(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシアによるウクライナ侵攻以降、国際社会では緊張が続いている。このウクライナ問題は、ロシアや東欧だけでなく、米国や中国、核問題、サイバーテロ、最新兵器など多様な問題が絡み合い、複雑さを増している。ロシアによるウクライナ侵攻が深刻さを増すにつれ、テロ・過激主義の観点からも懸念の声が広がっている。安全保障、国際テロ専門家が解説する。

ウクライナは白人極右過激派の「軍事訓練」の場

ロシアによるウクライナ侵攻から3カ月が過ぎる。当初はロシア軍優勢との見方が強かったが、欧米などからウクライナ軍への支援が功を奏し、ロシア軍は苦戦を強いられている。プーチン大統領の思い描くように戦況は進んでいない。最近では、フィンランドやスウェーデンが相次いでNATO加盟へ正式に申請するなど、NATOの東方拡大を阻止したいプーチン大統領の作戦は裏目に出ている。

 

一方、この3カ月間の世界の目は、ウクライナ軍、ロシア軍という形で、まさに国家主体(state actor)に主眼が置かれてきた。しかし、非国家主体(non state actor)を研究する筆者、世界のテロリズム・過激主義研究者たちの間では、ウクライナが「白人至上主義者など極右過激派にとってのアフガニスタン」になるという警戒の声が少なからず聴かれてきた。

 

実はウクライナはロシアとともに、以前から世界の白人極右過激派にとっての「軍事訓練」の場になっていた。米国の調査会社ソーファン・グループが2019年9月に公表した報告書(https://thesoufancenter.org/research/white-supremacy-extremism-the-transnational-rise-of-the-violent-white-supremacist-movement/)によると、2014年2月のクリミア侵攻に始まるウクライナ危機以降、2019年6月までの時点で、世界55か国あまりから1万7000人以上が、軍事訓練や戦闘経験を積むため、親ロシア勢力支配地域を含むウクライナに渡ったという。

 

大半を占めるのはロシアからの1万5000人で、多くはそのまま親ロシア勢力に合流したとみられる。その他ベラルーシが800人、ジョージアが150人、セルビアが106人と、近隣諸国からの訓練参加者が多い。一方で、ドイツが150人、フランスが65人、イタリアが55人など西欧諸国からも多くが参加し、米国やカナダ、オーストラリアやニュージーランド、ブラジルやチリなど他の地域からの参加者も少なくなかった

極右過激派の受け皿だった「アゾフ大隊」

欧米諸国からの極右過激派の受け皿となった組織の代表が「アゾフ大隊」だ。同組織はロシアの支援を受けたウクライナ東部での分離独立運動に対抗して、2014年に活動を開始したとされ、国外からの戦闘員を積極的に受け入れてウクライナ領内で軍事訓練を提供した。米カリフォルニア州を拠点とする「ライズ・ アバヴ・ムーブメント」、やはりアメリカの極右組織で、「アル=カーイダ」の英語直訳と同じ組織名の「ザ・ベース」のメンバーが、アゾフ大隊の訓練に参加したケースが報告されている。

 

上記二組織に加え、米国の「アトムワッフェン・ディヴィジョン」や英国の「ナショナル・アクション」、北欧の「北欧抵抗運動」などともアゾフ大隊は情報の交換や共有を行っており、その結果として国境の壁を超えた極右過激派ネットワークが形成されるようになった。

 

近年、世界で発生したイスラム教徒やユダヤ教徒、ヒスパニックなどを狙った極右テロは(最近ではアフリカ系を狙った米バッファロー銃乱射事件がある)、過激主義の影響を受けた個人による一匹狼的な事件が大半を占め、上述したような極右組織が計画的に大規模なテロを実行しているわけではない。たとえば2019年8月のエルパソ(米テキサス州)銃乱射テロ事件、同年10月のハレ(ドイツ)ユダヤ教施設襲撃テロ事件の犯人には、いずれも組織的背景はなかった。

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