英語が話せない英語教師・真穂、奇妙な英会話教室に出逢う

もしも高校四年生があったとしたら、そのぶん英語は上達するのか? 個人レッスン、オンライン英会話、どれをやっても英会話ができなかった英語教師・桜木 真穂が、風変わりな英会話教室で、新しい英語学習法を学びます。本連載は、金沢 優氏の小説『もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか』から一部を抜粋し、これからの英会話学習法をご紹介します。

 

 (物語の主な登場人物は、ここをクリック) 

 

オンライン英会話なら上達すると思ったが…

「今日は本当に疲れた~」帰りの電車の中で、千賀子はつり革に掴まりながら、大きな欠伸をした。

 

時刻は夕方の七時前で、外はまだ明るかった。大きな夕陽が眩しく、車内を鮮やかに茜色に染めていた。

 

私は家庭科部の顧問なので、運動部の先生に比べると早めに帰宅ができる。そのため、今年の部活の担当が決まった時は、空いた時間で英会話の勉強を本格的に再開しようと思ったものだったが、それを知った阿蘇先生から雑務を振られることが極めて多くなった。

 

たとえば先月の修学旅行では、なんと総合指揮の任務を振られ、旅行会社との打ち合わせはもちろん、しおり作りやイベントの企画など、多忙を極めた。土日はもちろん、深夜でも進捗状況を逐一電話で尋ねてくる阿蘇先生には、精神が壊れそうになった。

 

こうして、阿蘇先生から振られた雑務もなく、千賀子が顧問を務める合唱部の活動がない日は、私たちは一緒に早上がりすることが通例となっていた。

 

「ねぇ、真穂。英会話のことなんだけどさー。ほら、オンライン英会話とかどうなの? 最近流行ってるじゃん」

 

どうやら千賀子はあれからずっと、私の英語について心配してくれていたようだった。

 

「うーん。私には・・・あんまり意味がなかった、かな」

「え?『なかった』って、もう試したの?」

 

そう、去年のことだ。私はいくつかのオンライン英会話も試した。従来の英会話スクールと比べて、安くて自宅で受けられる点で、オンライン英会話は数年前から急激に利用者を増やしている。

 

私が試したものは講師が全員フィリピン人で、一レッスン二十五分当たり約二百円という、マンツーマンスタイルのサービスだった。ちなみにこの値段は、私が以前通った英会話スクールと比べると、約一〇パーセントに当たる。価格破壊もいいところだ。

 

もちろん、短所はある。それは、彼らは英語のネイティブスピーカーではないということだ。アクセントに訛りがあったり、たまに文法にミスがあったりする。加えて、インターネット回線を通じてのレッスンのため、システム上のトラブルが何度かあった。

 

レッスンを受け始めた当初は、目新しさから前向きに臨めていたのだが、決められた対話集を読み合うというスタイルに効果を感じなかった私は、フリートークをお願いするようになった。そうすると一方的に講師が話し、私はずっと聞き役に回るようになった。これでは、ジェームスとのレッスンと全く変わらないと気付くまで、それほど時間はかからなかった。

 

結局仕事の忙しさも相まって、モチベーションも段々と落ち、レッスンを休みがちになった私は次月の更新をせず、そのサービスを終えた。その後、試しに違うオンライン英会話もいくつか体験したが、結果はやはり一緒だった。そう、『上達を感じられなかった』のだ。

 

そんな私の失敗体験を聞き、千賀子は私へのアドバイスを諦め、「I’m sorry to hear that.」と言った。

 

私は視線を窓の外に移した。夕陽がビル群の向こうに落ちかけており、まるでこれからの私の将来を暗示しているような気がした。

変わった英会話教室…奇跡の出逢い

その時だった。「ガクッ」と列車が急停車し、私たちの体が大きく横に揺れた。車内が騒然となり、私たちは窓から外を覗き込んだ。事故だろうか。そして次の瞬間、車内にアナウンスが流れた。

 

「えー、ご乗車の皆様にお伝え致します。ただ今、踏切内に人が立ち入ったとの連絡が入りまして、現在安全確認を行っております。もうしばらくお待ち下さい」

 

車内にため息と不満の声が充満した。やれやれ、何てことだ。今日は早めに帰って、単語テストでも作ろうと思っていたのに。

 

「何あれ?・・・Something strange.」

「え?」となった私は、千賀子が指さす方向に視線を向けた。

 

すると、『吉原龍子英会話教室』という看板が、ある雑居ビルの三階にかかっているのが見えた。今まで二年間、毎日この列車に乗っていたのに、初めて見た看板だった。といっても、この区間はいつもノンストップで駆け抜けているので、それも仕方のなかったことかもしれない。

 

しかし、このご時世に自分のフルネームを教室名に入れ込むなんて、時代錯誤じゃないだろうか。英会話教室ならもっと横文字を使った、お洒落なネーミングもあっただろうに。看板自体も古いし、汚い。まだ運営しているのかも怪しい。

 

「なんか・・・怪しさ一〇〇パーセントって感じ」

 

プププと千賀子は口元を押さえた。確かに怪しい。怪しすぎる。何で英会話業界って、こう怪しげなものが多いんだろう。やれやれと思い、視線を戻そうとした私だったが、教室名の下に書いてある、長ったらしいキャッチフレーズのようなものに、ふと目が留まった。

 

『もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになると思いますか?』

 

何なんだろう、その意味は。私はその文言を心の中で反芻(はんすう)した。変なキャッチフレーズだ。何の意図があって書かれたのだろう。妙に私の心に残った。

 

こうして、私はついに出逢った。英語を勉強し始めてから、ずっとずっと出逢いたかったものに。これを奇跡と言わずして、なんと言おうか。私は神様に感謝した。そして、踏切内に立ち入った人に。いや、もしかして神様が立ち入ったのかもしれない。でなければ、父だ。父が電車を止めたのだ。それだと、すべての辻褄が合うのだ。

 

(次回に続く)

英会話講師・脚本家

石川県出身。上智大学法学部国際関係法学科卒業。第13回、31回シナリオSIグランプリ入賞。第31回入賞作を大幅に加筆修正し、『もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか』を出版。

著者紹介

連載英語教師が立ち向かう新しい英会話学習~『もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか』より

もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか

もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか

金沢 優

幻冬舎

英会話スクール、オンライン英会話、ハウツー本・・・。すべてに挫折してきて、教育指導要領改定に戦々恐々とする英語教師・桜木真穂。ネイティブスピーカーの同僚を羨み自分に自信を失う中、偶然であった英会話教室で「今まで…

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