どうしても「粉飾決算」してしまう日本企業の悲しき体質

2019年上期、話題になった「すてきナイスグループ」の粉飾決算。9月13日には、元取締役の男性が横浜地検で不起訴処分になっている。同年、デジタル放送事業を担う「エフエム東京」も、3ヵ年の営業利益計11億円分を過大に計上していたことが、内部告発によって判明している。なぜ「粉飾決算」はなくならないのか? 決算書に基づいた倒産リスク評価を行うソフトウェア「アラーム管理システム」を提供する、アロックス株式会社代表取締役社長・田中威明氏が解説する。

決算書は「誰に向けて」「何のために」にあるのか

なぜ決算書に「不正」があるのかといえば、構造的な理由があります。

 

そもそも決算書とは、会社が、誰かに向けて何かを報告するために、意図的に作成されているものです。ですから、決算書には必ず、作成者の意図が込められています。では、決算書にはどのような「意図」が込められているのでしょうか。それを知るためには、決算書が、主に誰に向けての「報告書」であるかを考える必要があります。

 

決算書がつくられるのはなぜかといえば、企業が、ステークホルダー(利害関係者)に、何らかの「報告」をしなければならないからです。企業のステークホルダーは、企業との間に「利害関係」を結んでいますから、企業が一体どのようなことをしているのか、常に気にしています。そこで「何も問題はありませんよ」「立派に企業活動していますよ」と報告するためにつくられているのが決算書なのです。

 

企業のステークホルダーとは、主に株主、金融機関、取引先、税務署、の四者でしょう。順番に解説していきましょう。

 

まず株主は、企業に出資を行い、その配当を受け取ります。また、所有する株を売却して利益を得ることも考えているので、株価が高くなることも期待しています。つまり株主というステークホルダーは、常に企業に対して「利益を上げること」それによって「配当を出すこと」「株価を上げること」を期待していると言えるでしょう。

 

次に、金融機関は、企業に対して必要な資金を貸し付けて、その返済を受けるとともに、金利も受け取っています。金融機関というステークホルダーは、やはり企業が十分な利益を上げて、そこから滞ることなく返済することを期待しています。

 

三番目が取引先です。取引先は、企業に対して何らかの製品やサービスを納品し、支払いを受ける立場にあります。取引先というステークホルダーもやはり、企業が必要な利益を上げて、支払いを滞らせないこと、納品を続けてくれること、取引が今後も続くことを願っています。

 

最期が税務署です。税務署は、企業が上げた利益のうちから何割かを、税金として受け取っています。これまでの三者のステークホルダーは、企業とギブ&テイクの関係にありましたが、税務署だけはそうではなく、ただ税金を受け取るだけの関係です。税務署もまた、企業ができるだけ多くの利益を上げて、納税額が増えることを期待しています。

 

このように、企業のステークホルダーはすべて企業が利益を上げることを望んでいます。ですからステークホルダーに良い「報告」をしようと考えるのであれば、決算書は必然的に「黒字」に「粉飾」されてしまうのです。

「利益を増やす粉飾」と「利益を減らす逆粉飾」

ところが、実際には、決算書の多くは「赤字」になっています。その理由は、もちろん企業が実際に儲かっていないということもあるのでしょうが、逆に「赤字」の「報告」をしたいというインセンティブもあるからだと、私は考えています。

 

では、企業はどのような場合に「黒字」の「報告」を望み、どのような時に「赤字」の「報告」を望むのでしょうか。それは、企業の借入金の金額と、社長の立場から、ある程度、判断することができます。

 

まず、第一のパターンは、借入金がない、もしくは少なくて、オーナー社長の場合です。この場合、基本的には自分が大半の株を持つ筆頭株主ですから、株主に報告書を上げる必要がありません。また、金融機関からの借入れもないので、金融機関に決算書を出す必要もありません。そのため、決算書で報告をしなければならない主なステークホルダーは税務署と考えられます。

 

この時、税務署は税金が多いほうが嬉しいため、企業の利益が多くなることを望みますが、企業側は逆に利益が少ないほうが、手元に現金が多く残ることになります。そのため、決算書上では利益を少なく見せるように「報告」する可能性が高くなるでしょう。

