ネットの情報を鵜呑みにする患者さんも多いが…
以前は、歯の治療に関して不安があれば、歯科医院を訪れて先生に相談したり、治療して解決したりするしかありませんでした。しかし、最近では患者さんが自ら、インターネットで歯に関する情報を収集することも可能になっています。ただ、その情報は必ずしも正しいとは限りませんし、かかりつけの歯科医の治療方針と異なることもあるでしょう。
歯科医にとって、自分自身でいろいろと情報を収集してから来院する患者さんは、少々やっかいな存在です。情報収集した治療法が正しいものかどうかは、一般の患者さんには判断できないにもかかわらず、自分の仕入れた情報と異なる治療法を歯科医が提案すると、露骨に警戒する人も多いからです。
歯科医院を訪れる前に自分で情報収集する患者さんは、普通の患者さん以上に、歯に対する不安や関心を持っています。彼らが一番求めていることは、「自分の歯に対する不安を先生に聞いてもらい、治してもらうこと」だと考えるべきでしょう。そんな患者さんに対し、院長がどのように対応しているか見てみてください。
上手に対応する先生なら、患者さんの仕入れた情報を簡単に切り捨てて、気分を害させるようなことはしません。「たしかに、そんな説もありますよね。よくご存じですね」などといって、まずは否定から入らず、不安を受け止めた後に医院の治療方針を説明しているはずです。
そのほうが患者さんも満足し、納得しながら治療を受けられるというもの。繁盛している歯科医院の院長は、このように患者さんの気持ちに寄り添うことが上手です。
患者さんからの「突っ込んだ質問」への対処法は?
インターネットだけではなく、テレビ、新聞、雑誌など、さまざまなメディアを通して、歯に関する情報が氾濫しています。それを受けて患者さんから、「この前テレビで放送していたのですが、○○という治療法は効果がありますか?」「××社の新製品はどうですか?」などと、質問されることもあるかもしれません。そんなとき、勤務先の院長先生やスタッフは、どのような対応をしているでしょうか?
メディアが発信する情報の中には、いわゆる「トンデモ系」のものもあるので、聞かれたことすべてに歯科医が答えられるとは限りません。それでも、質問したことに答えられないと、患者さんに「この先生、勉強不足なんじゃないの?」などと思われる可能性があります。
そのため、歯科医院の中には、患者さんが見聞きしやすい範囲にある最低限の情報を、医院内で週替わりの当番制で収集しているところもあります。その情報収集が実際に役立つ局面は少ないかもしれませんが、顧客満足度を上げるための陰ながらの努力は、多くの繁盛歯科医院で行われていることです。
医院の経営に影響を与えかねない「レセプト」の問題
歯科医院に毎日勤務していれば、さまざまな治療において発生する保険点数は、おおむね把握できるものです。とはいえ、わかったつもりでいても、実は間違った認識を持っている先生が多いのも事実。それは、歯科の保険制度が複雑化しているからです。
レセプト(※医療機関が保険者に請求する医療報酬の明細書)をコンピューターシステムで判断するにしても限界があるため、歯科医にきちんとした保険請求の知識がなければ、レセプトに不備が生じます。また、請求もれも生じます。
レセプトに不備や間違いがあると、審査機関からレセプトを差し戻されたり、請求点数が減点されることになります。そうなると、もう一度作成し直すことになり、時間も手間も余分にかかります。
そうかといってあきらめてしまえば、診療報酬を受け取れなくなります。再提出しても、一度返し戻されたレセプトは、診療報酬の支払いが最低1カ月は遅れてしまいます。診療費が少なければまだ問題にはなりませんが、多い場合には歯科医院の経営に影響を与えることにもなるので、注意が必要です。
1件当たりの点数が高かったり、不備が相次げば、指導の対象にもなりかねません。指導、特に個別指導の対象となると、院長先生の精神的プレッシャーは相当なものとなります。勤務医時代は、レセプト返戻などの実情を、院長以外あまり知らないケースも多いものです。
しかし、それでは開業後に必ず苦労することになりますので、自主的に保険制度の勉強をしつつ、勤務先の保険請求の内容、やり方に興味を持ってみましょう。レセプトを作成した後、院長が内容を再チェックするなど、どこの歯科医院でもある程度確認作業には注力しているもの。レセプトの不備を極力なくすコツがどこにあるか、探してみてください。
