「住宅ローン控除が嘆願書で認められる」とのウワサは本当か?

「住宅ローン控除が嘆願書で認められる」とのウワサは本当か?

※本連載は、元国税調査官の税理士である松嶋洋氏の著書『それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所』(金融ブックス)より一部を抜粋し、正確な税務調査知識をもとに国税・税務調査でうまく戦える方策を紹介します。

温情を与える税務署を、素晴らしい組織と考えていて…

確定申告において住宅ローン控除の申告を忘れても、税務署によっては「何卒寛大なご処置で住宅ローン控除を適用できるよう、お願いします」といった内容を記載した嘆願書を提出することでその適用が認められることがあるといううわさ話があります。

 

住宅ローン控除については、確定申告時に書類等をきちんと提出しなければ適用が受けられないという厳格な要件(当初申告要件)が法律上設けられていますので、法律上の要件を満たしていないのに国税が適用を認めるなどということは、信じられないことです。

 

仮にこのうわさ話が本当であるとして考えますと、住宅ローン控除の適用をする方の大部分は確定申告をすることがほとんどないサラリーマンであるため、住宅ローン控除の適用を忘れてしまうことが多い、といった事情を踏まえたものと思われます。住宅ローン控除の適用をミスすると、税負担に大きな差が生じてしまうためかわいそうであるとか、法律の通りに厳しくしてしまうとトラブルになりやすい、といった事態を税務署は考えてのことと思います。

 

このような実務について、納税者にとっては歓迎すべきだ、という意見もあるでしょうが、個人的には大きな問題があると考えています。法律では認められないから、という理由で嘆願書を提出させるという姑息な手段に訴えているからです。加えて、法律的には無理ですから、認めていない税務署もあるそうで、認めている税務署との公平の原則から問題があるでしょう。

 

私自身、法律を読む限りは無理ですので、仮に住宅ローン控除の申告を忘れた、という相談を納税者の方から受けたとすれば、「どうしようもありません」と答えます。しかし、仮に嘆願書を出せば認められるなら、それは嘘ということになりますから、「納税義務者の信頼にこたえ」(税理士法1条)ておらず、税理士失格ということになるでしょう。

 

何より、仮にこのような手続きが認められる場合があるとするなら、税理士としては確実に嘆願書を提出しておかなければ、クライアントから損害賠償を請求されるリスクがあります。「法律からして矛盾があるため、そんなこと書けるわけがない」というのが国税の本音だと思われますが、このような手続きが可能であるのであれば、明確にホームページなどに書いておくべきでしょう。

 

元税務職員の立場から申し上げると、税務職員は、このような手続きは納税者に対する温情ですから、何も悪いことをしておらず、場合によっては法律的には無理なので認めなくても全く問題はないと考えています。

 

個人的には、納税者にとって有利になっても、法律を無視したりないがしろにしたりすることは絶対に許されないと考えていますが、困ったことに、大部分のOB税理士は温情を与える税務署を素晴らしい組織であると考えています。このあたり、OB税理士と議論しても一向にかみ合わないことを残念に思っています。

 

「延滞税」のシステムを改正すべき理由

勉強をしない国税職員はもちろん、税理士も間違えてしまう論点の一つに、「隠ぺい仮装」と「偽りその他不正の行為」の違いがあります。用語を見ていただくと分かる通り、両方とも不正に関係する用語ですが、前者は重加算税の対象になり、後者は脱税の対象になるという大きな違いがあります。

 

この違いについてよくわかる例の一つに、予算消化の話があります。大企業では、翌年度の予算を減らさないよう、プロジェクトの責任者などが取引先と通謀して、外注工事などを当年度中に終わったことにした上で、経費を前倒しで支払うことがあります。その結果、会社の経理上も経費が前倒しになるのですが、税務調査でこのような予算消化のための経費の前倒しが発見されると、不正取引のペナルティーである重加算税の対象と指摘されます。

 

質問をよく受けますが、経費を前倒しで支払ったことは事実ですが、それは予算消化であって税金をごまかす意図は全くありません。このため、重加算税の対象にならないはず、と言われるのですが、書類などを仮装して経費を前倒しにしているため、「隠ぺい仮装」の「仮装」にあたるのです。

 

一方で、「偽りその他不正の行為」は、原則として脱税行為を意味します。予算消化は脱税ではありませんから、これには該当しません。結果として、脱税行為はないけど重加算税の対象になる、というレアケースが発生することになります。

 

このように、「隠ぺい仮装」と「偽りその他不正の行為」には大きな違いがあるため、よく条文を見なければなりませんが、国税の延滞税の計算上は、両者を同じように取り扱っています。延滞税の計算上、「偽りその他不正の行為」がない場合には、所定の期間を延滞税の計算期間に含めないで計算するとされています。しかし、国税のシステム上、「隠ぺい仮装」がある税務調査事案については、すべからく取扱いの対象にしないとされているようです。

 

先日、重加算税の対象になる「隠ぺい仮装」があるものの、脱税目的は全くないため「偽りその他不正の行為」はない税務調査に立ち会って交渉しました。調査官も脱税目的はないことについて了解したものの、延滞税の計算については、重加算税の対象となる行為があれば脱税目的があるものとして計算される、と解説されました。

 

実際のところ、私の現職時代を振り返ってみても、脱税目的があるかどうかを国税のシステムに入力することはなかったですから、脱税目的がなくても、重加算税の対象になる指摘事項があれば、本来は払う必要のない、高い延滞税を支払わざるを得ない場合があることになります。システムの問題ですので、一介の調査官ではこの点解決できないわけですから、トップダウンで再度計算方法を見直して欲しいものです。

 

 

松嶋 洋

元国税調査官

税理士

 

それでも税務署が怖ければ賢い戦い方を学びなさい 調査官も知らない税務調査の急所

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松嶋 洋

金融ブックス

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