残業手当をごまかされる…医療従事者の最新「お給料」事情

働き方改革のムーブメントが続く昨今。労働時間のみならず、給与の面に関しても、問題を是正しようとする動きが見られています。一方で、経営者が「給与の支給方法」を正しく把握していないケースも、散見されています。そこで本記事では、医療事業者向けに書かれた書籍『クリニック人事労務読本』(みなとみらい税理士法人・髙田一毅税理士/幻冬舎MC)より一部を抜粋し、給与設定の基礎知識を解説します。

管理者の多くが「給与設定」で間違いを犯している

給与設定に関しては、様々な誤解が生じております。残業代の設定や給与の支給方法において、正しい法律の解釈を採用していないケースが散見されます。これは労働者にとって不利益となり、かつ未払い給与の請求をされることにもなりますので注意が必要です。具体的には以下のような例があります。

 

◆固定残業代

 

固定残業代とは、毎月定額を見込みの残業手当として、実際の残業の有無にかかわらず支給する手当です。ただしあらかじめ定めた時間を超過した部分については、当該時間について使用者は残業手当を計算し支給する必要があります。

 

しかしながら、これを利用した人件費抑制や給与計算事務の負担軽減を目的とする導入事例が散見されています。一定の要件を満たす限りは適法であり、有効である制度ですが、昨今、不適切な運用から労使トラブルを招くケースも増加しています。どんなに働いても定額分しか支払わなかったり、見込み額を曖昧にして残業手当をごまかすなどの悪質な法律違反が見られます。固定残業代を採用するためには、以下の要件を充足することが要求され、充足されない場合には法律違反となり無効とみなされます。

 

① 固定残業代が、それ以外の給与と、明確に区分されていること

② 固定残業代に何時間分の残業代が含まれているのかが、明確に定められていること

③ 残業時間が、②で定めた時間を超えた場合は、別途残業手当を支払うこと

④ ①〜③について、就業規則や雇用契約書等に明記されていること

 

◆年俸制

 

医科における理学療法士、歯科における歯科技工士等の有資格者の給与設定において、年俸制を採用しているクリニックがあります。

 

残業代を支給しなくてもよいという誤解をして、年俸制を採用しているクリニックもあるようですが、判例では、時間外労働に対する残業代の支給を免除されることはないとされています。よってスタッフと、年俸制を採用することにより時間外手当の支給はしないものとする等という雇用契約を結んだ場合は無効となります。年俸制を採用する場合であっても、残業代を支給しなければなりませんし、スタッフの労働時間も適正に把握しなければなりません。

 

◆歩合制

 

ドクターを採用する場合において、常勤であれ非常勤であれ、往々にして歩合制を採用しているケースがあります。歯科においては自由診療収入に対して25%、保険診療収入に対して20%といった歩合設定や、医科においては内視鏡検査数に対する歩合設定やレーシック手術数に対する歩合設定が見受けられます。しかし、労働基準法第27条では「労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と規定されています。そのため、歩合制を採用する際には、最低保障給を設けなければ違法となります。

 

最低保障給の設定においては、各都道府県の最低賃金額以上とするのは当然ですが、行政通達上は、実収賃金とあまり隔たりがない程度の収入が保障されるべきと規定されており、一般的には通常の賃金の6割程度以上の設定を求められています。クリニックにおいては、歩合制を採用することが多く見受けられますが、最低保障給の設定を行うことを忘れずにトラブルを回避することが大切です。

モチベーションに関わる「賞与」…どう決める?

