東京都心以外で人口増加が見込めるエリアは?
安倍政権による大胆な金融緩和政策により、国内の不動産は上昇傾向が続いている。特に首都・東京は、五輪という特需もあり、海外からも投資マネーが流入し、活況を帯びている。しかし問題は五輪以降。国内人口が減少トレンドに突入するなか、熱が冷めたあとの東京では「不動産バブルが弾けるのでは」と不安視する声もある。
そのようななか、都心回帰の流れも相まって、山手線内の都心であれば不動産投資はまだまだいける、という観測が根強い。果たして、ほかのエリアに未来はないのか。そこで東京の将来人口をメッシュ分析(図表1)したところ、興味深いエリアが見られた。
メッシュ分析は、黄色~橙で10%の人口増、緑~黄緑0~10%の人口増、青系色で人口減少を表すが、言われている通り、都心は人口増加が見込まれているのがわかる。注目すべきは、都心から見て北西エリアだ。東京郊外で人口減少を示す、寒色系の色が目立つなか、人口増加を示す暖色系の色が目立つ。エリアでいうと、練馬区と板橋区、路線でいうと西武池袋線と東武東上線が走るあたりである。
人口動態は、不動産投資・不動産経営を考えるうえで、重要なファクターである。そこで両エリアの不動産投資の現況と将来性を見ていこう。
◆東京23区で一番新しい「練馬区」
東京西部に位置する「練馬区」は、1947年、板橋区から分区して誕生。東京特別区の中で一番若い区である。「ねりま」という地名の由来には、「奈良時代、武蔵国に『のりぬま』という宿駅があった」「関東ローム層の赤土をねったところを『ねり場』といった」など諸説ある。
郊外型の農業が発展してきたエリアであり、農地面積は特別区の中で第1位。キャベツ栽培が盛んだが、実は名の知れた「練馬大根」は練馬区内ではほとんど作られていない。また「東映アニメーション」や「虫プロダクション」など、アニメ関連の企業が集積。その数は日本一で、「アニメのまち」として国内外に広くPRを行っている。
その練馬区の南東部に位置するのが「練馬」駅。西武鉄道池袋線と有楽町線、豊島線のほか、都営地下鉄大江戸線が乗り入れ、「池袋」には10分、「新宿」には17分程度でアクセス。西武有楽町線は「小竹向原」駅で東京メトロ有楽町線と副都心線に連絡し、有楽町線で「永田町」「有楽町」「豊洲」方面へ、副都心線で「新宿三丁目」「渋谷」さらには横浜方面へダイレクトにつながる。
「練馬」は練馬区政の中心であり、南口には高さ100m弱、特別区の区役所では2番目に高い(ちなみに1番は文京区)練馬区役所が建つ。また駅南口は商業の集積地でもあり、多くの飲食店が集まる繁華街を形成。北口は閑静な住宅地が広がる一方で、公共施設、医療施設のほか、深夜まで営業しているスーパーなどが入る複合施設「ココネリ」があり、居住性が高いエリアである。
◆物流の拠点として発展してきた「板橋区」
一方、練馬区と接する板橋区は、1932年に9町村が東京市に編入されたときに誕生。「板橋」は、平安時代には存在していた地名であり、石神井川に架かる「いたばし」が由来だという説が有力。江戸時代には、中山道の最初の宿場町であり、川越街道の起点(中山道との分岐は板橋宿平尾追分)として板橋宿が繁栄。宿場町の機能を失った明治以降、板橋宿一帯は遊郭として賑わった。
江戸時代は中山道、川越街道と重要街道が走り、近年は環状六~八号線、首都高速五号線など、重要幹線があいついで敷設されたこともあり、板橋区は物流の一大拠点として発展。このような背景から一帯には町工場が集積し、モノづくりの街としても知られてきた。戦前は軍需産業を目的とした産業、戦後は精密・光学機器や印刷関連産業などが中心に展開されている。
このような板橋区のなかで、将来人口の増加率が高いエリアのひとつが、東武東上線「成増」駅の周辺である。「池袋」駅からは10分ほどで、駅南口には東京メトロ有楽町線、副都心線の「地下鉄成増」駅がある。地下鉄駅を利用すれば、有楽町線で都心方面、副都心線で新宿、渋谷、横浜方面にダイレクトにリーチでき、交通の至便性が魅力的なエリアである。
