日本人投資家は見落としている?東南アジアの危険なテロ情勢

混迷を極める世界情勢。自らの資産を守るには、影響を受ける可能性のある政治リスクを把握し、常に有事の際の対応策を準備しておくことが重要である。本連載では、株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー、清和大学講師(非常勤)の和田大樹氏に、資産防衛の観点で知っておくべき政治リスクとリスクマネジメントについて解説していただく。今回は有力な投資先として富裕層にも人気の高い、東南アジアのテロリスクについて考える。

金融マーケットにも影響を与えた「印パ緊張」

2月14日、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で、パキスタンを拠点とするイスラム過激派「ジェイシュムハンマド(JeM)」がインド軍を狙い、同軍兵士40人あまりが亡くなるテロ事件があった。

 

この事件が引き金となり、両国間の軍事的衝突にまで発展、緊張が高まるだけでなく(インドに進出する日系企業の間では駐在員の避難や社員の渡航を考える動きも出ている)、株式市場や現地通貨ルピーにも影響が出ている。

 

テロという政治的リスクが、経済や経営、金融、証券などの分野にも影響を及ぼすことがあると前回の論考でも指摘したが、まさに2月14日以降のカシミール情勢はそれを証明することにもなった。

ネット経由で指示を下す「遠隔操作型テロ」

一方、同じアジアでも、フィリピンやインドネシア、シンガポールやマレーシアといった東南アジア地域は、投資や資産運用、教育の面において人気を集めている。退職後の移住先として、60~70代の多くの夫婦がマレーシアを選び、フィリピンのセブ島は日本から近い英語圏の国として日本人の留学生が増えている。また、東南アジア諸国の経済成長は著しく、今後も大きな可能性を秘めており、日本企業の進出や海外投資、資産運用といった面でも魅力的な場所の1つである。

 

しかしテロリズムという政治リスクからみた場合、長年東南アジア各国ではテロが発生し、今後も引き続き、多くの懸念材料が残っている。今後の東南アジアのテロ情勢で懸念されることとは何か。ここですべてを紹介することはできないが、1つにイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」を巡る情勢がある。

 

まず、インドネシアを巡る動きだ。9.11同時多発テロ以降、インドネシアでは観光地のバリ島や首都ジャカルタで度々大規模なテロ事件が発生してきた。国際テロ組織アルカイダと繋がりがあるイスラム過激派「ジェマーイスラミア(JI)」は、202人が犠牲となったバリ島ディスコ爆破テロ(2002年10月、日本人2人も亡くなった)、ジャカルタ豪大使館爆破テロ(2004年9月)、ジャカルタマリオットホテル爆破テロ(2009年7月)など、欧米系権益を狙ったテロを繰り返してきた。その後、インドネシア当局の対応が功を奏し、JIは組織として弱体化、以前のようにテロを実行できなくなった。

 

しかし、2014年6月のISの台頭は、インドネシアのテロ情勢にとっても大きなターニングポイントになった。インドネシアでは、ISの台頭までの5年の間、大規模なテロ事件は発生しなかったが、ISの台頭以降、シリアやイラクを拠点とするISに参戦し、そこからネットやSNSを通じて母国にいる仲間たちに命令・指示を出し、テロを実行させるという「遠隔操作型テロ」が見られるようになった。

 

2016年1月のジャカルタ中心部テロ事件がその代表的な事例だが、その後もインドネシアでは、「ジェマー・アンシャルット・ダウラ(JAD)」や東インドネシアの「東インドネシアのムジャヒディン(MIT)」など、ISを支持するグループが台頭し、警察署や教会を狙うテロ事件が近年続いている。

 

ちなみに、2016年6月のクアラルンプール近郊プチョン爆発事件、2016年8月シンガポール・マリーナベイサンズテロ未遂事件など、マレーシアやシンガポールでも同様の事件が報告されている。

イスラム自治政府発足を控えるフィリピンのリスクは?

一方、フィリピンでは2017年5月から10月にかけて、ISに忠誠を誓う「アブサヤフ(ASG)」「マウテ・グループ(Maute Group)」が、南部ミンダナオ島の町マラウィを占拠する事態があった。戦闘は5ヶ月間に及び、多くの民間人が犠牲となったが、ASGの指導者イスニロン・ハピロンやマウテ兄弟らが次々に殺害されたことで、占拠グループは大きなダメージを受け、同年10月にマラウィは武装勢力の占拠から解放されることとなった。

 

しかし、マラウィ占拠の終了をもって懸念材料が消え去ったわけではまったくない。フィリピンでは依然として、ASGや「バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)」「アンサール・ヒラーファ・フィリピン(AKP)」など、ISに支持を表明する組織がミンダナオ島で活動を続けている。

 

また、マラウィでの戦闘から逃亡したハピロン容疑者の後継者が組織の立て直しを図っており、依然としてテロリスクが残っている。

 

近年では、セブ島の横にあるボホール島でイスラム過激派と地元警察との戦闘が発生し、フィリピンの南西部にあるパラワン島では、米国大使館が、イスラム過激派が外国人を狙った誘拐やテロを計画していると注意喚起を出したこともあった。南部を発祥とするテロリスクは、マニラなど中部や北部にも少なからず広がっていると見るべきだろう。

 

ミンダナオ島では、2022年にイスラム自治政府が樹立される予定だが、2月26日、その前身組織となる暫定政府が発足した。そのための選挙が今年に入って実施されたが、1月下旬、南部スールー州ホロ市内にあるカトリック教会で爆弾テロが発生し、20人以上が死亡した。事件後、IS系メディアが犯行声明を出したが、和平プロセスに反対するASG勢力の犯行だとされる。今後、イスラム自治政府発足に向けて政治的な動きが本格化するが、それに反対するイスラム過激派の動向が強く懸念される。

 

投資先としても有力な東南アジアだが、常にテロ情勢に注視していくことが、資産防衛の観点でも重要になってくるだろう。

 

株式会社オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー
清和大学 講師(非常勤)

日本安全保障戦略研究所(SSRI)研究員、日本安全保障・危機管理学会主任研究員などを兼務。専門分野は国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、政治リスク、危機管理など。日本安全保障・危機管理学会奨励賞を受賞(2014年5月)、著書に「テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策」(同文館2015年7月)、「技術が変える戦争と平和」(芙蓉書房2018年9月)など。
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著者紹介

連載テロ、政変、戦争…資産防衛のために知っておきたい「政治リスク」と「危機管理」

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