 

ギブ&テイクの関係が成り立たないステークホルダー、つまり、企業から見たら支払うだけのステークホルダーである税務署には、最低限のことだけをすればよいと考えるのは十分あり得ることです。事実、アップルやスターバックスなども納税額を減らすために税率の低い国に会社を設立し、その会社に利益を集めて納税額を少なくしています。

 

第二に、借入金が少なくても、サラリーマン社長である場合を考えてみましょう。この場合、社長は株主によって雇われているのですから、当然、最も大切なステークホルダーは株主になります。そのため、株主のために株価を上げたり、配当を出したりすることで自らの評価も上がります。つまり、利益を多く見せるように「報告」することになるでしょう。

 

第三は、借入金が多くて、オーナー社長の場合です。この場合は、一番目の場合にプラスして、金融機関にも決算書を提出しなければならなくなります。金融機関からの多額の借入金は、経営をするうえでの死活問題になるため、税務署よりも金融機関のほうがより優先度の高いステークホルダーとなります。そのため、利益を多く見せる決算書(報告書)が必要になります。

 

最期に借入金が多くて、かつサラリーマン社長の場合です。この場合は、株主、金融機関、税務署がステークホルダーになり、利益を多く見せるインセンティブが強く働きます。このケースは、上場企業のサラリーマン社長が多く該当するため、過去東芝とかオリンパスとか、会計不正のあった会社では、できるだけ多くの利益を計上しなければならないというプレッシャーが強かったことが想像できます。

 

つまり、上場企業は、株主への影響を考えて黒字にしたいと考えますし、非上場企業であれば、利益を調整して税額を少なくしたいと考えます。

 

またサラリーマン社長であれば、自らの評価を考えて黒字にしたいと考えますし、オーナー社長であれば、自らの取り分を考えて、税額を減らすために利益を減らしたいと考えます。

 

そして、借入金が多ければ、金融機関へ「返済余力」をアピールするために黒字にしたいと考えますし、借入金が少なければ、やはり税金を考えて利益を調整したいと考えます。

 

ちなみに、日本の中小企業の9割以上は同族企業であると言われています。同族企業≒オーナー企業であるとすると、ほとんどの法人には、利益を少なくするインセンティブがあることになります。

 

また、法人向けのビジネスをしているのであれば、決算書の開示を求められることが増えているので、取引先の信用を得るために粉飾が多くなりますが、個人向けのビジネスであれば、お客さんから決算書を審査されることはありませんから、逆粉飾が多くなるのではないかと私は考えています。だからこそ、日本には赤字の企業が多くなっているのです。

 

取引先にどのような決算書を提示するかは、その会社との付き合いや立場によって変わってきます。たとえば、長い付き合いのある会社から、厳しいディスカウントを求められるケース。そういった場合には、利益が出ていることを示す決算書をつくると、取引先から「もっと価格を下げろ」と言われかねません。そのため、あまり儲かっていないように見せかけた決算書をつくる可能性があるわけです。

 

一方で、新規に取引を開始したいと考えている会社に決算書を示すケースでは、利益が出ている企業であることを証明したいという心理が働きます。そのため利益を多く見せる粉飾が行われる可能性があるのです。

 

ですから、これまで述べてきたオーナー社長かサラリーマン社長かといった点や、借入れがあるかないか以外にも、その会社が皆さんの会社とどのような関係にあるかといった点にも注意を払う必要があります。

アロックス株式会社 代表取締役社長

大学卒業後、機械メーカーの営業職を経て、「倒産リスク情報」を販売する企業に入社。商社や金融機関、メーカーの調達部門などを中心に、数多くの企業の与信管理業務やサプライヤ管理業務をサポートする。2013年3月、アロックス株式会社を設立。決算書に基づいた倒産リスク評価を行うソフトウェア「アラーム管理システム」を提供し、「決算書を読めない人の数をゼロにする」ことを目標に、システム開発やセミナー等を行っている

著者紹介

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田中 威明

幻冬舎メディアコンサルティング

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