猛勉強しても、日本人の英語力は世界最低レベル
テレビをつければ海外のドラマやスポーツ放送をいつでも見ることができ、パソコンやスマートフォンを使って、外国にいる人と電子メールをやりとりしたり、インターネット電話で会話をしたり・・・。「海外が、次第に身近な存在になってきた」というのは、多くの人が感じていることでしょう。
国境を超えたコミュニケーションは飛躍的に進歩し、今や特別なことではなくなりつつあります。世界の人々とコミュニケーションを取る際に、共通語として使用されているのが英語です。
英語を使うことが身近になってきたためか、幼少期から英語教育に力を入れる親は増えています。
習い事・資格スクールの情報サイト「ケイコとマナブ.net」(リクルートマーケティングパートナーズ)が2017年に実施したアンケートでは、子どもに習わせたい習い事で「英語・英会話」を挙げた人が最も多く、その主な理由が「将来、有利になるため」「学校の授業についていくため、備えるため」など、子の将来を案じたものでした。
早期からの英語教育を希望する親の増加に伴って、幼児期から英語を学べる場は以前よりも格段に増えてきています。それに比例して日本人の英語力も高まっているかというと、いまだに世界に通用するレベルには程遠いというのが現状です。
世界70の国と地域に住む91万人を対象とした調査「EFEPI(英語能力指数)」でも、日本は100ヵ国および地域中53位という結果になりました。上位を占めている国の多くはオランダ、スウェーデン、ノルウェーなどヨーロッパの国々ですが、シンガポール、マレーシアといった東南アジアの国々も、比較的上位で、日本は中国、韓国、ベトナムよりも低い順位に位置しています。この日本の英語力の低さが、国際競争力にも悪影響を及ぼす恐れも出始めているほど、事態は深刻です。
スイスの研究教育機関IMD(国際経営開発研究所)は、「世界競争力ランキング2019」を発表しています。これは、外国語のスキルのほか、経済状況、ビジネスの効率性、インフラなどの多角的な側面から国としての競争力を測ったものですが、2019年の日本の順位は30位。中国(14位)、タイ(25位)、韓国(28位)よりも下位です。
経済が発達し、テクノロジーの面でも優位にあるはずの日本の競争力が、なぜこれほどまでに低いのでしょうか。その大きな原因の一つが「外国語スキル」の低さです。
このままでは、今の子どもたちが大人になるころには、英語力が原因で日本は世界から後れをとってしまうといっても過言ではないでしょう。
文法中心の座学ではコミュニケーションは身につかない
たいていの日本人は、中学・高校の6年間、さらには大学進学後にも、なんらかのかたちで英語を勉強しています。
一般的な学校で平均的に英語の授業を受けてきた人の場合でも、中学校で265時間、高校で約360時間――6年間で合計約625時間も、英語を学んできたことになります。
書かれている英語を見ればなんとなく意味がわかり、英語で話しかけられれば内容の見当はつく。しかし、いざ自分が話そうとすると、言葉が出てこない、外国人とまともにコミュニケーションを取ることができない・・・。
その原因としてしばしば指摘されているのが、文法中心の英語教育です。
「三人称単数現在のときは動詞にsがつく」「受動態はbe動詞+過去分詞」といった文法を一生懸命覚え、動詞のsを書き忘れようものなら、テストでは減点。
単語はつづりと意味を正確に覚えることが求められ、受験用に何百ページにもおよぶ単語帳をまるごと覚えることに必死です。
日本の学校の英語教育では、テストで評価する際に採点者によってブレがでないように平準化することに重きが置かれています。
そのため一単語あたり、一つの日本語の対応語をあてがって指導することが多く、単純な単語でもほかの意味で使われると途端に文章全体の意味をとらえられなくなってしまうということが起こりがちです。
そもそも英語と日本語では使われる文化的背景が異なりますから、一対一で対応できるはずがありません。英単語と日本語を一対で覚えると、ほかの英単語と組み合わせた熟語の意味も、一つひとつ個別に覚えなければならなくなってしまいます。
漢字を覚える学習だったら、新しい漢字が出るたびに熟語をいくつか挙げ、熟語を使った例文を書いて覚えたはずです。日本語と同じく英語を「使う」という前提で学べば、英単語も漢字と同じように学習したほうが効率的です。
また、英語は日本語に直訳するとニュアンスが異なることも多く、座学だけでなく、会話するといった実践を積み重ねながら微妙な違いを理解していくことが大切です。
英語を「使う場」をつくるべく、日本の学校教育では、実際の会話を想定して授業にリスニングを取り入れたり、ALT(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー)と呼ばれる外国人が授業に参加したりと、さまざまな工夫がなされています。
しかしそれでも、試験や受験となれば、「正確な知識があるかどうか」のほうが重視されることに変わりはありません。
こうした教育を長年受けてきたことで、英語とは「間違った使い方をしてはいけない」「正しい方法で話したり書いたりしなければならない」ものであると思い込んでいる日本人は大勢います。
正確な知識を身につけることは重要ですが、実際の英会話の中では、少々時制を間違えたり、前置詞が抜けたりということは、頻繁に起こります。教科書にあるとおりの話し方をしなければ、会話ができないというわけではありません。
正しく英語を使いこなすことに多くの労力と時間が割かれ、実際に使ってみる、英語でコミュニケーションを取るといった部分が犠牲にされてきた――それが、勉強時間が多い割に日本人の英語力が向上しない原因です。
国の教育体制がすぐに変わることは期待できないことを考えれば、学校教育だけでバイリンガルになることは不可能といってよいでしょう。
北欧の小学生は「日本の約9倍」英語を学んでいる!?
では、日本人のように英語を母国語としていないのにもかかわらず、外国語としての英語力を高めている国では、どのように英語を習得しているのでしょうか。
「TOEFL®」で上位にランクインしているフィンランド、スウェーデン、ノルウェーなど北欧の国々では、幼稚園のころから英語に限らずフランス語、ドイツ語など複数の言語に触れる環境があります。
小学校の英語クラスは10人程度の少人数制で、英語であればイギリス人、フランス語であればフランス人と、ネイティブの教師が指導します。最初から教師の話のすべてを理解できるというわけではなく、母語を話す担任教師がサポートしながら授業を進めます。
特筆すべきは授業時間数で、基本的に毎日、それも1日に2回授業が行われることがあります。小学校高学年で比較すると、北欧の国々の英語の授業時間は、日本の約9倍。「TOEFL®」など英語力を測定する国際的な試験で、フィンランドなど北欧の国々が上位にくるのも納得がいきます。
韓国では「英語で自分の考えを発信する」ことを重視
北欧の国々はヨーロッパにあるため、英語など近隣の国の言葉を学びやすいのは当然と考える人もいるでしょう。しかし、日本と同じアジアの国の中にも、日本よりはるかに進んだ英語教育を行っているところがあります。
お隣の韓国は、英語教育に非常に熱心なことで知られています。学校では小学校3年生から週に2回、5年生から週3回の英語授業があります。授業はネイティブ講師によるもので、プレゼンテーションやディベート形式といった、英語で自分の考えを発信することを重視しているのです。
韓国では実用的な英語力を測る試験「TOEIC®」の平均点が673点であるのに対し、日本520点です。日韓の間ですでにこれほどまでに大きな開きが出てきてしまっているのです。
三幣 真理
幼児英語教育研究家