勤務先の歯科医院で行われている「院内ミーティング」
繁盛している歯科医院と普通の歯科医院の違いの一つに、「院内ミーティングの有無」があります。患者さんが途切れない人気の歯科医院であれば、必ず院内ミーティングを定期的に行い、院長がスタッフとの意思疎通を図っているものです。
逆に、いま一つ伸び悩んでいる歯科医院では、ミーティングをやっていない場合が多いです。そのような歯科医院は、人数が少ないからミーティングは必要ない、と院長先生が思われているのかもしれません。
院内ミーティングを行わないと、院長は自分の考えをスタッフに的確に伝えられず、スタッフ側も、自分たちが何を期待されているのかがわからなくなって、コミュニケーション不足に陥ります。院長以下スタッフ同士のコミュニケーション不足は、歯科医院の経営に決してよい影響を及ぼしません。
スタッフが増えてくると、一人ひとりが自分の価値観を持っているので、人数が増えれば増えるほど全員が同じ基準で考え、同じ方向を向いて行動できる院内風土をつくることが重要になります。そのため、スタッフに「院長の思い」をわかりやすく伝えるためにも、ミーティングは必須です。
院内ミーティングの主な目的を整理すると、次のとおりになります。
① 院内のコミュニケーションを円滑にする
② 院内で生じた問題(患者さんからのクレームなど)と、その解決策を共有する
③ スタッフの指導・育成の場とする
④ 院長とスタッフの間に共通目標をつくる
⑤ スタッフのモチベーションを向上させる
⑥ 院長の仕事に対する価値観を伝える場にする
⑦ 歯科医院の繁盛につなげる
まず①ですが、スムーズに診療を進めるためには、スタッフ間の連携は不可欠です。定期的にコミュニケーションを図るタイミングがあれば、院内の雰囲気もときほぐされ、腹を割って話しやすい環境が生まれるでしょう。
また、②の院内で何らかの問題が生じたときには、院長以下スタッフ全員がその事実を共有し、同じことが起こらないように対策を講じる必要があります。その意味でも、院内ミーティングは貴重な機会です。
③にあるように、スタッフを指導・育成するという意味合いもあります。院長として気になること、指導しておきたいことは、院内ミーティングの場で共有するといいでしょう。診療に関することばかりでなく、ゴミの出し方や掃除の仕方、トイレットペーパーの補充のタイミング――といった一見些細なことも、院内ミーティングで話せば、スタッフ全員に周知徹底されます。
院長もスタッフも同じチームの一員なので、スタッフには単に「雇われて働いている」ではなく、何らかの目標を持って働いてもらったほうが、歯科医院全体の空気がよくなり、経営もうまくいくものです。
院内ミーティングを通して、一つのチームという意識を高めていけば、スタッフのモチベーションも上がっていくでしょう。
また、⑥にあるように、院長の歯科医院に対するビジョン(どんな歯科医院をつくり、どんな診療をやっていきたいか)や、これから取り組んでいきたいこと、改善したいことなど「院長の思い」を、スタッフにわかりやすく伝えることも大切です。スタッフに院長の胸の内がわからなければ、チーム一丸になることは難しく、それでは歯科医院を繁盛させるのも難しくなってしまうからです。
こうした院内ミーティングの鉄則を踏まえて、勤務先の歯科医院で行われている院内ミーティングがどんなものかチェックしてみましょう。具体的には、次のような点に注目してみてください。
① テーマ
② 頻度
③ 雰囲気
④ 院長の態度
⑤ 所要時間
⑥ 誰が司会・進行役をやっているか
⑦ 参加者の態度
⑧ 院内ミーティングで決定したことが、以後どのように実行に移されているか
①については、毎回どのようなテーマで話し合いが行われているか、記録しておくといいでしょう。「どうやって患者さんを増やすか」「自由診療につなげるか」といった部分を、よく話し合う歯科医院が多いようです。
中には、スタッフ全員が「今の歯科医院の欠点」を挙げることで、状況の改善を図る取り組みをしている歯科医院もあります。院長1人が考えて指示を出すのではなく、同じ舟に乗っている仲間同士、手を携えてよりよい歯科医院をつくろうという意識が、繁盛している歯科医院には徹底されているものです。