スタッフを長期雇用していくためには、賞与というのは重要なファクターのひとつです。もらう側のスタッフとしては、高ければ高いに越したことはないのですが、支払う側の院長にとっては、支給水準の設定について頭を悩ませるところです。

 

医療従事者の世界では、同じ看護師学校出身者同士や前職勤務先の仲間内で集まれば、賞与の話は必ず出ます。うちの院長はケチであるなどと話しているのです。また毎日クリニックにいればその来院度合いが分かるわけで、繁盛しているのに賞与が少ないと辞めていくスタッフもいます。特に開業したばかりの院長にとってはその支給水準については分からないことばかりです。

 

[図表1]
[図表1]職種別平均賞与額

 

[図表2]
[図表2]平均賞与額の上位50%に該当するクリニックのデータ

 

[図表1]は、当事務所クライアントにおける職種別平均賞与額です。次に[図表2]をご参照ください。Aは、当事務所で給与計算を代行している全クライアントのうち、平均賞与額の上位50%に該当するクリニックのデータです。

 

Bは、当事務所で給与計算を代行している全クライアントのうち、平均賞与額の下位50%に該当するクリニックのデータです。上位と下位ではかなりの差額となることが分かります。では各クリニックにおいて、賞与はどのように決定されているのでしょうか。

 

賞与の決定方法としては、以下の2通りとなります。

 

① 個人別設定方式

 

「基本給×係数±評価査定」という算式で各スタッフへの支給額が当初から定められており、最終的に積み上げた合計額がクリニックにおける総支給額となる方法です。例としては、基本給が20万円の看護師で係数が2.0の場合には、20万円×2.0+5万円(査定増)=45万円となります。

 

スタッフへの賞与支給総額が先に決定されてしまうわけで、クリニックの損益を度外視して、業績よりも各スタッフの貢献度や勤務態度に重点を置いた決定方法であるといえます。

 

② 支給総額設定方式

 

クリニックにおける損益に基づき、配分可能原資を最初に計算し、賞与支給総額を決定する方法です。そのうえで各スタッフの評価に応じて割り振っていくことになります。この方法では、クリニック負担可能額ありきということになり、スタッフ各人の貢献度や勤務態度は意思決定の最優位事項ではなく、あくまでもクリニックの業況に重点を置いた決定方法であるといえます。

 

一般的に賞与を支給する目的には、スタッフに対する評価の通知、モチベーションの維持、感謝の表現、生活補償等があります。よって賞与査定をおろそかにすれば、必然としてスタッフからの求心力は下がっていくので、査定においては公平性や客観性、査定基準の明確化が求められてきます。

 

結論とすれば、スタッフに重点を置くのであれば、上記①の個人別設定方式を採用すべきです。しかしながら業況を鑑みず、バラマキ賞与となってしまうようであれば、クリニック自体の存続にかかわってくるのでじゅうぶんな注意が必要です。

 

なお賞与に関する法律上の注意点としては以下の2点があります。

 

① 賞与は毎月支給される給与と異なり、支給が義務付けられているわけではありません。よって賞与を支給しなくても法律違反とはなりません。

 

② 医療機関において、クリニックの業況に関係なく賞与を支給しているケースが多くみられます。就業規則や雇用契約書において「賞与は基本給の●ヶ月分を支給する」という具体的な表記をして定めている場合には、賞与について労働契約上の支払義務が発生します。これらは過去の判例においても事例が存在します。

 

1980年10月8日 名古屋地裁 梶鋳造所事件

「賞与を支給するか否か、支給するとして如何なる条件のもとで支払うかはすべて当事者間の特別の約定(就業規則等)によって定まるというべきである」

みなとみらい税理士法人 髙田会計事務所 所長 税理士

1965年生まれ。兵庫県出身。
1984年栄光学園高等学校卒業。
1988年上智大学文学部新聞学科卒業。
2002年税理士登録。
2003年神奈川県鎌倉市に髙田会計事務所を開業。
2011年税理士法人化をして神奈川県横浜市西区へ移転。みなとみらい税理士法人髙田会計事務所(東京地方税理士会横浜中央支部所属)となり現在に至る。2016年4月現在、スタッフ総数63名、顧問先総数837件の医科歯科に特化した会計事務所の所長を務め、これまでのクリニック開院サポート実績は600件を超える。

著者紹介

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髙田 一毅

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