経済・金融にも大きく波及…テロによる二次的被害とは?

混迷を極める世界情勢。自らの資産を守るには、影響を受ける可能性のある政治リスクを把握し、常に有事の際の対応策を準備しておくことが重要である。本連載では、株式会社 オコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー、清和大学講師(非常勤)の和田大樹氏に、資産防衛の観点で知っておくべき政治リスクとリスクマネジメントについて解説していただく。

テロ事件が「経済」に与える影響に関心が高まる

近年、政治リスクや地政学リスクといった言葉が世間でよく聞かれる。以前は、政治は政治、経済は経済といった形で議論されることが多かったが、冷戦の終結、中国の大国化など、世界が流動的に変化するなか、国際社会のグローバル化は進展し、政治と経済の世界を分ける壁は下がっていった。それにより、戦争やテロ、暴動や宗教・民族対立といった政治リスクが如何に経済、経営、金融などの世界に影響を与えるかに大きな関心が集まるようになった。

 

国際政治の中でも、筆者は特に安全保障分野、さらにいえばグローバルテロリズムが専門であるが、周知のように、世界各地では毎日のようにテロ事件が起こっている。近年では国際経済に大打撃となるテロ事件は起こっていないが、国や地域といったレベルでみると、テロ事件は大きな影響を及ぼしている。

拡散するテロリスク~ナイロビ・ホテル襲撃事件を例に

たとえば、今年1月15日、東アフリカ・ケニアの首都ナイロビにある高級ホテルと外国企業が入る施設で大規模なテロ事件があり、米国人や英国人などが巻き込まれた。このテロ事件で日本人は巻き込まれなかったが、同施設には複数の日系企業も入っており、テロの脅威はすぐ側にあることを我々にも示すこととなった。

 

そして、最近もナイロビの繁華街で簡易爆弾が爆発し、2人が負傷した。犯行声明も出ておらず、テロ事件とは断定されていないものの、ナイロビでは欧米人など外国人が犠牲となるテロ事件が繰り返し起こっている。日本の企業や投資家にとって大きな被害をもたらすことも十分にあるし、過去にもそういうことがあった。

 

このテロには1つの特徴がある。テロを実行したのはケニアの隣国ソマリアに拠点を置くイスラム過激派「アルシャバーブ(Al Shabaab)」と呼ばれる組織で、9.11同時多発テロを実行したあのアルカイダに忠誠を誓っており、思想的にアルカイダの影響を受けている。アルカイダは、欧米諸国やイスラエル、特に米国への攻撃を強く呼び掛けており、当然中東やアフリカ、アジアにある米国権益もそのターゲットになる。

 

アルシャバーブは、「今回のテロは、トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都に認定したことに対する報復であり、アルカイダのアイマン・ザワヒリ指導者の指示に従った」とする犯行声明を出した。

 

その5日後の20日、今度は西アフリカ・マリの北部にある軍隊の基地が武装集団に襲われて要員10人が殺害されるテロが発生した。このテロでもサハラ地域を拠点とするアルカイダ系の組織「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」が犯行声明を出し、そのなかで15日のアルシャバーブのテロを賞賛したのだ。さらに、27日にはアルカイダ自身が、テロを実行したアルシャバーブとJNIMを賞賛する声明を出した。

 

ここで何を主張したいかといえば、今日のグローバル化が深化した時代においては、ある国で発生したテロ事件が、他の地域や国のテロ情勢にも影響を与え、同じようなテロが拡散的に発生するリスクがあるということだ。これは2015年〜2016年あたりのイスラム教のラマダン(断食月)の際に、イスラム国(IS)の呼び掛けに応じる形でトルコやクウェート、マレーシアやバングラデシュ、フランスや米国などで同じようなテロが拡散的に発生したことに似ているが、“テロの拡散”という現象は近年の新しいリスクである。

 

今日、アルカイダ系の組織は中東やアフリカ、南アジア、東南アジアなど各地に存在する。1つのアルカイダ系組織が大胆なテロを実行したら、他のアルカイダ系組織が刺激を受け、それぞれの地域でテロ活動を活発化させるリスクもある。このようなグローバルなテロ情勢からみると、「この国や地域には経済的な利害関係がないから大丈夫!」だと判断することは避けるべきだろう。

「政治リスクの把握」が資産防衛の前提となる時代

このような現実を理解すると、現地に駐在員や工場を置いている企業の経営者、何億円ものビジネスプロジェクトを展開する企業の社長、現地の企業に投資する投資家や銀行、現地企業の株価を持っている株主などの方々はどう思うだろうか。

 

また、過去の事例をみても、テロ事件が大規模だった場合、それは単にテロに巻き込まれた人々や建物だけでなく、交通渋滞や公共交通機関の麻痺、国際空港の離発着停止、現地企業の経済活動の停止、もしくはデモや暴動、内乱などに発展することもある(9.11同時多発テロはそのあとのアフガニスタン“戦争”に繋がったわけだが)。筆者はこれを“テロによる二次的被害”と勝手に呼んでいるが、広い視野を持ってリスクを考えることが非常に重要だと考える。

 

そうなると、政治の世界だけでおさまる問題ではなく、経済や経営、金融の世界にも直接的な打撃を与えることになる。テロ事件によって、為替や株価が大幅に低くなることだってある。

 

よって、企業活動や投資などへのダメージをできるだけ少なくするには、前もって対象となる国や地域のテロや治安情勢などを十分に把握し、何が次に発生する恐れがあるかを考える習慣を身に付けることが極めて重要だ。

 

国際政治の視点から予測すると、今後一層、世界の秩序は不安定になる可能性が高い。テロについても、ISによるテロの恐怖が終わったわけではなく、アルカイダなどグローバルなレベルでテロという手段で経済的な打撃を与えようとするテロ集団は残っている。

 

近年深刻化する米中関係でも、中国は米国への対抗姿勢を出すようになり、米国も自らが中国に抜かれるという懸念のもと、中国への対抗姿勢を強く示し始めており、米中による覇権が日本経済を含めた世界に如何なる悪影響を及ぼすかが懸念される。

 

政治リスクは多様であり、突然悪化することもある

 

しかし、自らの経済的財産に影響を及ぼす恐れがある政治リスクについては事前に把握し、それをできるだけ回避できるようにすることは資産防衛の観点からも非常に重要なことだ。今後は、具体的なリスクについて逐次紹介していきたい。

 

 

和田 大樹

株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツ/アドバイザー

清和大学/講師

 

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株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー
清和大学 講師(非常勤)

日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、政治リスク、危機管理など。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)など。
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著者紹介

連載テロ、政変、戦争…資産防衛のために知っておきたい「政治リスク」と「危機管理」

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