マルサの税務調査…不正申告1億円、不正所得2千万円が目安?

マルサの税務調査…不正申告1億円、不正所得2千万円が目安?

※本連載は、元国税調査官の税理士である松嶋洋氏の著書『それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所』(金融ブックス)より一部を抜粋し、正確な税務調査知識をもとに国税・税務調査でうまく戦える方策を紹介します。

多額の不正&相応の溜まりがある者が「マルサ」の対象

不正な申告をした納税者に対しては、マルサによる強制調査が行われる場合があります。ただし、全ての不正申告者に対してマルサが税務調査しているわけではありません。原則として、多額の不正を行っている納税者で、かつ相応の溜まりがある者がマルサの対象になり、それ以外の不正申告者は税務署や国税局が通常の調査の一環として調査します。

 

ここでいう多額ですが、一つの基準として古くから言われているのは、1億円という数字です。マルサの税務調査には多くの職員がかかわりますので、1億円くらいの不正申告を行う者を対象にしなければ国税的にマンパワーとペイしない、という判断なのでしょう。もちろん、後述するように、1億円未満でもマルサが調査することはありますので絶対的なものではありませんが、一つの基準としてこの金額は押さえておくといいと思います。

 

加えて、もう一つ押さえていただきたい数字として、2千万円という数字が挙げられます。私の現職時代の話ですが、税務署が行う税務調査の中で、2千万円以上の不正な所得金額があれば、マルサに情報を提供した上で、その事案の内容によっては税務調査の担当をマルサに引き継ぐとされていました。このため、仮にこの金額以上の不正所得を発見されると、マルサが税務調査をする可能性がありますから、注意が必要です。

 

次に、溜まりについてですが、溜まりとは、脱税資金をプールした口座などを言います。マルサの税務調査は原則として犯罪調査であるため、刑事が行う犯罪捜査と同様に、脱税をした「証拠」が重要になります。

 

証拠という観点からは、脱税資金がプールされた溜まりは、脱税を裏付ける最も有効な証拠です。加えて、プールしたお金があれば、そのお金を差し押さえて脱税した金額を納税させることができますので、納税も確実になります。このため、マルサは溜まりの存在を非常に重視しています。

 

ところで、従来はこれらの基準に則って判断すればおおむねマルサが調査するかが分かりました。しかし、近年は日本経済の縮小もあってか、基準となる金額が下がっているとも言われています。このため、従来ではマルサが調査するとは考えられないような小さな脱税金額の納税者に対しても、今後はマルサが税務調査をする可能性があると考えられます。

 

とりわけ、マルサの税務調査という観点から注意したいのは、消費税の脱税についてです。増税が予定されている消費税は国民の関心が高いこともあって、かなり広い範囲でマルサの強制調査が行われているという印象があります。このため、金額に関係なく、不正取引はやらないという方向性について、再度しっかりと確認する必要があります。

 

「特官」の税務調査は、通常よりも厳しいと聞くが…

税務署の中で、仕事的においしい部署として、特官部門という部門があります。特官部門とは、特官という幹部職員と特官付職員の二人ペアからなる特官から構成される部門であり、税務署の中で比較的に税金が取りやすい規模の大きな法人を優先的に調査します。

 

特官のような幹部職員は基本的には税務調査に行きませんが、特官はその例外であり、自分で調査を行います。幹部職員クラスは、一般職員よりも能力があるという前提で、税務署の中で比較的大きな法人を調査することになっています。大きな法人であればあるほど、税務調査で税金も取りやすいため、特官はおいしいポストと言われます。

 

特官部門の税務調査には、他の部門が行う税務調査に比して、以下のような特色があります。一つは、大きな会社を調査するため、他の会社の税務調査に比して長引く傾向があるということです。通常、税務調査は2日程度で終わりますが、特官部門の税務調査は最低でも3日が行われ、調査法人の内容によっては、5日間も行われることがあります。

 

次に、特官部門の調査対象は大きな会社ですから、一般的な中小企業の税務調査では見られないような、細かい論点についてもチェックされることが多くあります。一例として、固定資産の減価償却費が挙げられます。減価償却費は税務上重要な費用であることは間違いありませんが、税務署の一般の部門が調査する場合には、その金額があまり大きくないこともあって、ほとんど検討されません。

 

一方で、特官部門の税務調査の場合には、対象となる法人の固定資産の投資額も大きいことが多く、結果として減価償却費も大きいことが通例ですので、しっかりとチェックされることになります。

 

こういうわけで、特官の税務調査は通常の税務調査よりも厳しいと伝えていますが、実際に特官が優秀であるかと言うと、それは大いに疑問符が残ります。特官は税務署の幹部職員ですので、税務調査が強いというよりも、ゴマすりや国税組織における世渡りが上手いという方が多いという印象があります。実際のところ、現職時代私は複数の特官を見てきましたが、決して優秀ではなく、仕事をしない国税職員の典型という方が多かったという印象があります。

 

事実、特官は優秀でないから、特官の税務調査の成否は、仕事をしない特官が仕事を押し付ける特官付職員の出来で決まると言われていました。このため、特官部門の税務調査の対策においては、特官よりもむしろ、そのパートナーである特官付職員の経歴などをよく確認することが重要になります。

 

特官と聞くと仰々しいですが、能力があるから大きな会社を税務調査しているのではなく、地位と権力があるから数字を取れる会社を優先的に税務調査しているというのが実態です。肩書きに臆せず、特官とも強気の交渉を心がけましょう。

 

 

松嶋 洋

元国税調査官

税理士

 

それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所

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松嶋 洋

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