税務調査の省略は本当に可能なのか?「書面添付制度」の実効性

税務調査の省略は本当に可能なのか?「書面添付制度」の実効性

※本連載は、元国税調査官の税理士である松嶋洋氏の著書『それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所』(金融ブックス)より一部を抜粋し、正確な税務調査知識をもとに国税・税務調査でうまく戦うための方策を紹介します。

そもそも「無予告調査」の権限があるので…

国税が推進している制度の一つに、書面添付制度があります。この制度は、申告書に所定の書面を添付すると、税務調査前に調査官からヒアリングの機会が設けられ、そのヒアリングで問題ないと判断されるような場合には調査がなくなる(税務調査の省略といいます)制度です。

 

税務調査がなくなると、納税者としては非常にありがたいので、多くの税理士はこの制度に期待していますが、個人的には実効性は全くないと考えています。というのも、平成17年に作られた、書面添付制度に係る国税のマニュアルを見ると、この制度の実効性について、疑問がある記述が目立つからです。

 

一例として、法人に使途秘匿金の支出がある場合においても、書面添付ができるという記述があります。使途秘匿金は、黒い政治献金など、支払先を明かせない支出を言いますが、このような怪しいものがあれば、ヒアリングで解決できる話ではなく、国税としては税務調査しないわけにはいかないのが正直なところです。となると、こういうものについて書面添付できるとする意味が分かりません。

 

加えて、書面添付制度をなし崩しにできる税務調査の一つとして、無予告調査があります。無予告調査は、いわゆるアポなしのガサ入れですが、このような調査は強行的のため、資料を廃棄される恐れがあるなど、所定の場合にしか実施できないことになっています。

 

この無予告調査について、先のマニュアルにおいては、「無予告調査を実施する場合には、事前通知前の意見聴取を行う必要はない」と明記されています。しかし無予告調査をする必要性など、いくらでもでっちあげることができますから、仮にヒアリングするのが嫌であれば国税は無予告調査をすればいいだけで、税務調査をなくせるはずの書面添付制度の実効性には疑問符がつくと思われます。

 

若干ですが、有利に働くかもしれないと考えられる項目として、1~2項目程度しか記載していないなど、記載内容の乏しい書面が添付された場合の取扱いがあります。このようないい加減な記載であっても、「審査事項等を記載している以上、事前通知前の意見聴取の対象になると考えられる。」とマニュアルでは説明されています。

 

もちろん、この程度の記載内容ではまず税務調査の省略は期待できませんが、税務調査が開始する前までのスパンを長引かせることで、加算税を軽減できる自主修正などの活用が見込めますから、その効果を期待して至極簡単な書面添付を行う実益はあると考えられます。

 

もちろん、税務調査の省略が期待できない、このような使い方は書面添付制度の本旨に則っていませんし、その程度の意味しかないのであれば、敢えて適用する意味はないというのが正直なところです。

 

貸倒損失関連の税務は、国税ばかりが有利な内容

実務上、税務判断で問題になる項目の一つに貸倒損失があります。一般的な感覚から言えば、債務者の財務状況が悪化して回収見込みが薄い場合、早期に経費処理をすべきということになりますが、税法上の貸倒損失の要件は非常に厳しいものになっています。

 

原則として「全額が回収できないことが客観的に明らか」という要件を満たす必要があるとされており、回収可能性がわずかでもあれば、貸倒損失は計上できません。

 

この客観的に明らか、という要件については、さらにハードルがあり、判例などでは原則として「回収できないことを納税者が立証すべき」とされています。ここまで厳格にされると、よほどのことがない限り貸倒損失は認められず、実務では基本的に会社更生法などで債権が切り捨てられたり、内容証明郵便を送って債務免除したりするような場合にのみ、貸倒損失を計上しているのが正直なところです。

 

これに止まらず、貸倒損失については、その回収不能が客観的に明らかになったその年度にしか経費とすることができない、という取扱いも設けられています。例えば、10年前に回収不能が客観的に明らかになった債権について、当期において債務免除をしても、当期の経費にはなりません。10年前に経費にすべきものだからです。

 

客観的に明らか、という要件が厳しすぎるため、税理士としては貸倒損失を先延ばしにする傾向がありますが、先延ばししすぎて税金の時効である5年を経過してしまうと、もう二度と経費にならないというデメリットがあります。

 

言うまでもなく、国税は自分に有利なように法律を解釈しますので、時効が経過する前は「客観的に明らかでないので経費になりません」と指導し、時効が経過した後は「時効が経過してしまいました。残念!」と指導することがほとんどでしょう。客観的に明らかかどうか、その判断は非常に困難ですので、国税は税金が取れるようにそれを解釈することができるのです。

 

このような事情を踏まえれば、国税から否認されることを覚悟してでも、税理士は貸倒損失を計上しなければならないことになりますが、仮に否認されれば、税に詳しくない裁判官は国税の味方をすることが多いですので勝ちづらいですし、クライアントから税理士賠償訴訟を提訴される可能性も出てきます。

 

貸倒損失を計上してもしなくても、税理士には大きなリスクがあるわけで、貸倒損失に関係する税務は、国税にとって非常に有利な内容になっていると思っています。

 

なお、貸倒損失については、法律においては明確な判断基準が置かれておらず、国税に都合のいい通達で判断することになっています。このように、極めて国税有利ですから、最終的に勝つ方法は、税務調査という、密室でのゴリ押しと、それを裏付ける録音しかないというのが正直なところです。

 

 

松嶋 洋

元国税調査官

税理士

 

それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所

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松嶋 洋

金融ブックス

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