「日米貿易協定」正式署名、双方満足の結果か
日米両国政府は10月7日、ワシントンのホワイトハウスで、日米貿易協定に正式署名した。新協定では、米国産牛肉や豚肉、鶏肉、ワイン、チーズなど計30億ドル相当の製品に対する日本側の関税が、環太平洋経済連携協定(TPP)の水準まで段階的に引き下げられる。アーモンドやブルーベリーなど年間約13億ドルの食品や農産品の関税は、ただちに撤廃される。
トランプ米大統領は署名後、米国の農家と畜産業者にとってメリットは大きいとして自らの成果を誇示した。安倍首相の誕生日にも言及するなど、大変ご機嫌がよかったようである。ただ、長らく日米間の懸案となっている自動車・同部品の取扱いについては、今回は決められなかった。
2018年の日本からの自動車の対米輸出額は560億ドルあり、日本への農産物の輸出額に比べれば、桁がひとつ違う。つまり、すぐに訴求できる成果を急いで、本丸の協議すべき部分は先送りした協定合意だったといえるだろう。トランプ政権は、通商協議でいち早く成果をあげ、それを強調することを優先したものと考えられる。そういう点を上手く突いた日本政府は、よくやったといえるのではないだろうか。
一方正念場を迎える「米中通商協議」
日米が相変わらず蜜月の関係であるのに対し、米国と中国の通商協議は、雲行きが怪しい。中国商務省は、劉鶴副首相と首席通商交渉官が、米国との通商協議のために10日から11日までの予定で、ワシントンを訪問すると発表した。劉副首相は、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ムニューシン米財務長官と会談する。米中両国はすでに7日から2日間の日程で、次官級の協議を開始しているが、閣僚級協議で今回合意に達するかどうかは、いまだ厳しい見通しである。
トランプ米大統領は、協議が進展する可能性について、「何が起きるか、何ともいえない。協議進展の可能性は低いと思う」とコメントした。また、「中国との部分的な合意では満足しない。大型合意のほうがはるかに望ましい。我々が目指しているのはそれだ」と述べて、安易な妥協はしない姿勢を示した。
トランプ米大統領は、中国との協議に進展が見られなければ、10月15日に、中国からの輸入品2500億ドルに対する関税を25%から30%に引き上げる措置を取るとすでに表明している。
米中協議を前にしながらも、米国政府の対中スタンスは厳しい。米国商務省は7日、中国政府がウイグル族などイスラム系少数民族への弾圧に関与していることを理由に、新疆ウイグル自治区・公安局とその傘下にある19の政府機関のほか、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など企業8社を、事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト」に追加する制裁措置を発表した。
また、トランプ米大統領は、香港での政府に対する抗議行動が一部先鋭化していることについて、中国当局が人道的な解決を見いだすことを望んでいるとし、香港情勢が米中通商協議の阻害要因になりうるとコメントした。中国側は、香港に対する諸外国からのコメントや申入れに対し、内政干渉であると強く反発し続けており、香港情勢を米中協議の話題にされることも嫌うだろう。
協議を前に、相手の嫌がるカードをちらつかせておくのは、トランプ流の交渉術ということもできるが、面子を重んじる中国が相手だけに、これが通用するかはやや疑問である。追加関税措置を発動させるような交渉決裂は回避したいのが本音だろう。決裂となってしまうのか、はたまた「大きな成果」になるのか、今週の米中閣僚級協議は今後の相場展開にも大きく関わる。注目である。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO