増える人手不足倒産…「社員を軽視している会社」の断末魔

中小企業の人手不足が深刻化しています。2018年上半期における「人手不足倒産」の件数は3年連続で前年同期を上回り、2013年1月の調査開始以降の半期ベースでも最多を記録しました。中小企業が生き残るためには、まずは冷静に問題点を分析することが求められます。そこで本記事では、菓子卸・流通業でナンバーワンの利益率、在庫回転率、返品率の低さを実現した株式会社吉寿屋の神吉武司氏が、中小企業の問題点について解説します。

「優秀な人に来てほしい」では採用できない

採用活動を行うとき、できれば「優秀な人に来てほしい」というのが経営者の共通の思いでしょう。しかし厳しいことを言うようですが、理想どおりの人材は中小企業にはなかなか来てくれません。

 

「優秀な人」の捉え方はさまざまで一概には言えませんが、帝国データバンクの「人材確保に関する企業の意識調査」の結果を見ると、求める人材像の輪郭が浮き上がってきます[図表]。

 

出所:帝国データバンク「人材確保に関する企業の意識調査」(2017年4月発表)
[図表]企業が求める人材像 出所:帝国データバンク「人材確保に関する企業の意識調査」(2017年4月発表)

 

この調査結果を総括すれば、企業が求める人材像は「意欲的でコミュニケーション能力が高く、素直・真面目・誠実で明るい性格を持ち、かつ専門的なスキルを持って行動力がある人材」といったような定義に落ち着くでしょうか。

 

大企業と中小企業の比較で注目すべき点としては、大企業はコミュニケーション能力の高い人材を求める傾向がある一方、中小企業や小規模企業は素直でかつ専門的なスキルを持っている人材を求める割合が高いところです。

 

大企業は組織の論理で考え行動する必要があるため、協調性がとりわけ求められるのでしょう。対する中小企業は朝令暮改も当たり前のトップダウン経営が多く、さらに少数精鋭部隊で仕事を回していますから、そうした独特の組織に素直に順応し、即戦力として活躍してほしいという期待が表れていると感じます。

 

加えて調査では学歴は除外されていますが、中小企業経営者の本音としては「学歴」にもこだわりがあると思います。なかでも将来の幹部候補には、できれば高学歴の人材が欲しいと願う気持ちがあるはずです。

 

もちろん難関大学を出たからといって仕事ができるとは限りません。ですが難易度の高い試験に合格するための努力を続けて結果を出した人は、その後の人生でも努力を継続し、成果を残せる人が多いように感じます。

 

以上のような資質を持ち、かつ高学歴の人材というのは貴重で希少ですから、企業規模の大小を問わず多くの会社も同様に必要としているはずです。昨今の売り手市場で就職先を選べる求職者の立場になれば、やはりブランド力があり、収入も高く、労働環境も整備された大企業で働きたいと願うのが妥当でしょう。

 

独自技術を武器に世界で活躍しているような中小オンリーワン企業は例外としても、一般的な中小企業が大手と肩を並べて勝負できるだけのブランド力やネームバリュー、待遇、労働環境、福利厚生といった「器」を用意できるのかといえばなかなかそういうわけにもいきません。

 

それでも中小企業が優秀人材を無理して採用すると、結局は定着率の低下に悩まされるようになります。例えば以前、大手家電メーカーで活躍していた人をヘッドハンティングし、役員待遇で雇い入れた中小企業がありました。しかし結局、その人は中小ならではの未熟な管理体制に早々と見切りをつけ、半年も経たずにまた別の大企業に再就職したと言います。

人件費の増加に悩まされる中小企業も

加えてもう一点、加熱する人材争奪戦のあおりを受けて、人件費の増加に頭を抱える中小企業が少なくありません。特に昨今では運送会社や建設業界の人件費高騰は危機的なレベルに達しています。運送会社はインターネット通販の発達で小口配送が急増し、ドライバー不足を背景に人件費が高騰しています。

 

建設業界に至っては民主党政権時の公共工事減少、リーマンショックによる建設不況などで施工業者の数が大きく落ち込んだのち、東日本大震災の復興需要や東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う建設工事が急増したため、近年は人材がまったく足りない事態に陥っています。

 

