税務調査も基本的には「疑わしきは罰せず」が原則
税務調査が終わってから早くて2~3週間で、相続人の代表者、もしくは税理士に調査結果が伝えられます。ただ、調査時期や案件によっては何カ月もかかることもあります。調査が終了すると、税務署は調査結果を記載した検討事項一覧表なる書類を出してくることが多いのですが、そこから税務署との駆け引き、交渉がはじまります。
ある意味ここが本番といえます。調査官から検討事項一覧表を提出されたら、現場の調査官とその場で交渉するのが鉄則です。なぜなら、現場での交渉が一番手間もかからず、またこちらの主張も通りやすいからです。
●「事実認定」と「法解釈」
調査において、「事実認定」の問題なのか、「法解釈」の問題なのかという論争が起こることがあります。たとえば、被相続人の口座から相続人の口座に多額の預金が毎年のように移動されていたとします。
そのようなケースで実質的な預金の管理者が被相続人だった場合には、その「事実」を加味して、税務署はその預金を名義預金であると判断し、追徴課税を決定します。納税者としては、そのような「事実」はなかった、実質的な管理者は相続人だった、というような主張で、追徴課税を逃れようとします。
このように「事実」がどうだったかを争うような場合、それは「事実認定」の問題であるといえます。一方、「事実認定」で双方の意見が合致していることを前提に、その「事実」に当てはめる税法・通達の解釈が争われるケースもあります。これが「法解釈」の問題です。税務調査においては、何よりもまず、調査官と納税者の双方が納得できる、根拠の確かな、かつ客観的な「事実」があることが重要です。
その「事実」に正しく税法を当てはめれば、導かれる結論にも、双方異存はないはずです。しかし実際には、「事実」を認定するための証拠が乏しいことが多く、調査官も納税者も、お互い自分たちに有利な都合の良い「事実」を主張するため、結論がグレーになりがちです。
しかし、この「事実認定」の問題に関しては、相続人側に有利に働くことが多いです。なぜなら基本的に税務署側が「相続人はクロである」という証拠を提示しなくてはならないからです。税務署側が確たる証拠を提示できない場合には、「疑わしきは罰せず」ということで、相続人に追徴税を課すことはできません。
「他の税務署では認められた」は強力な武器になる
●他の税務署での前例を持ちだす
同じような事例にもかかわらず、他の税務署では認められたのに、管轄の税務署では認められなかったというようなことがあれば、他の税務署での「前例」を持ちだして交渉してみるのも1つの手です。
「他の税務署では認められたのに、今回認められないのはおかしいのでは?」と主張すると、「行政の統一性」に敏感な国家公務員の調査官としては、強気な指導ができなくなるのだそうです。したがって、「他の税務署では認められた」「前例はこうだった」と主張することで、調査を有利に進めることができます。
そういう意味では、多くの前例を経験している、経験豊富な税理士事務所のほうが調査では有利です。
●修正申告は小出しにする
修正申告は何度でもできますので、一気にすべての指摘事項について修正申告するのではなく、小出しにしていきます。なぜなら、一度修正申告書を提出してしまうと不服申立てはできないからです。修正申告は、税務署の決定に納得したうえで自ら行うものなので、行政処分に対して行う不服申立て制度は利用できないのです。
税務署からの指摘事項に納得していないにもかかわらず修正申告をしてしまうと、後で「やっぱり納得いかないので争いたい」と思っても不服申立てはできないので、納得のいかない事項に関しては、修正申告を出さないほうが良いでしょう。
たとえば、5000万円の預金が相続財産に含まれるか否かで税務署と見解が分かれたとします。その内の1000万円は、亡くなるわずか1カ月前に下ろしているので、どう見ても相続財産であり、交渉に勝ち目がないとしましょう。その場合には、まずはその1000万円だけ修正申告を出します。そして、残りの4000万円については順次交渉なり、もし税務署から更正処分を受ければ不服申立てなりをします。
更正処分は税務署にとって非常に面倒な作業です。ですから、全部でなくともある程度譲歩して修正申告すれば、税務署が更正処分をしてくる可能性は低くなるはずです。一般的に相続人は、「早く楽になりたい」「心配ごとをなくしたい」という思いで、一気に修正申告を済ませてしまおうとする傾向にあります。
しかし、慌てて交渉をまとめようとしてすべての要求をのむと、交渉次第でどうとでもなる、グレーな部分についてあきらめることになり、非常にもったいないのです。誰の目にも誤りが明らかな指摘事項から順に、こまめに修正申告を繰り返すことが、納得の行く結果を導くコツです。