混迷を極める世界情勢。自らの資産を守るには、影響を受ける可能性のある政治リスクを把握し、常に有事の際の対応策を準備しておくことが重要である。本連載では、株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー、清和大学講師(非常勤)の和田大樹氏に、資産防衛の観点で知っておくべき政治リスクとリスクマネジメントについて解説していただく。今回は、第2回米朝会議が決裂し、再び注目が集まっている北朝鮮情勢について考える。

決裂した米朝首脳会談…北朝鮮に不穏な動き

4月1日、新たな年号である「令和」が発表された。

 

平成時代にはソ連の崩壊や9.11テロ、中国の台頭など国際情勢は流動的に変化してきた。しかし、年号が変わるからといって世界情勢が刷新されるわけではない。今日問題となっている安全保障上の問題は当然ながら令和時代に受け継がれる。

 

今後、日本を取り巻く朝鮮半島リスクはどう動いていくのだろうか。

 

2月下旬の第2回米朝首脳会談では、非核化のプロセスで米朝の違いが浮き彫りとなり、事実上決裂した。

 

北朝鮮は、寧辺にある核施設を廃棄することを条件に、全面的な経済制裁解除を米国に要求した。しかしトランプ大統領は他の核関連施設への査察や廃棄も要求し、北朝鮮の要求を拒否した。

 

また金正恩氏は会談終了時、トランプ大統領が会談場所を立ち去ろうとする際、部下を通して新たな譲歩案を提示し、交渉の席に戻ることを求めた。つまり2月の会談では、これまで北朝鮮ペースとされてきた流れに、米国がストップをかける形になったのだ。

 

それ以降、同情勢では、北朝鮮がどのような次の一手を見せてくるかが大きなポイントと考えられている。現在までに、北朝鮮は大きな変化を見せてはいないが、色々と試行錯誤を重ねているようだ。

 

米朝会談から2日後の3月2日、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)は、北朝鮮が北西部・東倉里の海衛星発射場に、長距離ミサイル施設を再建しているとする新たな衛生写真を公開した。

 

CSISは6日にも、ミサイル発射台とエンジン燃焼実験台での再建作業が確認され、通常に稼働する状態に戻っていると発表した。

 

このような動きに対して、トランプ大統領は事実なら失望するとの声明を発表し、ボルトン大統領補佐官は、非核化に前向きでなければ更なる制裁強化を検討するとの姿勢を示した。

 

北朝鮮の不気味な動きは続く。北朝鮮は3月22日、開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所から撤退した。韓国側は同日朝に北朝鮮側から撤退するとの連絡を受けたが、北朝鮮側は上層部からの指示以外の理由は明示しなかったという。

 

ところが、韓国の統一省は25日、南北共同連絡事務所の北朝鮮側オフィスに複数の関係者が戻って勤務していると報じた。

 

去年以降、南北の指導者は2回も会談。文在寅政権は北への経済協力に積極的な姿勢を示し、金正恩氏も今年の新年祝辞の挨拶の際、開城工業団地の事業再開に言及した。

 

しかし、米朝会談が決裂したことで、北朝鮮のなかでは米国だけでなく、韓国への不満も大きくなっている。

 

また金正恩氏の側近であるキム・チャンソン国務委員会部長は、3月19日から23日にかけて、ロシアのモスクワを訪問した。

 

一部報道によると、プーチン大統領との首脳会談の準備のため訪露していたとされる。現在、米国に有効な一手を出しにくい現状であることから、米ロ関係を考慮して、ロシアカードを試そうとしているのかもしれない。

北朝鮮問題…中国の関与を高めようと画策する米国

一方、米国も行動に出ている。米国のピーガン北朝鮮担当特別代表は3月24日から北京を訪問した。

 

米朝会談の結果と今後の動向などを巡って中国外交筋と意見を交わしたと思われるが、米国としては中国の対北戦略や思惑を知った上でも、中国を対北包囲網に接近させ、北朝鮮にいっそうプレッシャーをかけたい狙いがある。

 

中国としては、米国の影響力が中朝国境にまで接近するというシナリオを回避したく、そのために北朝鮮が緩衝的役割を担えるよう支援する必要がある。北朝鮮が自爆的な行動をとり、核実験による環境的被害、また難民の押し寄せが発生することも絶対に避けたいはずだ。

 

中国からすると、北朝鮮は非常に小さな国だが、難しい舵取りが必要な相手であり、北朝鮮はそれを上手く利用している。今後の北朝鮮を巡る情勢では、必ず米中関係の行方が影響してくる。

 

以上のように、北朝鮮は次なる有効な一手を探っている。

 

しかし、時間の経過とともに、北朝鮮は様々な焦りを感じるかも知れない。その1つが来年11月に迫っている米大統領選挙で、トランプ大統領が再選されるかだ。

 

北朝鮮を巡る情勢は、トランプ政権になってから「最も緊張が高まり、また最も進展した」といえる。

 

トランプ大統領自身は北朝鮮の指導者と会った初めての米国大統領だと誇らしげに語っているが、北朝鮮からすると、初めて会ってくれた米国大統領でもある。要は、よくも悪くもトランプ大統領には、北朝鮮に対し興味や関心、会う意思があったということだ。

 

よって、来年の大統領選で他の候補者が勝利したら、北朝鮮情勢はまた大きく変化するという可能性を頭に入れておかないといけない。

 

来年の11月までに北朝鮮が今後どう出てくるか、これが大きなポイントだ。

 

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