「スリランカ同時多発テロ事件」と今後の国際テロ情勢の行方

スリランカで起きた同時多発テロ事件について、その背景と今後の影響を、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』(同文館)の著者であり、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、政治リスク、危機管理などに詳しい、株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー、清和大学講師(非常勤)の和田大樹氏が解説する。

国内権益ではなく、国際権益を狙った「国際テロ」

4月21日、スリランカ最大の都市コロンボにある高級ホテルやキリスト教教会など8ヵ所を狙った同時多発テロ事件が発生し、これまでに253人が死亡、500人以上が負傷した。死傷者には、日本人5人(うち1人死亡)も含まれ、日本国内でも大きく取り上げられ、また、日本人にとってもテロは決して対岸の火事ではないことを強く示すことになった。

 

同テロ事件は、その計画性と犠牲者の数からいって、9.11同時多発テロ以降でも最悪レベルのテロ事件といえる。この事件からは、どんなことが読み取れるのだろうか。そして、今後の国際テロ情勢はどうなっていくのだろうか。

 

まず、この事件では、国内のイスラム過激派「ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)」の実行、また、イスラム国(IS)の関与が濃厚となっている。スリランカのテロといえば、少数派タミル人の分離独立派「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」が知られているが、2009年の内戦終結以降、国内で目立ったテロの動きはなかった。

 

仮にLTTEの残党がテロを起こすならば、政府や軍、シンハラ人など「国内権益」を狙うはずであり、今回のように、欧米人を中心とする外国人など「国際権益」を狙うことは考えにくい。欧米人など外国人が多く宿泊するホテル、イースター(復活祭)の祈りを行うキリスト教会を同時多発的に狙う計画性、また、できるだけ多くの犠牲者を出そうとする暴力性や無差別性を考慮すると、暴力的な過激思想を貫くISの関与や影響を想像するに難くない。

 

我々は今回の事件を、より広い視野で考える必要がある。今回のテロを実行したのは、ザフラン・ハシム容疑者(日本にも滞在経験があると報道されている)率いるNTJとされるが、インターネットやSNSを駆使する現代のテクノロジーテロの時代において、NTJは一例に過ぎない。今後、ドローンや5G、AIなどがますます普及するだろう世界において、ISのように拡散的に影響力を持つテロネットワークが、スリランカ国内に浸透していても驚くことではない。

 

今回のテロでも、ISとの仲裁役や、オーストラリアでIS関係者と接触した者の存在が報道されているが、国際的なIS網というものは、シリアやイラクだけでなく、世界に拡散して存在すると理解するべきだ。よって、スリランカ国内で過激化した者たちが、インターネットやSNSを通してISのサイトや過激思想に行き着いたり、各国に存在するIS関係者から何かしらの影響を受け、関係を持ち始めたりすることは十分に考えられる。この種のテロは他の国でも起こってきたし、今まで発生してこなかった国でも起こる可能性がある。決して、スリランカ特有の現象ではない。

 

今回のテロは、スリランカで発生した「国際テロ」であり、たまたま今回の現場がスリランカだったと理解すべきだろう。

中南米まで広がりつつあるイスラム過激派の脅威

そのようななか、4月27日、ロシアで軍関係者トップが注目すべき発言をした。アルカイダやISなど、グローバルなネットワークを持つイスラム過激派が、中南米地域にまで活動拠点を拡げようとしているというのだ。これまで中南米地域でISなどの活動はほとんど報じられず、テロ研究者にとっても蚊帳の外のイメージが強かった。しかし同地域には600万人のイスラム教徒が存在し、去年、ブラジルではISのリクルート活動をしていた容疑で11人が起訴されている。おそらく、イスラム過激派としては、各国当局のチェックが手薄な中南米地域のイスラム教徒に接近し、アルカイダ網やIS網を拡げたい狙いがあるのだろう。

 

スリランカ同時多発テロ後の国際テロ情勢は、今後、どう動いていくのだろうか。

 

ISの公式メディアは4月29日、最高指導者であるアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者とされる男の動画を公開した。同容疑者の顔が公の場に出るのは、ISの建国が一方的に宣言された2014年6月以降で初めてである。18分の動画でバグダディ容疑者は、スリランカのテロ事件をISの最後の拠点だったシリア東部バグズを奪還されたことに対する報復と位置づけ、また、スーダンとアルジェリアの政権転覆の話に触れるなど、自らが現在も健在であることをアピールし、ISの聖戦(ジハード)は終わらないと強調した。動画が撮影された時期や場所は不明だが、ISの支配領域が3月に完全に崩壊し、また、ラマダン(断食月)の直前だったことから、タイミングをみて動画を公開した可能性が高い。

 

以上のようにみると、ISは依然としてテロを各地で実行する意思を持っており、スリランカのようなテロを発生させるIS網は、世界中に存在していると考えるべきだろう。

 

スリランカ同時多発テロでは、その規模が極めて大きいものであったことから、インターネットやSNSの遮断、非常事態宣言の発令、インフラの麻痺など、社会的に大きな影響が出た。また、近年、スリランカは観光産業に力を入れ、日本からの観光客も劇的に増加傾向にあった。しかし今年のGWでスリランカを旅行しようとしていた日本人の9割近くがキャンセルしたといわれるなど、観光業に依存してきたスリランカ経済は大きなダメージを受けている。

 

今回のテロ事件は、航空業界や旅行業界、そしてスリランカに進出する日系企業にも大きな影響を与えた。資産防衛の観点で海外を活用している富裕層は多いが、どの地域であろうと、テロリスクを考えなければいけないことを、改めて痛感する事件でもあった。今後の動向も油断できるものではない。

 

株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー
清和大学 講師(非常勤)

日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、政治リスク、危機管理など。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)など。
研究プロフィールはこちら

著者紹介

連載テロ、政変、戦争…資産防衛のために知っておきたい「政治リスク」と「危機管理」

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