中小企業の人手不足が深刻化しています。2018年上半期における「人手不足倒産」の件数は3年連続で前年同期を上回り、2013年1月の調査開始以降の半期ベースでも最多を記録しました。中小企業が生き残るためには、まずは冷静に問題点を分析することが求められます。そこで本記事では、菓子卸・流通業でナンバーワンの利益率、在庫回転率、返品率の低さを実現した株式会社吉寿屋の神吉武司氏が、中小企業の問題点について解説します。

中小企業を困らせる「採用」「定着」「育成」の三重苦

日本経済は2008年のリーマンショックで大打撃を受けましたが、2012年末を境に持ち直しの動きに転じています(2017年度版「中小企業白書」)。景気の回復傾向を受けて企業収益は過去最高水準を記録し、高齢者や女性の活躍推進といった政府主導の雇用促進で就業者数も増加するなど、数字のうえでは経済の好循環が見られるようになりました。

 

ところが帝国データバンクの調査を見ると、そうも喜んではいられません。景気回復で仕事量は増えているものの、肝心の働き手が足りずに仕事を請けられず、倒産を余儀なくされてしまう中小企業が増えているのです。

 

2018年1月~9月の人手不足倒産(社員の離職や採用難などで収益が悪化し、倒産に追い込まれること)は299件発生し、負債総額は417億円でした。件数は3年連続で前年同期を上回り、2013年1月の調査開始以降の半期ベースでも最多を記録。2013年以降のピークは件数が340件、負債総額は541億円で、その更新が視野に入っています。

 

せっかく仕事が増えて売上の拡大が見込めるにもかかわらず、倒産する企業が増加している背景には、「採用」「定着」「育成」という人材の問題があります。

問題① 採用しようにも優秀な人材が来ない

景気回復によって増産体制をしく場合、製造業者であれば設備を増強することで生産の受け皿を広げることは可能です。自己資金で賄うのは難しくても、増産の事業計画を立てて銀行にプレゼンすれば融資を引き出すことはできるでしょう。

 

しかし「人」の場合はそういうわけにはいきません。少子高齢化によって労働人口が減少していることに加え、空前の売り手市場が続く近年、即戦力となる優秀な人材を獲得することは困難です。

 

厚生労働省の推計によると、働き手となる生産年齢人口(15~64歳)は2015年の7728万人から2065年に4529万人にまで落ち込むとされています。1年刻みで見ると毎年64万人ずつ減っていく計算ですから、決して少ない数ではありません。

 

一方、昨今の景気回復で有効求人倍率は1.6倍(厚生労働省、2018年6月発表)を記録。企業が人手不足と感じる指数は大企業でマイナス23ポイント、中小企業でマイナス37ポイント(マイナス幅が大きいほど人手不足と感じる企業が多いことを示す)となり、特に大企業のマイナス幅は26年ぶりの水準となりました(日銀短観、2018年10月発表)。この四半世紀の間で、大企業の人手不足と感じる度合いが最も高くなっているということです。

 

一方の求職者にとっては空前の売り手市場です。大手志向が根強く残る日本では、ブランド力があり、待遇も良い大企業への就職を希望する人が多く見られます。まして人手不足感を強める大企業が採用活動に力を入れるなかでは、ブランド力も資金力もなく、人材募集に十分な資金を投下できない中小企業ではもはや太刀打ちできません。結局、小さな企業ほど大手以上に人手不足感が増していき、人材難を理由とした倒産が現実味を帯びてしまうのです。

問題② 社員の仕事や会社への意識が低く定着しない

次に二つ目の「定着させられない」問題です。人材の補強が進まないなかで新規案件を請けた場合、既存社員に新たな仕事を割り振るしかありません。その際、増加した仕事量に見合った条件を社員に提示し、働く環境への配慮も行っていればよいのですが、長時間労働を強いる一方で残業代の支払いを怠っている会社もあると聞きます。

