「物納」「延納」も制度的に存在するが・・・
相続税は現金一時納付が原則となっています。つまり、全額をキャッシュで納めなければなりません。
たまたま不動産需要が高いときに相続が発生して、不動産を購入してくれる人がすぐに現れれば、不動産を売却して相続税納付のための十分な資金を確保することが可能となるでしょうが、そうなる保証はありません。
その場合には、現金による一括納付が困難となるおそれがあります。
ご存じの人もいるでしょうが、相続税については、制度的には、「延納」や「物納」も認められてはいます。「延納」とは相続税を分割で納めること、「物納」は現金ではなく、相続した不動産などの現物で納めることです。
これらの制度は、かつては、現金による一括納付が困難な場合の救済策として機能していました。たとえば、物納については、とりあえず物納申請しておき、現金を工面した後で、申請を撤回するという手法が使えたのです。
しかし、現在はこのような手法をとることは認められておらず、物納自体が認められにくくなっています。延納も同様です。
納税資金を確保するためには「争続対策」も求められる
このように物納・延納が困難な状況であることを踏まえて、相続税を現金で一括納付できるように準備しておくことが何よりも重要となります。
前述のように、相続が始まってから、不動産を売って現金を工面しようとしても、相続人同士で争いがあれば、納付期限までに売却が間に合わないことがあります。
したがって、納税資金を確保するためには「争続対策」も求められることになるのです。
また、相続対策は、10年、20年というできるだけ長期的なスパンで行うことが理想的です。もちろん、仮にわずかな時間しかなくても、相続対策が全くできないわけではありません。
たとえば、次回以降に説明する贈与や養子縁組などの手法を使えば、仮に相続まで1カ月程度しか時間がなくても、相続税の額をある程度減らすことは可能です。
しかし、時間があればあるだけ、それに比例して、具体的にとりうる手段の選択肢が増えます。その結果、個々の状況に応じた最も望ましい、ベストの相続対策をとることが可能となるはずです。
筆者自身の経験としても、相続が始まってから、あるいはその直前にスポット的に依頼を受けた場合と、長くお付き合いしてきた顧問先から依頼を受けた場合とでは、サポートできる内容が大きく異なってきます。