相続は「突然」始まる
本連載では、「資産防衛対策」について解説していきます。その内容について詳しく説明する前に、まずは、具体的な相続対策を行ううえで、おさえておきたい基本的なポイントについて触れておきましょう。
そもそも相続は、その性質上いつ起こるかを知ることができません。つまり、相続は常に、誰も思っていなかったようなときに突然始まるわけです。
突然の相続に直面したときに、まず真っ先に思い浮かぶのは、おそらく相続税の問題です。
たとえば、野村総合研究所が2011年に行った「相続に関する実態調査アンケート(2011年)」では、相続が発生したときに困った(知りたかった)内容についても調査しており、その回答の中で最も多かったのは、「特に知りたかったことはなかった」を除けば、「税制について(34.1%)」でした。
ことに都市農家の方々は、毎年の確定申告を農協に派遣した税理士のもと相談会場で行っていることが多く、顧問税理士がいないという人が少なくないはずです。いつ起こるか知りえない相続が始まると、
「そもそも相続税がかかるのだろうか」
「かかるとすればいくら支払わなければならないのか」
「申告のためにはどのような手続きを経なければならないのか」
などといった、基本的な問題から頭を悩まされることになるのです。
手続きのタイムリミットはわずか「10カ月」!?
相続税については、その対応を困難に感じさせる制度的な問題も存在しています。
まず、相続税の申告と納付は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。つまり、相続税のタイムリミットは、被相続人が亡くなってからわずか10カ月間しかないのです。
通常、相続に関する家族間・親族間の話し合いは、四十九日法要以降に始めることが多いでしょうから、その日数を差し引けば、実質的に申告・納付期間は8カ月余りしかありません。
このようなわずかな期間で、納税資金を工面しなければならないことを、まずはしっかりと認識しておかなければなりません。一括で納付できるだけの現預金があればともかく、そうでないとしたら、納税資金を確保するために相続した土地の一部を売らなければならなくなるかもしれません。
しかし、農地の場合、宅地のようにただ右から左へと売るわけにはいきません。その前に、農地法等で定められた様々な手続きをふむ必要があります。そのために費やされる時間も考慮しなければなりません。
たとえば、生産緑地を処分するのであれば、その解除のために最低3カ月間はかかります。さらに、宅地造成等の開発行為を予定しているのであれば、都市計画法上の許認可のために、2、3カ月は必要となります。これだけで、相続発生から半年が過ぎてしまうのです。
そこから、のんびりと買い主を探し始めたりなどしたら、たとえ売却することに成功し、納税資金を確保できたとしても、とっくに納税の期限が過ぎているかもしれません。
しかも、以上のような売却までの流れは、あくまでも遺産分割協議がすんなりと進んだ場合の話です。もし、相続人間で、相続財産の分割方法について話し合いがまとまらなければ、不動産を処分することなどできません。
「遺産分割協議がまとまらず、気づいたら10カ月間が過ぎていた・・・」というようなことは十分にありえますし、実際珍しいことではありません。