中小企業は「王道のプロセス」にこだわり過ぎない
今回から2回にわたって、少し抽象的な内容になりますが、中小企業が「結果にコミットする」会社になるためには?ということについて、問題提起的にご紹介したいと思います。
「結果にコミットする」
はい。皆さん必ず聞いたことのある、あの会社のキャッチコピーです。今回は、不確実性が高いこの世の中で、中小企業が「結果にコミットする」ために、有効と考えられる行動パターンをひとつご紹介したいと思います。
まずは、(私もいろんな場面で活用していますが)経営のグランドデザインを描く際に王道といえるプロセスについて確認しておきたいと思います。
それは、「現状を把握する」、「ありたい姿(ビジョン)を設定する」、「この2つのギャップを埋めるための戦略・戦術を設定し、実行していく」という一連の流れです。
ただし、このやり方には大きな欠点が潜んでいます。それはビジョンをひとつに絞ってしまうと、自社の意思決定が硬直的になり、それ以外の可能性を捨ててしまうということです。
冒頭に述べた通り、我々は不確実性が高い世の中でしのぎを削って生きています。不確実性とは主として外部環境の変化により生じるものですが、中小企業は大企業に比べてその変化に脆く、またその変化に影響を与えることは事実上不可能といっていいと思います。
そのため、中小企業が上述した王道のプロセスに盲目的にこだわってしまうと、当初想定していなかった環境変化が起こった場合、適時適切に舵取りをし直すことができず、「結果にコミットできない」可能性が高くなってしまう恐れがあるのです。
スティーブ・ジョブズの考え方を企業経営に当てはめる
話はかわって、スティーブ・ジョブズによる、かの有名な「スタンフォード大学での卒業式のスピーチ」をすこし引用してみましょう。
「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない」
この考え方を現在の不確実性が高い企業経営に当てはめてみると、次のような思考ロジックを併せ持つことは否定されないのではないのでしょうか。
「企業経営とは、将来像を見据えながら、日々の行動を積み重ねていくものであるが、経営上の不確実性が高い場合、当初から確定的にビジョンを設定することは困難である。それゆえ、企業の現状とビジョンとの関係性は、予期しない出来事によって変動しうるものと考える(※1)。
付言すると、企業は予期しない出来事に直面した場合、必要に応じて現状掲げるビジョンを見直し(または見直さず現状のビジョンが正しいと再認識し)、その判断に従って改めて日々の行動を積み重ねていけばよい。そしてその後、時の経過とともに一定の成果が現れることになるが、それが後付けで現状と結びつくことになる」
※1 当然ですが、現状が変わることはないので、ビジョンのみが変わることになります。
経営者は「優柔不断」であっても構わない
だから、経営者は、焦って無理して断定的にビジョンを固めなくてもよく、いい意味で優柔不断な態度(※2)を取っても構いません。付言すると、「我々が今やるべきことはこれしかない」、「これは我々の目指す方向と違う」というような硬直的・閉鎖的な考え方に縛られるのではなく、ある程度は行き先を定めずに優柔不断に構えて、不測の事態が発生したとしても、それを前向きに受け止めて経営の舵を転換するということも許されるということです(※3)
※2 この「優柔不断な態度」とは、戦略論における専門用語の一つである「ピボット」に似たようなニュアンスです。
※3このようなビヘイビアは、中小企業の中でもまだ自社の方向性が明確でない会社(創業期や成長期に位置する会社など)において、より有効な考え方だといえましょう。
なお、「前向きに受け止めて経営の舵を転換する」とは、不測の事態が発生することをただ待つのではなく、自社の有する可能性について思いを巡らせながら、あれこれといろいろなことに積極的に首を突っ込んだり、周りの出来事に神経を研ぎ澄ませるなどして、状況に応じてビジョンの再設定など、柔軟に対応することと理解してもらえばいいでしょう。
みなさんも実感として何となくわかると思いますが、何でも実践を通じて、できること・やりたいこと、進むべき方向性などが少しずつクリアになっていくものなのです。
以上、今回お伝えした内容は、次回、「中小企業が『結果にコミット』するための6か条」としてさらに整理してお伝えしたい思います。
久禮 義継
株式会社H2 オーケストレーターCEO/公認会計士久禮義継事務所 代表