日本「先進国最低レベルの歯並び」と「健康」の意外な関係性

矯正歯科専門医の宮島悠旗氏は、書籍『国際人になりたければ英語力より歯を“磨け”』(幻冬舎MC)にて、「日本人の歯並びの悪さは、先進国では最低レベル」と指摘しています。「きれいな歯並び」は、すでに国際的なマナーになっていますが、欧米をはじめとした諸外国の人は、何も「身だしなみを良くするため」だけに矯正をしているわけではありません。歯並びの悪さは、身体全体の健康と密接に関わっているのです。

「歯並びの良しあし」は仕事のパフォーマンスにも直結

私のもとへ「歯並びを治したい」と治療に訪れる人たちは、「歯並びの悪さを見られている気がして、人前で思いきり笑えない」とか、友だちに「八重歯はもう古いよと言われた」「歯が重なって生えている部分が黒ずんで見える」などなど、矯正歯科治療をすることで外見上の悩みを解消したいと思って来る人が大多数です。今の時代、美しい歯並びは国際レベルで不可欠な身だしなみになっていますから、外見を気にして矯正歯科治療を受けようと思う人が多いのは当然のことでしょう。

 

しかしながら、歯並びを整える矯正歯科治療の重要性は「外見」だけにとどまりません。歯並びが悪いことは、全身の健康に悪影響を及ぼします。健康が害されれば、もっている力を存分に発揮することなど不可能です。

 

ちょっとした腹痛や頭痛があったために、思うように仕事がはかどらなかった経験のある人も少なくないでしょう。実際に体調不良になると、たとえ出勤していても生産性(仕事のパフォーマンス)が著しく低下するということが、研究によって明らかになっています。歯並びが悪いことにより、連鎖的に起こり得る身体への悪影響をいくつか紹介します。

 

1.歯そのものの寿命を縮める

 

歯並びが一列に整っていないと、どうしても歯ブラシの届かない部分が出てきます。歯と歯が重なるなどしてブラッシングが行き届かない場所は、バイ菌がたまりやすい虫歯の温床です。また、その部分だけ歯周病が進行することにもなります。

 

正しい歯並びの噛み合わせは、上顎と下顎を閉じた時、左右の顎関節に均等な力を加えるようにできています。歯並びが悪いとその力が不均等になり、一部の歯に噛む力が集中し、歯が欠けたり、歯周病が進行する咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)の原因になり、歯の寿命を縮めます。

 

食べ物もきちんと噛めなくなってしまいます。また、きちんと噛めない人ほど、食べ物を噛む回数は少なくなる傾向があります。そして噛む回数が少ないと唾液の分泌量が減り、歯垢がたまってさらに虫歯や歯周病になりやすくなります。唾液には口内の細菌を殺してくれる役割があるからです。

 

2.顎関節に痛みが生じる、口が開きにくくなる、口を開け閉めすると顎の関節から音がするという顎関節症(がくかんせつしょう)になりやすくなる

 

歯並びが悪いと噛み合わせも悪く、顎関節に加わる力が不均等になりますから、左右どちらか一方に負担がかかって顎関節を傷めやすくなります。特に噛み合わせが深すぎる(過蓋咬合)人の場合、顎関節症になりやすいのが問題です。噛み合いすぎた前歯によって顎関節の動きに制限がかかり、その状態のまま長年過ごした結果、強い痛みを伴う顎関節症になり、口を開ける時に痛みを感じ、小さな音がするようになった例もあります。

 

また成長期以前では、顎骨や顎関節の発達そのものに影響を及ぼします。それが原因でますます噛み合わせが悪くなり、顎や口元がゆがんで、顔全体が左右対称に成長できない可能性も出てきます。

 

3.咀嚼が不充分になって胃腸痛や胃腸炎を引き起こす

 

噛み合わせの悪い歯で食べ物を咀嚼すると、充分に噛み砕かれていない状態のまま食べ物を飲み込んでしまいがちです。噛み合わせが悪くて一部分の歯でしかものを噛めないのなら、その分、何度も噛まなければ食べ物は細かく噛み砕くことができませんが、そういう状態の人ほどあまり噛まずに食べ物を飲み込んでしまう傾向があります。

 

それは当然、消化器官にも悪影響を及ぼします。食べ物をよく噛まず、大きめの固まりのまま胃腸に送り出すのですから、それを消化・吸収するための負担が胃腸にかかってしまいます。こうしたことから、歯並びが悪いせいで胃腸痛や胃腸炎などを引き起こす例は少なくありません。消化器はほかにもさまざまな症状や、もっと重症で治療困難な病気を招く可能性のある重要な器官です。歯並びが悪いことによって長年の負担が続かないよう、気をつけたいものです。