 

そうなると社員は仕事に嫌気が差してきて、会社への忠誠心も次第に薄れていくでしょう。その結果、ただでさえ人員が不足しているにもかかわらず、さらに離職まで相次いでしまうのです。

 

中小企業庁の発表(2016年度)によると、大企業から中小企業に転職する人に比べて、中小企業から大企業に転職する人が大きく増加していることが分かりました。2015年の転職の動向としては、大企業から中小企業への転職者数が50万人であるのに対して、中小企業から大企業への転職者数はほぼ倍の98万人となっています。中小企業はただでさえ採用が難しいだけでなく、貴重な人材を大企業に吸い上げられているのです。

 

大手への転職理由を見てみると、従業員規模が1~29人の会社では「収入が少ない」(20.5%)、30~99人の会社では「労働条件が悪い」(17.7%)となっていました。大企業と中小企業の正社員賃金はここ20年間、格差が是正されていません(中小企業の正社員賃金は27.5万~29.8万円、大企業は33.8万~38.4万円で推移)。この賃金格差が、人材が大手に流れ込んでいる一つの要因になっていると考えられます。

 

同時に労働条件の悪さが上位に挙がっていることからも、過酷な労働環境が中小企業で働く人の負担を強めている状況が推測できます。

 

さらに調査結果では、「収入が少ない」「会社の将来が不安」「会社の都合」「職場の人間関係」という項目については、従業員規模が大きい会社ほど転職理由になる割合が低下していることが分かりました。つまり従業員規模が小さい会社を辞める人ほど、収入面や労働条件に加え、将来性や人間関係なども考慮しているということです。

 

先行きが不透明なこの時代に会社が倒産してしまえば、従業員は路頭に迷うことになります。大手以上に外部環境の変化に翻弄されやすい中小企業で働く人たちが、自社の将来性を気にするのは当然です。

 

人間関係については企業規模を問わず共通の経営課題と言えますが、労働環境に不満を抱きやすい組織ほど人の輪が乱れがちになるものです。その意味で、働く環境整備にまで手が回らない中小企業のほうが、人間関係が悪化しやすい土壌があると言えるでしょう。

問題③ 若手が辞めることでノウハウが途切れてしまう

このように人材が定着しない会社は人手不足に加え、三つ目の「育てられない」問題も抱えています。人が辞めてばかりでは技術やノウハウが社内に蓄積されないばかりか、人を教育する人材も不足してしまうからです。

 

現在、高度経済成長期に創業した多くの中小企業では世代交代の時期を迎えています。創業者から二代目、二代目から三代目への事業承継や古参社員の退職が迫るなか、創業から培われてきた理念や風土などをいかに伝えていくかは大きな課題と言えるでしょう。

 

大企業は教育制度が充実し、中長期目線で人材を育成していきます。教育専門の部署や人材を配置する資金的な余裕もあるでしょう。反対に少数精鋭の中小企業では誰もがプレイングマネジャーにならざるを得ず、人材育成どころではありません。

 

結局、頻繁に人が辞める会社は人が育たない会社でもあるのです。そうした不安定な会社で働こうと思う人は残念ながら多くはありませんから、中小企業はさらに人材が足りなくなるという悪循環に陥ってしまいます。

 

貴重な人材が辞めてしまうと新規案件の受注は見送らざるを得なくなり、仕事が減れば売上も減少し、借入返済や支払いなどの原資が不足して資金繰りが悪化していきます。受注を断ったことで大口顧客との契約が打ち切りになれば、売上のさらなる低下は避けられません。

 

それでも人材の問題が解決できない場合、最悪のケースでは業績回復のめどが立たないことで返済や支払いが不能となり、事実上、事業継続が難しくなってしまうのです。景気回復で仕事は増えているにもかかわらず、人手が足りずに事業撤退を余儀なくされる可能性は決してゼロではありません。

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