また、②のどれくらいの頻度で院内ミーティングが行われているかも、意識しておきたいところです。繁盛している歯科医院では、短めのミーティングを毎日や週1回、本格的な長いミーティングを月1回など、定期的に開催しているものです。短いミーティングは朝礼として、または、昼休みなどを活用して行うことも多いのですが、勤務先ではどの時間帯で行っているかもチェックしましょう。
③の雰囲気についてですが、歯科医院によっては、院内ミーティングがただのルーティンワークになって、誰も大した意見を出さず、実りのないまま終わっている例もあります。これではミーティングの意味がありません。適度な緊張感がありつつ、スタッフも意見しやすい雰囲気づくりができているかどうか。できているなら、どのようにしてその雰囲気が維持されているかを考えてみましょう。
④の院内ミーティングに臨む院長の態度もチェックしておきたいところです。よい院内ミーティングとは、院長が一方的に話して終わるものではありません。なお、院長が穏やかな雰囲気なら、スタッフも本心から話ができます。細かいことですが、院長がどのようにスタッフの話に相づちをして、意見を引き出しているかにも着目しましょう。
続いて⑤ですが、院内ミーティングをだらだらと長く続けていても、集中力を持続することはできません。といって、短すぎても、実りある話し合いはできないでしょう。限度は90分程度と考えられますが、勤務先の院内ミーティングの所要時間を確認してみてください。
⑥の司会・進行役については、歯科医院によってさまざまですが、院長自らがやっていることもあれば、持ち回りで担当が変わる歯科医院もあります。
⑦にあるように、参加者の態度も見ておきましょう。全員がきちんと遅刻せずに参加するか。事前に配布された資料などがある場合、目を通してきているか。全体として、参加者が院内ミーティングを軽視することなく、ピリッとした緊張感を持って臨んでいるかどうかを確認します。
最後に、院内ミーティングで話し合ったことが、きちんと実行されているかどうかも、気にしてみてください。せっかく話し合って決めたのに、何事も実行に移されていなければ、ミーティングを開催した意味がありません。もし、実行されていないことがあるとしたら、何が原因か考え、自分が開業したときに備えて改善策を考えるのもいいでしょう。
患者さんの「いいがかりに近いクレーム」はどうする?
どこの歯科医院でも、患者さんからのクレームはつきもの。明らかに歯科医院側に落ち度がある場合もあれば、いいがかりに近いクレームもあります。たとえば、次のようなクレームがきたとき、みなさんならどうするでしょうか?
① 「そちらの病院で歯を抜いたが、別の病院で診てもらったら、抜く必要はなかったといわれた。医療ミスではないか?」
② 「(かなり前に)そちらで治療した歯がどうしてもしみて痛い。そちらのミスだと思うから、無料で治療してほしい」
どれも対処に困るクレームですが、ときとしてこのようなことをいってくる患者さんも(人数は多くないにせよ)いらっしゃいます。中には、受付で激昂した患者さんが暴れ出して、警察に通報するような事態に陥ったり、患者さん自身が反社会的勢力とつながっていて、意図的にゆすり・たかりをしてくる――といった、悪質なケースもあるようです。
したがって、かなり慎重な姿勢で臨まないと、思わぬトラブルに巻き込まれ、診療に支障を来したり、歯科医院の評判を落としたりすることにもつながりかねません。最近はインターネットの掲示板などに、中傷に近いクレームを書き込まれることもあるので、注意が必要です。
歯科医院の側からすると大して問題がない行動でも、「説明なしに痛い治療をされた」「頑張っている子どもに優しく接してくれなかった」「スタッフの愛想が悪い」といったことがクレームの原因になり、またインターネットにも悪い評判を書き込まれがちです。
勤務医時代に、そうした多種多様なクレームに対し、歯科医院がどのように対応しているかを学べれば、自身が院長になり、責任をとる立場になったときに、必ず役立つでしょう。加えて、医療事故があったときにも、その歯科医院にとっては不幸なことですが、勤務医にとっては対応の仕方を学ぶまたとない機会です。
何度もあることではないので、千載一遇のチャンスと思って、歯科医院の対応を学んでください[図表]。たいていの歯科医院は、クレームや事故が発生したとき、処理後にスタッフ全員でミーティングし、同じことが起こらないように対策をしていくはずです。場合によっては、クレーム対応の外部研修会やセミナーへ参加させられることもあるので、そうした機会があれば積極的に参加するといいでしょう。