相続税は、事前の対策によって大きく納税額が変わる税金です。その対策方法は相続人・被相続人が置かれた状況によって異なり、それぞれのケースに合わせた対応策が必要です。本記事では、相続税申告200件以上を経験した相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の天満亮税理士、竹下祐史税理士が、実例をもとに、現状を分析した上で実行すべき「相続対策」について解説します。今回は、相続税の節税につながる「養子縁組」の基本やトラブル事例について見ていきます。

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相続税の節税につながる「養子縁組」とは?

相続税申告を日々の業務としていると、養子縁組をしているご家族に関わることも珍しいことではありません。

 

特に地方の地主さんですと、本家相続、下の世代への円滑な相続、という面から、長男の『長男』を養子縁組することにより、代飛ばし相続(孫に直接、財産を承継する方法)を実行している方が比較的多い印象です(いわゆる孫養子)。そのような養子縁組をすることにより、法定相続人の数が増えるからです。

 

【参考】国税庁のタックスアンサーNo.4170より引用

1 相続税の計算をする場合、次の4項目については、法定相続人の数を基に行います。

(1)相続税の基礎控除額

(2)生命保険金の非課税限度額

(3)死亡退職金の非課税限度額

(4)相続税の総額の計算

 

相続税の計算の仕組み上、法定相続人の数が多い方が非課税の枠も増えることになりますので、養子縁組により法定相続人が増えることが結果的に相続税の節税につながることになります(ただし孫養子の2割加算は検討する必要あり)。

 

そうなると、やみくもに「養子縁組に入れて相続税を減らせばいい」と考える人も出てくるかもしれませんが、(税法上は)人数の制限が設定されています。

 

【参考】国税庁のタックスアンサーNo.4170より引用

2 これらの計算をするときの法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定数に制限されています。

(1) 被相続人に実の子供がいる場合…一人までです。

(2) 被相続人に実の子供がいない場合…二人までです。 ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記(1)又は(2)の養子の数に含めることはできません。

 

 

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法定相続割合が「3分の1から4分の1」に…

養子縁組をするためには、もちろん一定の要件を満たす必要はありますが、その要件さえ満たせば、役所での比較的簡単な手続きで済ませることができます。

 

簡単にできて、相続税も減らせる、というところだけに注目して安易に養子縁組をすると、思わぬトラブルにつながることがありますので、注意が必要です。

 

【トラブル事例1】Aさんの場合(他の相続人に知らせずに養子に入れていた)

相続人:長男、長女、二男、養子(=長男の子)

 

筆者はAさんが亡くなられた後に、ご長男さんとお会いして相続税申告業務の依頼を受けました(筆者はAさんと面識なし)。

 

Aさんには3人の子どもがいて、本来であればこの3人が法定相続人となります。法定相続割合は3分の1ずつ、遺留分は6分の1ずつです。

 

しかし生前、家を守るために、長男一家への本家相続を実現しようと、Aさんは長男の長男を養子に入れていました。当然、Aさんと同居していたご長男さんは養子の事実を知っていましたが、ご長女さんとご二男さんは別居していたこともあり、この事実を知りませんでした。Aさんとご長男さんの感覚からすると、「わざわざ長女と二男に知らせる必要もない」、ということだったようです。

 

しかし、この事実をAさんの死亡後に知ったご長女さんとご二男さんは、烈火のごとく怒りました。大事なことを隠されていたということに対する感情的な面、法定相続割合が3分の1から4分の1に減ったという経済的な面、その他いろいろな面が混じっての怒りだと思われます。

 

Aさんは遺言を遺されていなかったため、相続人4名による遺産分割協議が必要となりますが、そんな状態で冷静な遺産分割協議の場が設定できるはずもありません。

 

もしも生前にAさんやご長男さんとお会いできていたら、①遺言の作成②他の相続人への事情説明、も一緒に勧めなければいけなかったと思います。

「認知症の母をそそのかしたのか?」長男が激怒

【トラブル事例2】Bさんの場合(意思能力に問題がある人に養子がいた)

相続人:長男、養子(=姪)

 

筆者はBさんが亡くなられた後、Bさんの養子である姪御さんにお会いして相続税申告業務を依頼されました(筆者はBさんと面識なし)。

 

姪御さんは、Bさんが亡くなられる前の数年間、一人暮らしであるBさんの身の回りのお世話をしていたそうです。ちなみにご長男さんは結婚されていて、Bさんとは別居です。しかも、Bさんのご自宅からは遠方にお住まいでした。

 

そんな状態の中、Bさんは姪御さんに報いたいということで、姪御さんを養子に入れ、なおかつ「自身の財産を全て姪御さんに」という遺言も作成されました。姪御さんが遺言の存在を知ったのは、Bさんが亡くなられた後ですが、その内容を見て驚きました。

 

財産なんて全部もらえないし、もらうつもりもない。 とはいえBさんの遺志は尊重したいので、まったく無視するわけにはいかない。 であればご長男さんに、遺留分(4分の1)くらいはきちんと払いたい…そんなお考えでした。

 

しかし、その事実を知ったご長男さんは、激怒しました。

 

相続人は自分一人。 そもそも母(Bさん)は認知症だったのでは? そんな母をそそのかして手続きした養子縁組自体が無効だろう。

 

結局、このご長男さんは、養子縁組無効の訴訟を起こしました。

 

今回は養子縁組によるトラブル事例の、ほんの一例をご紹介させて頂きました。いろいろな事情で、養子縁組をご検討されている方もいらっしゃるかと思います。後々のトラブルにつながることがないように、慎重な対応が必要となりますので、充分にご注意ください。

 

 

税理士法人ブライト相続 税理士
天満 亮

税理士法人ブライト相続 税理士
竹下 祐史

 

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