 

育ちすら疑われてしまう
歯並びが悪いと……

歯並びが悪いと「偏頭痛」や「首・肩コリ」まで起こる

4.口呼吸はドライマウスや口臭の原因になる、歯が変色する

 

歯並びが悪くて口を閉じにくい人は、口を開けている状態が楽なのでそれがクセになります。「唇が少し離れているぐらいなら問題無いだろう」と思うかもしれませんが、人間の口はもともと、無意識の時は閉じているのが正常です。

 

つねに口が開いている状態だと、鼻ではなく、口で呼吸するようになることがよくあります。口呼吸は空気中のバイ菌や浮遊物が口から直接入ってくるため、風邪などの感染する病気やアレルギー疾患にかかりやすくなります。

 

また、口を開けていると口内が乾きます。唾液には抗菌作用や免疫力があるのですが、それが乾いてしまうことによって免疫力も低下します。口の中が乾いて、いわゆるドライマウスになると、口臭が増してコミュニケーションの妨げになります。これも抗菌作用をもつ唾液が減ったことによるものです。それによって歯の表面の色がまばらに白く変色します。

 

5.偏頭痛や首・肩のコリ、腰痛を起こす

 

歯並びが偏頭痛や首・肩のコリ、さらに身体のずっと下方の腰痛にも関係すると話すと、ほとんどの患者さんは意外そうな顔をして「そうなんですか?」と聞き返します。それらの症状が長い間ずっと続いていて、原因がわからずに諦めてきた人も多いようです。

 

歯を支えている歯根と歯槽骨の間に「歯根膜」という組織があります。歯根膜は血液やリンパ液など全身を流れる体液の作用にも関与していて、自律神経にもつながっています。

 

歯の中心にある歯髄腔と呼ばれる部屋の様になっている部分には、歯根の先端から歯根膜を通過して血管と神経が入ってきていて、顎の骨と繋がっています。歯1本1本の血管と神経には、歯が成長するために栄養を与える役割がありますが、脳とも繋がっているので、歯に噛む力がかかっているのを歯根膜が感じ取り、脳に信号を送っているのです。

 

ですから、正しい噛み合わせで噛めていれば脳の血流を良くする効果がありますし、噛み合わせが悪くて正しく噛めていないと、頭痛の原因になることもあるのです。

 

歯並びが悪いと噛み合わせも悪くなります。その状態のままでも「できるだけ、ちゃんと噛んで食事しよう」と心がけるのはいいことです。けれど、きちんと噛もうとするうちに下顎の位置がずれてくることがあります。

 

下顎がずれると、頭の部分の重心もずれることになり、連鎖的に全身のバランスが悪くなり、いたるところに不調が現れることになります。特に、歯並びのせいで普段から口を閉じにくい人、ものを食べる時左右どちらか一方の歯で噛んでいる人、ものを強く噛むと「ポキポキ」「カクカク」と音が鳴るような人は、食事のたび、下顎がずれているかもしれないので気をつけてください。

 

6.視力低下や耳鳴りを起こす

 

顎の関節の後ろにも、眼や耳など重要な器官につながる血管や神経が通っています。噛み合わせのずれが、顎関節に与える悪影響により、視力低下や耳鳴りといった症状が起こる場合もあります。

歯科医師、歯学博士、フリーランス矯正歯科専門医(日本矯正歯科学会認定医)

1980年名古屋生まれ。2005年愛知学院大学歯学部卒。2006年東京歯科大学千葉病院臨床研修医修了。2010年歯学博士取得(東北大学)。2011年東北大学大学院顎口腔矯正学分野助教。日本矯正歯科学会認定医取得。2014年宮島悠旗ブライトオーソドンティクス起業。
最新の技術で〝噛み合わせ〞と〝エステティック〞に配慮した矯正治療を行う。矯正治療の技術を活かした一般歯科とのチーム医療で歯の寿命を延ばし、健康な体を保つための理想的な噛み合わせを整える治療計画を提案。歯科医師・衛生士がつたえる本格歯科サイト「歯の知りたい!」で歯並びや噛み合わせに関する情報を発信している。

著者紹介

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宮島 悠旗

幻冬舎メディアコンサルティング

歯学博士であり、フリーランス矯正歯科専門医として活躍している宮島悠旗氏。両親ともに歯科医師という宮島氏にとって、口元のケアは当然のエチケットとして育てられてきたといいます。しかしながら世間を見渡せば、口元に気を…

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