ドイツ自動車産業の生産量が低迷、今後も悪化か
9月23日に発表されたドイツの総合PMI(購買担当者指数・9月)は49.1と、8月の51.7から大幅に低下した。事前予想は51.5と小幅な低下にとどまると見られていたが、景気判断の節目とされる50をも下回り、2012年10月以来、約7年ぶりの低水準となった。
ドイツ製造業の低迷ぶりが深刻になりつつある。理由としては、規制強化のなかで自動車産業関連の生産量が落ちていることや、世界的な通商摩擦のエスカレートによる貿易量の減少、そしてイギリスの<合意なき>EU離脱懸念から受注が低下していることが影響している。
またユーロ圏の総合PMI(9月)も50.4と、市場予想の52.0を下回り、こちらも約6年ぶりの低水準に落ち込んだ。調査を実施しているマークイット社は、ユーロ圏の第3四半期の成長率が+0.1%にとどまると予想しており、PMIのトレンドから推測すると、今後さらに悪化する可能性があると指摘した。
ドイツPMI統計を手掛かりに、欧州債券市場では、全般的に価格は上昇、利回りは低下した。外為市場では、ユーロが主要通貨に対して下落し、対米ドルでは一時、1ユーロ=1.10ドルを下回り、1ユーロ=1.0966ドル程度まで下げた。9月に入って3度目の1.10ドル割れであり、ユーロ下落の動きには要注意であろう。短期的な下落の目処は、1ユーロ=1.084ドル。
ECBの政策には内部での異論も多く、効果は期待薄
9月12日には、欧州中央銀行(ECB)が、0.1%幅(-0.40%から-0.50%へ)の利下げと、量的緩和(QE)の再開、長期資金供給オペ(TLTRO)の条件緩和を決定し、包括的な追加金融緩和策を実施した。しかし、一部の政策委員から決定に対して異論が噴出したことや、今回の金融緩和策は象徴的な意味はあっても、政策効果に対する懐疑的な見方が広がったことから、市場では目立った金利低下はなく、むしろ金利が上昇するなど、反応は芳しくなかった。
23日、欧州議会で証言したドラギECB総裁は、クノット・オランダ中銀総裁やバイトマン・ドイツ連銀総裁が、包括的金融緩和策について、政策委員会の場以外に、公の場でも反対意見を表明したことについて、ECBの追加金融緩和策の効果を弱め、ユーロ圏経済に悪い影響を及ぼしかねないとして、不快感を示した。
ただ、ECBの追加緩和策も、これまで検討してきた政策を出し尽くして、打つべき策は打ったとも受け取れるが、効果については、市場の反応に現れているように、期待が大きいとはいえない。
むしろ、金融政策では、すべてをさらけ出して、欧州委員会や財政政策に乗り気でないドイツ与党などに圧力をかけるべく、ECBがボールを投げたと見るべきなのだろう。20日のメルケル・ドイツ首相のコメントからは、財政均衡にあくまでこだわる姿勢を崩していないようだが、PMIが、ドイツでもユーロ圏全体でも低下していることは、景気対策・財政政策への世論の期待の高まりにつながる可能性はあろう。
財政改善を理由にスペインの長期ソブリンは格上げ
ところで、有力格付け会社の一角であるS&P社は、20日に、スペインの長期ソブリン格付けを「A-」から「A」に1段階引き上げたと発表した。理由は、ユーロ圏経済の減速にもかかわらず、スペイン経済が底堅く、財政面でも改善が見られるからだという。政府債務の対GDP比率も安定的に低下傾向にあることが評価された。
一方で、S&P社の発表では、スペインの2019年の成長率を2.2%と予想するものの、来年以降にかけては個人消費が軟調に転じ、貿易相手からの需要も鈍化することが予想され、経済成長率は低下するとのことである。
ユーロ圏と一口に語ることの難しさを改めて感じさせる。ただ、ドイツ経済は、ユーロ圏経済のメインエンジンであり、年央からの落ち込みは大きいことが懸念される。当面、ユーロの振れには気を配っておきたい。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO