英語はあくまでも「コミュニケーションのための道具」
もし、子育てをやり直せるなら、何をするか。子どもを育てあげた親であれば、こんな妄想をすることがあるのではないでしょうか。わが家の場合は、「できることなら、英語力を身につけさせたかった」という後悔があります。くもんで簡単な英単語に触れさせ、その後も英語に関心が向くよう働きかけたこともありましたが、残念ながら4人とも無関心だったため、泣く泣くあきらめました。
強くすすめなかったのは、自分の仕事を通じて「稼ぐために、英語は必ずしも絶対条件ではない」と思ったからです。
ある半導体製造メーカーのコンサルティングをしていたとき、2年ほどフィリピンと日本を行ったり来たりしたことがあります。フィリピンの工場に入れる複雑な原価計算システムを設計し、作り上げていくためです。フィリピンのエンジニアとの共同作業でしたが、言葉が違うにもかかわらず、作業はいたってスムーズでした。
私は多少は英語が話せますが、彼らは日本語がまったく話せません。しかし、問題は言語ではなく、会計と生産管理の専門用語がいかに理解できるかということでした(その証拠に、日本語ペラペラの通訳はビジネス上なんの役にも立ちませんでした)。たとえ日本語が話せる者同士でも、専門分野に疎ければ、トンチンカンな話しかできません。重要なのは互いの専門性であり、言語ではなかったのです。
英語はあくまで道具です。「読み・書き・そろばん」や教養のように、人間の土台を左右するものではありません。家庭の北極星に合致すれば習わせる、そうでなければ習わせなくてもよいと思います。本連載の目的である「稼げる人間」を育てるために、英語は特に必須ではないというのが私の考えです。
子は「親の分身」ではない…思い通りにならなくて当然
いちばん下の四男が28歳になり、ひととおり子育てを終えた私があらためて思うのは、「子どもは授かりもの」だということです。4人の息子たちを見ていると、性格、気質、お金の使い方、人との付き合い方、親との接し方など、ひとつとして同じところがなく、持って生まれたものの絶対的大きさの前には、ひれ伏すしかありません。
子育てに「こうすれば、こうなる」というマニュアルは通用しません。子どもによって違いすぎるからです。だからこそ、まず大きな北極星を描き、それぞれの子どもに合わせてルートを考えなくてはなりません。
幼少時、思い通りにならない子どもたちにイライラカリカリさせられたのは一度や二度ではありませんでした。子どもと話し合って勉強の計画を立てたのに、友だちと遊びに行ってしまったこともありました。
親は子どもを自分の分身のように思ってしまって、ついつい叱るのですが、4人もいると、次第に彼らがまったくの別人格であることに気づかされます。
たとえば、サッカーをしていて果敢に相手ゴールを攻めていく子、せっかくゴール前までボールを運んでも、友だちにパスを出し、手柄を譲ってしまう子など、彼らの性格はまるで違うのです。勉強も同じで、成績が下がると悔しがる子、まったく気にしない子とさまざまです。そうした性格は大人になっても変わりません。
私は自分の価値観で子どもたちを比較しがちだったのですが、妻が口にした「これも個性」のひとことで、できないことを責めてはいけないと悟りました。子どもは親とは別の一個の人格、ということです。
人との付き合いにおいて守るべきルールは教え込む必要があります。しかし、その子が持って生まれた個性は、叱りつけて直るわけではありません。親の無理強いは、幸せな未来につながらない、と思います。
私がずっと言い続けた「資格を取りなさい」という目標を、子どもたちがどのように感じていたのかはわかりません。結果として、彼らが自らの将来を考え、懸命に努力して医師、公認会計士の資格を取ってくれたことを、親としてうれしく思っています。
とはいえ、専門職で稼げるようになるのには最低10年はかかります。医師は稼ぎがいいと思われていますが、朝7時から夜10時まで働き、休めるのは月に2日だけ。会計士の仕事も、その厳しさは想像を絶するものがあります。次男の目指しているスポーツトレーナーも、一流になるには10年もの下積みが必要です。
改めて自分の過去を振り返って思うのは、親の支えの大切さです。何度も挫折しかけたとき「大丈夫。お前ならできる」と、両親が励ましてくれたからこそいまがある、と思います。つまり、親の務めは「勉強しなさい」とプッレシャーをかけることではなく、励まし、信じることだと思うのです。
さらに親の務めをもうひとつ挙げるとしたら、子どもの才能を見つけることでしょう。わが子の才能を一度じっくり見つめてみることは大切です。
◆note work◆
●あなたのお子さんは、どんな才能を持っていますか? 持ちうる可能性をすべて書き出してみましょう。
●書き出した可能性を広げるために、親がサポートできることは何かを考えてみてください。親自身のエゴや見栄が入らないよう、注意するのは言うまでもありません。
林 總
公認会計士林總事務所 公認会計士/明治大学特任教授