不動産の所有権を「共有状態」にする危うさとは?
②受益権として、分割することができる
さて、財産をどのように分割するか? ということは大きな問題であると考えられます。遺言書において、財産の分割方法を指定しておくことは非常に重要なことです。
とくに、不動産を誰に相続させるのか? ということを考えておくことは必要です。なぜなら、不動産は分割することができないからです。
そして、不動産は、一つとして同じものが存在しません。そのため、同じものを相続させることはできません。可能であることとすれば、所有権を共有状態にすることです。
不動産の所有権を共有状態にすると、いっけん解決できたようにみえます。なぜなら、共有している人たちで賃料を等分することができるので、平等に相続させるという形をとることができ、使い勝手が良いように考えられるからです。
しかし、所有権を共有状態にすることは、問題を先延ばししたにすぎません。共有している人たちが賃貸業の経営に対して同じ方向性を持っているときは、問題ないかもしれませんが、必ずしも同じ方向性であるとは限りません。
経営に対して異なる方向性になった場合には、合意しないと何もできなくなります。まだ共有している人たちが判断することができる状態であれば、話し合うことによって、合意できるかもしれません。
また、相続が何回も続くと共有者がとんでもないくらいの人数になります。共有者が100人を超える状態になっているという場合もあるそうです。これでは、誰がどこにいるか?を調べることすら難しくなります。さらに、共有している人たちの一人でも認知症になってしまうと、共有している人たちで話し合い、合意することすらできなくなります。こうなると、何もできません。不動産が事実上の凍結状態になります。ですから、相続時に不動産の所有権を共有状態にすることは問題を先延ばししたにすぎないというわけです。所有権を共有状態にすることは避けるべきです。
家族信託Ⓡの場合においても、財産の分割方法を指定しておくことが可能です。受益権を分割することができます。しかし、家族信託Ⓡを用いずに所有権を共有状態にする場合と家族信託Ⓡを用いて受益権を分割する場合では、大きな違いがあります。
第4回で説明したように、信託契約を締結すると、所有権が名義と受益権に分離します(関連記事『家族信託Ⓡにおける「委託者・受託者・受益者」の役割とは?』参照)。そのため、受益権を分割して、受益者を複数人にすることが可能です。
「遺言書」を書くことで、丸く収まる場合もあるが…
一方で、受託者を一人にしておけば、賃貸業の経営が滞ることはないと考えられます。財産を分割する時にもめる理由は、誰かが資産を多くもらうことによって、もらう資産が少なくなる人が出るからであると考えられます。
つまり、所有権における名義が欲しいわけではなく、利益が欲しいわけです。ということは、信託契約を締結して、受益権を分割してしまえば良いと考えられます。つまり、実質的な利益を上げるということです。
そして、さまざまなケースが考えられると思います。
「不動産の管理はやりたくない。でも、賃料はもらいたい」と考えている人がいるでしょう。このケースは、正直、私は虫が良すぎると思います。賃貸業の経営をやりたくないと考えるのであれば、賃料をもらうべきではないと思います。しかし、大家さん本人が資産をあげたいと思うのであれば、受益権という形であげておいて、賃貸業の経営は受託者に任せることができるようにしておきましょう。
「この子どもは不動産の管理ができない。でも、賃料はこの子どもにあげたい」と大家さん本人が考えた場合はどうでしょう。大家さんの子どもが障がいを持っている場合には、どのような障がいであるかということにもよりますが、不動産の管理ができないことがあります。でも、賃料はあげたいと大家さん本人が思ったとしても、不思議ではありません。障がいを持っていない子どももいれば、その子どもに賃貸業の経営を行ってもらうということが考えられます。このようなケースでは、障がいを持っている子どもと障がいを持っ ていない子どもで不動産の所有権を共有状態にしてしまったときに、何もできなくなって しまうリスクがあります。一方で、家族信託Ⓡは非常に有効に機能させることができると考えられます。ですから、受益権を分割することによって、資産の分割対策を考えるとい うことが可能になります。
ただし、遺言書を書くことによって、丸く収まる場合もあります。一方で、遺言書がもめる原因となる場合もあります。とくに、もめるような内容はやめたほうが良いでしょう。丸く収まるであろうと考えていたとしても、遺言書に記載した内容をまったく伝えないということは、やめたほうが良いと考えます。遺言書で対応できると考えた場合には、家族で話し合ったうえで、遺言書を書くことをオススメします。
一方で、家族信託Ⓡの場合も同様に、受益者に話をしておくべきでしょう。家族信託Ⓡの場合は、分割しづらい不動産を信託財産にすることによって、分割しやすくなるというメリットがあります。分割の方法は、委託者が決めることができます。この点は、遺言書も同じです。
つまり、遺言書のほうが良いとか家族信託Ⓡのほうが良いとかそういうことではなく、どちらの特徴も理解したうえで、どちらを選ぶのか? もしくは両方用いるのか? 選択肢は一つではないということです。
さて、どちらにおいても、どのように分割しても構いませんが、遺留分については、考慮しておく必要があるでしょう! そのため、遺留分相当額を考慮して、遺留分相当額を先に受益権として、渡すという方法もあります。そうでなければ、遺留分を支払う順番を指定することは遺言書でなければできませんので、遺言書も書いておくことが必要になります。忘れないようにしてください。
また、民法改正において、遺留分制度が見直されます。「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害請求権」に変わります。民法改正による遺留分制度の変更が今後どのように影響してくるか? については、考えておく必要があるでしょう。