英国のEU離脱問題~現時点での市場の織り込み

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●英議会下院は10月19日、新たな離脱協定案の採決は、離脱関連法案の成立まで保留と決定。

●ただ離脱関連法案の早期審議は否決、首相はEUが離脱期限の延期承認ならば総選挙の意向。

●市場は協定案の採決遅延や合意なき離脱回避は織り込み済み、混乱継続でも影響は限定的。

英議会下院は10月19日、新たな離脱協定案の採決は、離脱関連法案の成立まで保留と決定

英国の欧州連合(EU)離脱問題について、最近の動きを整理します(図表1)。英国とEUは10月17日、新たな離脱協定案で合意しました。従来の協定案には、アイルランド国境問題を解決する具体策がみつかるまで、英国はEUの関税同盟にとどまる「安全策」が盛り込まれていました。新たな協定案ではこの安全策が削除され、2020年末の移行期間終了後、英国は北アイルランドも含めて関税同盟から離脱することになります。

 

英議会下院では、10月19日に新たな協定案が採決される予定でしたが、同日、超党派議員団の「離脱関連法案が成立するまで採決を保留する」という修正動議が先に可決されました。これにより、ジョンソン首相はEUに対し、離脱期限を2020年1月末まで3カ月延ばす申請を強いられました。また、ジョンソン首相は10月21日、新たな協定案の採決を再び議会に求めましたが、下院のバーコウ議長はこれを却下しています。

ただ離脱関連法案の早期審議は否決、首相はEUが離脱期限の延期承認ならば総選挙の意向

離脱関連法案の大枠については、10月22日の英議会下院で可決されました。一方、同法案を早期に成立させるため、ジョンソン首相が提出した「議事進行動議」は否決されました。これにより、ジョンソン首相が掲げる10月末のEU離脱は、難しい状況となりました。英議会下院の決定を受け、EUのトゥスク大統領はEU加盟国に対し、英国からの離脱期限の延期申請を受け入れるよう、呼びかける意向を明らかにしました。

 

こうしたなか、英首相官邸当局者は10月22日の遅くに、EUが離脱期限の延期申請を受け入れた場合、ジョンソン首相は解散総選挙の実施を目指すことになるだろうと述べました。しかしながら、英国では議会任期固定法の規定で、首相の議会解散権が制限されており、解散には内閣不信任案の可決、または下院議員の3分の2以上の同意が必要と定められています。

市場は協定案の採決遅延や合意なき離脱回避は織り込み済み、混乱継続でも影響は限定的

このように、英国ではEU離脱問題を巡る混乱が続いていますが、EUは英国からの離脱期限の延期申請を受け入れる可能性が高く、英国がEUとの合意のないまま、10月末にEUから離脱する事態は避けられるとみています。市場も、英国で離脱協定案の採決に時間がかかることや、10月末の合意なき離脱が回避されることを、ある程度、織り込んでいると思われます。

 

そのため、英国で離脱関連法案の成立が遅れ、新たな離脱協定案の採決に相当時間がかかっても、また、仮に解散総選挙となっても、合意なき離脱が回避される見通しである限り、改めて市場が混乱する公算は小さく、株式市場への影響も限定的と考えます。なお、ポンド相場は、EU離脱問題に敏感に反応する傾向がありますが、1ポンド=1.20ドル近辺で、いったん底をつけたのではないかとみています(図表2)。

 

(出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]英国のEU離脱を巡る最近の動き (出所)各種資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

(注)データは2016年1月から2019年10月(2019年10月は22日まで)。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]英ポンドの対米ドル為替レート (注)データは2016年1月から2019年10月(2019年10月は22日まで)。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『英国のEU離脱問題~現時点での市場の織り込みを参照)。

 

(2019年10月23日)

 

市川雅浩

三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト


株式会社三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介


調査部は、総勢25名のプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場について運用会社ならではの高度な分析を行い、それぞれの見通しを策定、社内外に情報発信しています。三井住友DSアセットマネジメントの経済・金融市場分析面での中枢を担っている他、幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、活動する機会や媒体は多岐にわたります。年間で約1,000本の市場レポートを作成し、会社のホームページで公開中(2018年度実績)。

著者紹介

連載【市川雅浩・シニア ストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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