ダメだと思っていても、お菓子を食べずにいられない…
◆一番いけないこんな食べ方、糖質中毒の罠にはまった人
筆者のクリニックを訪れる患者さんには、そうとうひどい糖質中毒に陥っている人もいます。まさに、糖質中毒の罠にはまっているのです。
ある患者さんの、かつての食生活はこういうものでした。
【朝】
「飯がなければ始まらない」が口癖で、食欲があろうとなかろうと白いご飯をしっかり食べる。「ご飯こそが活力の元だ」と信じている。10時から11時くらいの間に、会社で出張の土産などで配られたお菓子を食べる。何もなければコンビニに買いに行く。「お菓子は健康によくない」と分かっているけれど、食ずにいられない。
【昼】
「午後の仕事に備えてしっかり食べよう」と、丼物などを食べる。15時から16時くらいの間に、やはりお菓子を食べる。
【夜】
お酒を飲みながらつまみを食べても、締めのご飯はしっかり食べる。その後、本を読んだり勉強したりしたいのだが、眠くなって寝てしまう。
ここで注目してほしいのが、午前と午後の両方に「我慢ができずにお菓子を食べる」というところです。本人は「ご飯はいいけれど、お菓子はよくない」と思っています。それでも食べずにいられないのはどうしてなのでしょう。
これは「反応性低血糖」によるものです。
この人は、食事のたびにご飯をたくさん食べています。そのため、食後1時間くらいして血糖値がかなり上がっていると推測されます。大きく血糖値が上がると、それを下げるために、大慌てでインスリンがたくさん分泌されます。すると、今度は血糖値が下がりすぎてしまいます。これを反応性低血糖といいます。
反応性低血糖は食後2~3時間で起きます。低血糖になると、だるさや吐き気、眠気など不快な症状が現れ、体は「この不快さを解消するために糖質をとろう」とします。それが「お菓子を食べずにいられない」につながっているわけです。しかも、糖質は体の中に入ると、脳の報酬系と呼ばれる回路を活性化し快楽を感じさせ、脳に「またそれが欲しい」と思わせます。その結果、糖質がまた欲しくなり中毒が強化されていくのです。
こうして、糖質中毒の無限ループにはまります。私が見る限り、普通に働いているビジネスパーソンに、こうした人はとても多いのです。
◆中毒に陥ると体のサインが聞こえない
そもそも、血糖値が上がるのは、「もうこれ以上、糖質はとらなくていいよ」という体からのサインです。本来、血糖値が上がれば満腹中枢が刺激されて、そこで満足するはずなのです。私たちの体には、こうした素晴らしいメカニズムが備わっています。
ところが、中毒になっていると、そうしたサインすら聞こえません。体のメカニズムさえ無視した行動をとるようになるのです。もう少し詳しく説明しましょう。
本来、私たちには、脂肪細胞から「レプチン」という食欲を抑え、肥満を防いでくれるホルモンが分泌されています。しかし、太ると脳の摂食中枢の「レプチン受容体」に、PTPRJという物質が強く働きかけるようになります。この状態を「レプチン抵抗性」と呼びます。
レプチン受容体は、その名が示すようにレプチンを受け入れるために存在します。ところが、PTPRJのせいで、レプチンがうまく受容体にくっつけず作用しなくなるのです。たとえて言うなら、“食欲”という“火事”を消すための消防車が、邪魔者がいるために出動できなくなるわけです。
つまり、糖質過剰摂取の生活をしていると、そのこと自体で太るだけでなく、メカニズムとして備わっている食欲抑制システムも働かなくなり、ますます糖質を食べ続けて太り、糖質中毒を悪化させるという負のスパイラルに陥ってしまうのです。
いくつ当てはまる? 「糖質中毒」チェック
◆中毒に気づかずにいれば、こんな地獄が待っています
あなたが今の自分に関して、どのくらい真剣に糖質中毒からの脱出を試みるべきか、判断するための材料を挙げてみましょう。今すぐチェックしてみてください。
□ご飯や麺類などの炭水化物が好き
□お腹も空いていないのについ間食をしてしまう
□缶コーヒーやジュースなど、清涼飲料水をよく飲む
□睡眠時間は確保しているのに日中に眠気に襲われる
□午後はとくにだるく、集中力がなくなる
□空腹でもないのにイライラする
□太っている、健康診断でメタボ予備軍と言われた
□両親のどちらかが糖尿病
このうち、一つでも当てはまるなら、すぐに行動に移してください。さもなければ、あなたの中毒はどんどん進行します。もう一度、まとめておきましょう。今のまま糖質中毒を見すごしていると、あなたの体に次のようなことが起きます。
①血糖値の乱高下による体調不良や眠気は、ますますひどくなります。
②気づかぬうちに動脈硬化が進行し、血管がボロボロになります。
③インスリンの働きによって太ります。
④βアミロイドタンパクが蓄積し、認知症になるリスクが高まります。
⑤重篤な糖尿病が待っています。
⑥糖尿病になれば、腎症や網膜症などの合併症が怖いだけでなく、がんにもかかりやすいことがデータで分かっています。