今年2019年は投資に対する日本人の意欲が、かつてないほど高まる夏になるかもしれません。しかも、その理由が相場の過熱によるものではなく、「老後資産形成に対する意識の高まり」であれば、なおのこと。
資産形成にとって一番のハードルとなるのは「実行する」ことです。金融庁の報告書を巡る誤解と、騒動の余波ではあるものの、投資に対する注目度がかつてないほど高まりました。「資産形成を始める」ことは、行動ファイナンス的には極めて高い課題です。これをクリアさせる原動力になったのであれば、今回の騒動は前向きに受け止めたいと考えています。「ヒマがあったら」とか「余裕があったら」以外に、あなたの背中を押す力になるとすれば、この流れに乗ってほしいと思います。そして、資産形成のためのスムーズで良い投資デビューをしていただきたいと思います。
そこで今回は「投資デビューのための最低限の知識3つ」を紹介します。
知識1:投資対象の「増える理由」を知っておく
第1に知るべきは、自分が投資する対象の「増える理由」を把握しておくことです。
自分なりに理解し、また納得できない限りは投資をするべきではありません。
少なくとも、下記の投資商品の値上がりする理由を考えることなく購入することはお勧めできません。
・株式投資(個別銘柄の投資)
・株式投資信託(インデックス投資)
・債券投資
・不動産投資信託(REIT:リート)
・為替取引
ここでそれぞれの詳細を説明はしませんが、「中長期的な経済の成長と社会の発展」を信じることが投資のスタートラインだということは申し上げておきたいと思います。「短期的な市場の評価」を値上がりの理由とする人もあるでしょうが、そうした人は、老後資産形成のための中長期的投資というスタンスではない、別のアプローチで投資と向き合ったほうがいいかもしれません。
知識2:短期的にはどれくらい「下がりうるのか」知っておく
次に大事なことは、短期的にはどれくらい「下がりうるのか」を投資前に知っておくことです。
・レバレッジをかけた為替……投資金以上を失うリスクがある
・株式のインデックス投資信託……リーマン・ショッククラスの変動が起きた場合、数カ月で30%以上の半減リスクがある
・株式の個別銘柄投資……数カ月で半減する程度のリスクがある
・債券投資……投資先の破たんがあった場合に元本割れのリスクはあるが、確率は低い
かなりざっくりとした例ですが、上記4つの値下がりリスクのイメージを持っていないとしたら、投資の見通しは甘すぎると言わざるを得ません。
誰でも「値上がりイメージ」は持ちやすいものですが、値下がりイメージ、うまくいかなかったときのイメージからは目を背けてしまいがちです。
最低限の知識として「最悪の環境下ではどれくらい下がりうるか」は考えておくべきです。事が起きてから、想定外となげくのではなく、うまくいかなかった場合を想定して備えることが大事です。
知識3:あなたの「投資可能額」を知っておく
最後の知識は、勉強ではなく自分自身の計画の問題です。つまり「いくらまで投資をしていいか」上限を決めておくことが必要です。
先ほどの「最悪の値下がり」に直面したとき、実体経済を対象に投資していれば、長い目で見た場合、じきに回復する可能性が高いのです。にもかかわらず、これを待てない人が多いのです。特に投資初心者ほどガマンができません。
経験不足のため、どうしてもそうなってしまうわけですが、あなたがもし初心者でも、あわてずに乗り切る方法があるとすれば「金額は小さく始める」ことです。
30%の値下がりでも、「月1万円の積み立て」であれば、それほど資産に大きなダメージとはならないはずです。「どうせ積み立てをしていなければ3,000円のマイナス以前に1万円をムダ遣いしていたかもしれないから、まあいいや」と思えるくらいが初心者にはちょうどいい投資額と言えます。
投資の利益額も損失額も決めるのは、最終的には自分自身なのです。
開設する口座選びに悩んだら、iDeCoやつみたてNISAを
老後資産形成を意識して口座選びをするなら、基本的に「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)優先」でいいでしょう。60歳まで中途解約できないという制限は老後資産形成にはプラスですし、所得控除のメリットは強力です。
そこまで強固な資産形成でないなら、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で始めるのがいいでしょう。投資商品に外れがなく、つみたてNISA枠は年間40万円のため、無理のない資産形成につながります。また金融商品も手数料の低いのものばかりで、あまり悩まずに商品選びができます。
あなたがもし「この夏の投資デビュー」を決意しているのであれば、これらのアドバイスを参考にしてみてください。
山崎 俊輔
フィナンシャル・ウィズダム代表 ファイナンシャルプランナー
※本記事は、2019年8月7日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。