※本連載は、元国税調査官の税理士である松嶋洋氏の著書『それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所』(金融ブックス)より一部を抜粋し、正確な税務調査知識をもとに国税・税務調査でうまく戦える方策を紹介します。

近年の調査官はレベルが低すぎる

税務調査の将来像についてよく質問を受けますが、今後の税務調査は、ますます甘く、かついい加減になっていくと考えています。このため、税務調査対策を飯のタネにしている私にとっては残念なことでもありますが、今後の税務調査は、納税者が極めて勝ちやすいでしょう。

 

多くの国税OB税理士が指摘していることですが、近年の調査官はレベルが低すぎます。実際のところ、手強いと思う調査官に当たることは基本的にありません。とりわけ、この傾向は若手の調査官に顕著で、国税は税務調査の進め方などを、きちんと研修などで指導しているのか疑問があります。

 

「税理士が作った元帳などを見ても税務調査にならない。もっと原始記録を見たり、会社に質問したりしなさい」。現職時代は、上司からこのように厳しく指導されていましたが、近年の調査官は元帳ばかり見て、社長にろくにヒアリングもしないことも多くあります。受ける側としては楽でいいのですが、こんな税務調査では、追徴できる税金は決して大きくなりませんので、呆れてしまいます。

 

私だけでなく、多くの税理士も、最近の税務調査について同じ印象を持っていると考えています。近年、インターネットにおいて「スポットで税務調査を請け負います」という税理士の広告が増えたように思います。このような広告を出す税理士の一部の方の経歴を見ると、税務調査の立会経験が多いとは到底思えませんが、国税を甘く見て税務調査は何とかなると考えているのでしょう。

 

言い換えれば、どうしようもない脱税行為をしているような納税者は別にして、国税が怖いからという理由で高いお金を払ってまで、税理士に立会いを依頼する実益に乏しいのが近年の税務調査なのです。

 

税務調査が甘くなった原因としてはいくつかあると思いますが、税務調査手続きの法制化による税務署の事務量の増加が最も大きな理由と思われます。法制化により税務調査がやりにくくなり、件数が大幅に減少したという問題は数年前から指摘されています。

 

調査件数を増やすよう、空気の読めない幹部職員が現場に大きなプレッシャーをかけているからか、多くの調査官は、細かく調査することができず、ある程度のところで検討を切り上げるべきと考えているように思います。

 

実際のところ、経費として認められるか、といったグレーな論点については、交渉次第であることは従来とは変わっていませんが、最近は簡単に調査官が譲歩するという印象があります。金額が小さい場合は別にして、金額が大きければ否認する実益が大きいため、調査官も頑張っていましたが、最近は予め納税者が納得できるところまで譲歩する、といったことも増えている印象があります。

 

その一方で、追徴税額が見込めない事案であれば早く切り上げて、別の案件に取り掛かるべき、という考えが調査官の常識でした。しかし、最近は税務調査の決裁が厳しいからか、例えば売上の元帳や領収書の控えをコピーさせるなどして、きちんと仕事をした証拠を作るためだけに調査先に長く滞在する調査官も多く存在します。

 

調査官の指摘事項に「後日回答」で対応するメリット

このような事情を踏まえると、調査官のノルマである調査件数を調査官が簡単に消化できないようにするために、従来以上に税務調査を長期化させるという方針が有効な税務調査対策となっています。とりわけ、最近は弱気の税務職員も多く、税理士や社長に気を遣い、電話も先延ばしにする調査官も散見されますので、簡単に長期化できるのも朗報です。

 

一方で、税法に詳しくない、調査官のいい加減な指導が散見されるのは従来と同様です。とりわけ、重加算税の対象になるかどうかの判断はとても適当です。重加算税対象となるミスを見つけるか否かで調査官に対する国税内部の評価は大きく変わりますので、調査官としては重加算税に該当するようにいい加減なこじつけをすることが多くあります。私の経験を申しますと、情報提供に係る契約書を後日作ったため、それだけで重加算税になると指導されました。

 

重加算税は課税要件事実(税額や所得金額に影響を与える事実)の隠ぺいや仮装がある場合に課税されるものであり、あらゆる隠ぺいや仮装に対して賦課されるものではありません。加えて、契約は口約束でも成立するとされていますから、後日契約書を作成したからと言って、それだけで仮装になるわけがありません。

 

重要なことは、情報提供の実態があるかどうかであり、それがないのに支払っていれば、課税要件事実の仮装に該当します。本来、この実態があるかの事実を確認するのが税務調査であり、このため「増差(過少申告となっている部分)は足で稼げ」などと言われていました。しかし、足を使うと税務調査が長引いて調査件数が増えないからか、必要な労力をかけない税務調査が増えている感があります。

 

とは言え、実際に調査官から何らかの指摘を受けると、それがいい加減なものであっても冷静に対応することができずに、右往左往する方もいらっしゃいます。このため、調査官から指摘事項があれば、その場で回答することなく、後日回答するという対応に心がけましょう。こうすれば冷静になれますし、税務調査を長期化させることもできます。

 

なお、一つ申し上げておきますが、問題点の指摘をした調査官も、実は確実なことを言っているわけではありません。「経理処理が誤っている可能性がある」くらいの適当な考えで指導していることがほとんどですので、話半分で聞いて問題ありません。

 

 

松嶋 洋

元国税調査官

税理士

 

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