で前年同期を上回り、2013年1月の調査開始以降の半期ベースでも最多を記録しました。グローバル化も進むなか、中小、特に「製造業」が抱えている根本的な問題とは、一体何でしょうか。ASAKビジネスコンサルティング株式会社・浅岡和彦代表取締役が解説します。

若者の「大手志向」が加速し人材獲得がますます困難に

製造業が減り続ける原因の一つに人材不足の問題があります。私の顧問先である中小製造業でも人材不足は深刻な問題となっています。

 

若者たちは、製造業や中小企業を選ばなくなってきています。世界的にも有名な大手自動車メーカーならいざしらず、中小製造業となると、いざ就職となった時に選択肢に入ることは少ないのではないでしょうか。

 

また、現在では先行き不透明な経済情勢によって、大手やブランド志向の若者が随分増えています。大手だからといって終身雇用や昇給、ボーナスが約束されている時代でもないので完全に安心できるわけではありませんが、それでも中小企業よりは経営状態も収入も安定しており、リスクは少ないと安直に考えてしまいます。

 

また、仕事とプライベートを切り分けて考える若者も増えており、福利厚生施設がなるべく整っている大手の方がライフワークバランスを保てるのではないかという意識も働いているようです。

 

そこにアベノミクス効果も手伝っています。円安を追い風に、輸出型製造業を中心とする大手企業の収益は上向きです。給与も上がってきていますし、一時の就職氷河期に比べれば就職事情もかなり持ち直してきています。採用人数も増えて、今なら自分でも大手に就職できるチャンスがあるのではないかと考え、大手志向になっている若者も増えています。

 

また、地方では若者だけでなくパートも集まりづらくなっています。昔は選択肢が少なかったこともありますが、主婦などの女性が製造業の工場でパートとして働く姿も多く見られたもので、大事な戦力として重宝されていました。しかし、最近では地方にも大型のショッピングモールなどができて、新たな雇用が創出され、職場の選択肢が一気に増えています。

 

ショッピングセンターでの仕事は工場と比べれば綺麗に感じます。空調の効いた中で働き、仕事終わりには夕食の買い物なども済ませられるので女性にとっては都合の良い職場であることは間違いありません。

 

実際にある会社では、主婦の方々なども集まってくれるだろうと人手を計算して岐阜に工場を建てたものの、直後に大きなショッピングモールができてしまい全く集まらず誤算だったという話も聞きます。

 

若者にも主婦にも製造業が選ばれにくくなってくれば、廃業の道を選びたくなるのも仕方のないことかもしれません。私もある自動車関係の中小製造業の現場を見にいかせてもらったことがありますが、そこで働いているのは日本の若者ではなく、東南アジアから出稼ぎに来ている外国人でした。日本人は管理監督をする立場の2人だけで、あとはすべて外国から来た研修生だったのです。

 

しかもその研修も3年程度で終わってしまうので入れ替わり立ち替わりという状態で、人材難がかなり深刻である事実を目の当たりにしました。

 

人材獲得がますます困難に
人材獲得がますます困難に

グローバル競争に負け続ける日本の中小製造業

グローバル化の進展が中小製造業に与える影響も無視できません。特に近年急速に成長を遂げているアジア諸国や新興国とのシェア争いは激化しています。中国や韓国は今に始まったことではありませんが、インドやインドネシア、ベトナムなども高い経済成長率を維持し、アジア市場での存在感を増してきています。

 

もちろん、市場が縮小している日本にとってはそういったアジア市場で売上げを伸ばすことも必要ですが、その競争でも厳しい面があります。というのも、日本は長らく技術を売りにしてきましたが、これから豊かになっていく新興国というのは、実は技術よりも価格を重視する傾向にあるからです。

 

とりあえず家電が欲しい、移動手段が欲しいということになった時に、高性能や高機能であることは重視されません。それよりも安くて手軽なものがまず欲しいと考えるため、日本製品の品質が良くても、より安い韓国や中国の製品にコスト面で負けてしまうのです。

 

さらには、為替が円高にシフトしてから、日本の製造業は生産コストを減少させるため、人件費の安い海外へと拠点を移しました。それによって国内受注を減少させ産業の空洞化を招きました。

 

例えば海外に拠点を移した場合、そこで何らかの部品が必要となった時に、現地で調達するか日本から取り寄せるかと選択を迫られるようになります。当然現地で調達した方が輸送コストはかかりませんし量を確保できますから、それほどの品質を求めないのであれば現地での調達を優先します。結果的に、品質でよほど優れている部品以外の国内受注は激減しました。

 

実際に2015年のアジア開発銀行のリポートによると、電子通信機器や医療機器などのハイテク製品の輸出において、中国のシェアが2000年から2014年の間に9.4%から43.7%へと拡大する半面、日本は25.5%から7.7%へとシェアを落とすことになってしまいました。

 

海外に追従できた中小製造業は、国内で失った受注を現地生産で補い、場合によっては拡大してきましたが、新興国の生産レベルの向上により、すでに競争時代に突入しており、予断を許しません。

 

また、国内に残った企業は、従前の製品を作り続けていてはジリ貧に陥るのは明白で、さらに品質の高い高付加価値製品にシフトするか、別な業界での潜在的需要を探り、新たな市場を創造していくことが急務です。

 

グローバル化が進展する中、海外へ進出しても、国内に残ってもより過酷な生存競争に勝ち残れないと廃業へと追い込まれてしまっているのです。

日本全体の「技術力」が中小企業の廃業で失われていく

日本の製造業はこれまで世界にその品質を誇ってきました。その力を支えてきたのが熟練社員の保有する技術力です。今、多くの中小製造業が廃業する中、日本が大切にしなければならないその技術が失われつつあるのです。

 

例えば小さなネジ一本であろうと、精緻に作られたその部品がなければ、完成した製品の性能が十分に発揮できないということが生じます。中小製造業が廃業すれば、その製品を必要とする川下の企業の多くが自社製品の品質を落としてしまうことになりかねません。

 

コスト力では新興国に負けていても、日本製品には高い信頼性があります。その品質すら失ってしまわないためにも、中小製造業が果たす役割は大きいということを認識しなければなりません。

 

製造業には、その現場ごとに固有のものづくり技術があります。その技術力はデータやしくみで保たれているわけではなく、熟練の社員の経験や勘に裏打ちされたものでもあり、廃業するからといって簡単に同業他社が引き継ぐというわけにはいきません。

 

例えば樹脂成型の工場では、樹脂を金型に流し込んで製品を作ります。その際、材料の流動性の問題で成形品に気泡や割れができたり、バリやひずみができてしまうことがあります。樹脂は微妙な温度変化に左右されるため、気温や流し込む金型の温度調節によって、製品にばらつきができてしまいます。

 

技術者は長年の勘に基づき、季節や工場の環境にあわせて金型の温度変化を敏感に察知し、流し込む樹脂を調整することで、製品の質を保っているのです。そういった技術は文書やマニュアルにもできないような技術です。誰もが簡単にできるものではありません。

 

同じように製品を作っても、出来上がりにばらつきが起き不良率が上がります。製品自体は同じように作れても、不良率が上がれば製造コストが途端に跳ね上がってしまい、それは販売額にも反映されます。

 

こうした連鎖が続けば、日本製品はますますコスト競争力を失ってしまいます。中小製造業が廃業へと追い込まれれば、その中小製造業に眠るそれ以外の技術もすべて継承する機会がなくなり消えていってしまいます。それは一企業だけの問題に留まらず、日本の製造業の未来をも揺るがす問題なのです。

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