米中貿易摩擦、韓国・GSOMIA破棄…東アジア安全保障の行方

米中貿易摩擦、韓国のGSOMIA破棄と、東アジアを舞台とする大きなニュースが続いている。今後、日本を含む東アジアの安全保障はどうなるのか。『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』(同文館)の著者であり、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、政治リスク、危機管理などに詳しい、株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー、清和大学講師(非常勤)の和田大樹氏に聞いた。

日米韓同盟の崩壊で、中国の海洋進出が加速か?

日本の一部新聞が報じたところによると、トランプ政権が中国製品に対して追加関税を課す第4弾(一部)の制裁措置を9月1日に発動したことを受け、中国を生産拠点にする日系企業の中国離れが本格化しているという。

 

中国からベトナムやタイなど他国へ生産拠点を移す日系企業が増加しており、その流れはいっそう加速化。第4弾の制裁措置には、新たに薄型テレビや衣料品、スマートフォンやノートパソコン、ゲーム機などが含まれるという。ファーストリテイリングや任天堂、京セラやリコーなどは東南アジア方面へ生産拠点を移すとされる。

 

これらは米中貿易摩擦による影響だが、今後それは改善の道へ進むのだろうか、もしくはもっと悪化するのだろうか。これが日系企業の経営陣にとって最も頭を悩ます問題になっている。今後の米中貿易摩擦の行方を探るにあたってはいくつかの材料があるだろうが、米中間における安全保障上の対立は極めて重要な視座となる。では、安全保障上の米中対立に関連する最近の問題をいくつか見ていきたい。

 

まず、韓国がGSOMIAの破棄を決定したことによる政治的デメリットは、実際のオペレーショナルなデメリットよりもはるかに大きい。現在の東アジアの安全保障では、中国や北朝鮮の不透明さが増すなか、米国を軸とするハブ・アンド・スポークス型の安全保障同盟は極めて重要な役割を担ってきた。

 

要は、日米韓の安全保障協力が中国や北朝鮮の行動を抑止する役割を果たしてきたことから、日韓安保関係の要であったGSOMIAが破棄されたことによるリスクを考えないといけない。

 

これは北朝鮮、そして海洋進出を進める中国に政治的な隙を与えることにもなり、今後の中国の軍事動向が注目される。場合によっては、東シナ海や西太平洋の安全保障を巡って米中間の緊張がいっそう高まることも考えられる。そうなってくると、米中貿易摩擦にさらなる悪影響が出てくることは想像に難くない。武力的な衝突によるデメリットが極めて大きい分、両国とも経済を武器化して行動する。

 

また、現在の東アジアには地域の安全保障を公共財として捉える精神がない。欧州にはEU、東南アジアにはASEAN、アフリカにはAUといったように、他の地域には地域諸国が定期的に集うフォーラム(地域機関)が存在する。しかし、我々の地域には、日本と韓国、北朝鮮と中国が定期的に集まる常設的フォーラムがない。

 

東アジアの安全保障に関与する国として、トランプ・アメリカは自国第一主義を貫き、北朝鮮は各国の顔を窺いながら核・ミサイル実験を続け、文大統領の韓国は日米と距離を置き、中国は対米を意識しながら拡張政策を堅持している。現在、各国はそれぞれの目的に応じて行動している。そして、現在の東アジアの安全保障情勢において、米中対立はいっそう高まる可能性が高い。

 

たとえば、先月、オーストラリアにあるシドニー大学のアメリカ研究センターは、インド太平洋(Indo-Pacific)地域の安全保障の行方に関する報告書を公表し、「同地域における米国の軍事的優位性は既に低下しており、技術革新で強化される中国の軍事力に対応できない状況になりつつある」と警鐘を鳴らした。また、同報告書は、「中国の影響力が増すなか、オーストラリアや日本など米国の同盟国は自身で防衛力強化に努める必要性に迫られている」と警告した。

 

米中の海洋を巡る争いは、南シナ海や東シナ海、西太平洋で先鋭化しているが、これらの海域は日本のシーレーン上に位置する。日本へ運ばれる輸出入品、石油タンカーや商船の多くはこのシーレーン上を通過することから、海洋安全保障上の対立が如何に経済リスクに波及するかも大きな問題となる。

米中貿易摩擦の鍵を握る「米大統領選」

一方、米中貿易摩擦の今後の行方を巡っては、来年11月の米大統領選が1つのポイントとなる。仮にトランプ大統領が再選することになると、対中政策では大きな変化は期待しづらい。さらに4年間、今のような米中関係が続くことが予想される。

 

もし新しい大統領が誕生するならば、その人物の対中意識にもよるが、現在の米中貿易摩擦にも改善が見られる可能性はある。しかし、安全保障を巡る米中対立では大きな変化は見込めないと思われ、競争的な米中関係はその後も続く可能性が高い。

 

地政学リスクから企業を守るためには、中長期的な視点で国際情勢を考える必要がある。米中貿易摩擦によって多額の損失を被った日系企業も多いというが、今後も国家間対立(場合によっては軍事的な衝突も)、国際テロや紛争、反政府デモなどは世界各地で発生する。

 

米中貿易摩擦の行方を巡っては、やはり安全保障を巡る米中対立の行方を注視する必要がある。米中両国とも安全保障で妥協する姿勢、協力する姿勢は示しておらず、そういった中では1つの偶発的な衝突によって一気に軍事的緊張が高まることだってある。政治と経済を別個に考えるのではなく、両者は表裏一体の関係にあることを熟知することがまずは重要だ。

 

株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー
清和大学 講師(非常勤)

日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、政治リスク、危機管理など。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)など。
研究プロフィールはこちら

著者紹介

連載テロ、政変、戦争…資産防衛のために知っておきたい「政治リスク」と「危機管理」

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