国税OBとして「軽減税率は即刻廃止撤回すべき」と考える理由

国税OBとして「軽減税率は即刻廃止撤回すべき」と考える理由

※本連載は、元国税調査官の税理士である松嶋洋氏の著書『それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所』(金融ブックス)より一部を抜粋し、正確な税務調査知識をもとに国税・税務調査でうまく戦える方策を紹介します。

ミス・不正がなければ、税務調査は簡単に乗り切れる

前回の記事『税務調査の今後…納税者が「きわめて勝ちやすくなる」理由』で解説したとおり、最近の税務調査は甘すぎると感じていますが、その反面、押さえておくべき注意点は二つほどあります。

 

一つは、不正や単純ミスに厳しいことは全く変わっていない、ということです。このため、脱税などの不正行為には絶対に手を染めてはいけません。実際のところ、近年は富裕層に国税が厳しく、たくさんの税金を取られているなどと言われますが、調査官が厳格な税務調査を実施しているのではありません。あくまでも、仮想通貨の所得を申告しないといった、低レベルの不正をしている富裕層が多数存在するために、このように言われるのです。

 

対策としては、税務調査前には必ず申告内容を見直すこととし、不正や単純ミスがあればすぐに自主修正することです。不正取引は別にして、単純ミスに対する税務調査前の自主修正に対しては、減額された加算税しか取れないものの、調査官の事績になると言われています。このため、このような自主修正に対しては、国税も原則として寛容です。

 

一方で、不正取引があれば、自主修正は最大7年間行う必要があります。未だに通常の場合と同様に5年間でいい、などというガセネタを税理士に垂れ流す専門家がいますので、注意してください。

 

もう一つは、国税局ごとに税務調査の厳しさが大きく異なるということです。職員の数が多い東京国税局管内の税務調査は甘いことが通例ですが、悪名高き大阪国税局管内の税務調査は相変わらずえげつないです。つい先日、芦屋の資産家に対して30億円超の課税がなされたという報道は記憶に新しいです。

 

その他、関東信越国税局や広島国税局も調査が厳しいと言われます。このような国税局から調査されないよう、本店や住所を東京国税局管内に移転させる、といった対応も賢明なのかもしれません。

 

単純ミスや脱税行為がなければ、近年の税務調査は簡単に乗り切れると考えています。ただし、国税を甘く見てもいいですが(甘く見た方が積極的に権利主張できますので効果的ですが)、見つからないと高を括って、不正取引に手を染めることは絶対にいけません。この境界線を越えることだけはないよう、注意してください。

 

調査官が「消費税の軽減税率」を真剣にやらない理由

消費税の10%増税に伴い、税理士の中では、軽減税率と言うとんでもない制度にどう対応するかが問題になっています。税理士に限らず、飲食料品を多数扱うスーパーマーケットやコンビニでは、新たな設備投資が必要になる等、このおかしな制度に対する問題の対処について、大きく頭を悩ませていると聞いています。

 

とりわけ、これらの業界において問題視されているのは、イートインになるかテイクアウトになるか、その線引きです。イートイン、すなわち店内飲食であれば飲食サービスに該当して軽減税率の対象にならない反面、テイクアウト、すなわち飲食料品の販売であれば軽減税率の対象になります。イートインスペースがある店舗では、この区分を明確に行う必要があるわけですが、その方策として国税が指示しているのは、販売などの際に顧客に意思確認を行って判断するということです。

 

意思確認すればいいわけですから、持ち帰りますと言われて販売し、その後その商品を店内で飲食されても、適用税率は軽減税率の8%となるはずです。こうなると制度がガタガタになると思いますが、それ以上にコンビニなどの業界が懸念していることは、意思確認の大変さです。取扱商品が多く、かつレジ業務は短い時間で行う必要があるため、いちいち意思確認をしていると業務が回らないという問題点が指摘されています。

 

このような問題点の指摘を受けて、財務省は従来の方針を転換し、店内飲食を想定していない店については、「飲食禁止」などの張り紙を掲示するなど一定の要件を満たせば、イートインがないとしてすべて軽減税率として取り扱っていい、という新しい方針を打ち出しています。

 

こうすれば、手間がかかる意思確認を削減することができますが、張り紙といった形式的な要件だけで線引きするとなると脱税を誘発する恐れがありますので、実態も考慮して軽減税率の対象になるかを判断する場合もあるようです。この点、税務調査を徹底させて防止すると財務省は考えている模様です。

 

実際に税務調査を実施した身から断言できますが、調査官は軽減税率に関しては、真剣に税務調査はしません。頑張っても取れる税金は10%と8%の差額の2%に過ぎませんし、軽減税率の線引きは難しすぎるため、税務調査の決着に必要になる修正申告を納税者に提出させることも難しいからです。

 

となると、「2%は課税せず目をつぶってあげるから、法人税を少し多めに払ってね」などと納税者に甘いことを言って、他の税目で税金を取るという実務になると考えられます。

 

そもそも、いい加減で低レベルな税務調査が横行しているのに、財務省の担当者を含めて誰も正確なところを分かっていない軽減税率制度について、税務調査で何とかしよう、などという財務省のおかしな考えは全く理解できません。導入前から問題が山積している以上、軽減税率は即刻廃止撤回しなければならない制度でしょう。

 

 

松嶋 洋

元国税調査官

税理士

 

それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所

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松嶋 洋

金融ブックス

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