いくら給料を引き上げても人材が確保できず、外部の技術者に頼らざるを得なくなった結果、売上は増えたものの労務費も拡大し、赤字額が膨らむ悪循環に陥るケースが少なくありません。なかには赤字工事の埋め合わせをするために新たな赤字工事を受注せざるを得なくなり、損失が雪だるま式に拡大してしまうケースもあるようです。

 

東京商工リサーチの産業別倒産状況(2017年度)で建設業の倒産件数がサービス業ほかに継いで多いことからも、建設会社の苦境が伺えます。

 

もっとも、人件費の高騰は働く側にとっては給料が増えることを意味するわけですし、不当な低賃金が是正される効果もあります。経営者は使用者の視点で人件費が増えるデメリットにばかりフォーカスするのではなく、労働者の視点も併せ持って「いかに社員の努力に報いるか」について考えるのが円満な労使関係を築くために大切です。

「悪い会社」には良い人材は集まらない

中小企業が人材難に陥る理由を私なりに極論すれば、「悪い会社には良い人材が集まらない」という一言に尽きます。

 

では悪い会社とはどのような会社なのか。それは「社員を軽視している会社」です。例えばお菓子の卸会社の倉庫には、チョコレートを保管するクーラー室が完備されているのが一般的です。チョコレートは室温が高くなると溶けてしまうので当然の対策ではあるものの、問題はクーラー室を含む倉庫全体の環境です。大抵のお菓子は常温保存が可能だからでしょうか、倉庫全体の空調管理は行っていない卸会社が少なくないのです。

 

ちょっと想像してもらえると分かりますが、夏場の倉庫は室温がかなり上昇します。クーラーがない場合、倉庫管理の人たちは扇風機を回しても熱風が吹きつけるような劣悪な環境下で、汗をダラダラかきながら働いているのです。倉庫での仕事は商品の受け取りや仕分け、運搬作業など肉体労働的な面もありますから、暑さが余計に体にこたえます。そんな環境で社員を働かせることが私には信じられません。そうした会社の経営者は、人よりもチョコレートのほうが大事だとでも思っているのでしょうか。

 

もちろん商品を粗末に扱ってもいいという意味ではありませんが、経営者が一番に考えるべきは当然「人」であるべきです。社員が商品の出入荷の管理をきっちりやってくれるからこそ、会社は利潤を追い求めることができるのです。経営者はこの当たり前の事実を忘れてはなりません。

 

倉庫現場の環境改善で言えば、働く人を最優先に考えて倉庫全体の空調管理を徹底するのが大前提です。そのうえで、人がいない夜中も含めた24時間体制で空調管理を行えば、人に優しく、商品にも優しい倉庫づくりが可能です。

 

経営は一事が万事と言われます。代表者が社員を軽視していれば、その姿勢があらゆる場面で現れるものです。

 

特に現場の距離が近い中小企業の場合、社員は経営者の一挙手一投足を本当によく観察しています。小さな会社の命運は経営者にかかっているからこそ、経営者としての資質や能力が備わっているかどうか、社員は見極めようとしているのです。

 

社員から「うちの社長は自分たちを軽視している」と見られた場合、次第に経営者に対する社員の気持ちは離れていきます。そうした社内の評判は外部にも聞こえていくものですから、募集を出してもさらに応募が集まらない会社になっていくでしょう。

 

社員の姿は経営者の鏡とも言われるように、社員の働く姿勢や能力は良い意味でも悪い意味でも経営者次第です。中小企業の場合、人材が定着しない根本原因は自らにある──この心掛けを持つことが大切です。

株式会社吉寿屋 相談役

1941年徳島県生まれ。1964年に大阪にて菓子卸・流通業の商社を創業。その後、小売に進出し「お菓子のデパートよしや」を展開。手頃な値段で気軽にお菓子を買える店として人気を集める。早朝出勤やトイレ掃除、倹約の徹底などユニークな方針を打ち出し、自ら率先して実行。社員教育や福利厚生の充実にも注力し、1998年には業界ナンバーワンの利益率、在庫回転率、返品率の低さを実現した。2018年現在は関西地区を始め、愛知県、岡山県、福井県、岐阜県にも販路を拡大し、直営店38店舗、FC契約60店舗の約100舗で年間1億5000万個の菓子を販売。年間売上は120億円に上る。1998年には代表取締役の職を退き、会長に就任。2016年より相談役となる。

著者紹介

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神吉 武司

幻冬舎メディアコンサルティング

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