駅周辺は商業施設が集積。駅北口の複合施設「ACT」には行政機関のほか、24時間営業のスーパーが入居。駅南口には、一時は本社機能も備えていた「ダイエー成増店」のほか、「なりますスキップ村(成増商店街振興組合)」を始めとする4つの商店街があり、常に人通りは絶えない。ちなみに商店街内にある「モスバーガー成増店」は、同社の第1号店である。
東京の人口のピークは2030年だが…
二つの地域を分析していこう。まずは人口増加率(図表2)。東京特別区の平均3.7%増に対し、板橋区は4.9%増だが、練馬区は0.8%増と、微増にとどまっている。現在、東京の人口増加のトレンドは、千代田区(24.0%増)、中央区(15.0%増)、港区(18.6%増)の3区が中心であり、そこから距離のある練馬区の人口増加率は鈍いと推測される。
世帯数と単身者世帯率(図表3)を見ると、板橋区は東京特別区平均と近しいが、練馬区は単身者世帯率が平均よりも10%近く低い。練馬区は緑の多い住環境から、子育てしやすいエリアとして知られており、家族層からの支持が結果として表れたと考えられる。
住宅事情を見ていく。空き家率(図表4)は、板橋区が東京特別区平均を上回り、練馬区は大きく下回っている。住居の建築年の分布(図表5)を見てみると、板橋区のほうが築年数の古い住居が多い。近年宅地化が進んだ練馬区のほうが、築浅の物件が多く、空室率を下げる要因になっていると考えられる。
賃貸物件における家賃の分布(図表6)を見てみよう。板橋区も練馬区も、6万~8万円がボリュームゾーンだが、練馬区では10~15万円という価格帯のボリュームも大きい。前出の通り、練馬区は家族層からの支持があり、その表れだと推測される。
不動産経営のトレンドは単身者狙いという流れがあるが、練馬区ではファミリー物件への投資も、ひとつの選択肢になってくるだろう。
駅周辺に絞って分析していこう。まず人口や世帯について(図表7)。両駅周辺とも、1世帯あたりの人数は2人を下回り、単身者ニーズの高いエリアだといえる。どちらの駅でも共通しているのが、アクセスの良さ。西武池袋線、東武東上線で「池袋」に10分程度で行けるほか、東京メトロ有楽町線、副都心線を利用すれば、都心方面や、新宿・渋谷方面にも乗り換えなしでアクセスできる。通勤・通学の利便性を重視する単身者にとって、大変都合のいいエリアなのだ。
さらに、直近の中古マンションの取引状況から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみよう(図表8)。2駅を比べると、「練馬」のほうが平米単価は高いという結果になった。これは「練馬」は区行政の中心地であり、このことが不動産価値を高める傾向にあるからだと推測される。とはいえ、両地域とも都心と比べて取引価格はリーズナブルである。
将来人口推移(図表9、10)を見ていこう。東京特別区の人口は2030年、13,882,538人でピークアウトしていくが、練馬区と板橋区は2040年にピークを迎える。平均と比較して10年も遅い。東京都心以外で不動産投資を考えるなら、両区は有力な選択肢になるだろう。
◆まとめ
今後、東京特別区では、勝ち組/負け組が鮮明になると推測される。将来人口の推移(図表11)を見てみよう。2015年を100としたとき、2040年の人口が110を超えるものを朱色、100~110までのものを黄色、100を切り人口減少が見込まれるものを青色で記した。やはり山手線内に駅を有したり、開発著しい沿岸部を有したりする区は、高い人口増加が見込まれる朱色に分類される。そこに練馬区も入り、安定的な人口増加が見込まれるなかの最上位に板橋区が登場する。両区とも、東京における勝ち組といえるだろう。
なぜ、両区が顕著な人口増加が見込まれているのか。その要因に考えられるのが、交通の利便性と不動産価格だ。
「練馬」と「成増」に代表されるように、都心方面はもちろん、池袋、新宿、渋谷という3つの繁華街に一本でアクセスできるエリアは都内でも希少だ。しかもこの地域の賃貸価格は比較的安価であり、居住地を選ぶ際、憧れなどを抜きにして、現実的な視点で候補になりやすい。今後、都内でも安定した賃貸需要が見込める練馬区、板橋区は、不動産投資の有力な候補地になりそうだ。