30代、年収650万円でも「貯金はゼロ」
「年収が増えるほど、貯金は減っていく気がします。現在、貯金と呼べるものはありません。ゼロ円。銀行の預金口座には20万円ほど残っていますが、クレジットカードの引き落としで18万円ほど消えます。残りの2万円弱で、次の給料日まで頑張るしかない状況です。とても投資に回す余裕などありません」
自身の悲惨な財政状況を語るのは、都内在住38歳のA氏(会社員)。結婚4年目で1歳の子供がいるが「貯金はゼロ」で大丈夫なのだろうか?
「老後にお金が必要となるのはわかりますが、“今を生きる”のに必要なお金で精一杯です。妻も働いていますが、お互い仕事は順調なので、将来は収入が増えることを期待するしかありません。しかし、その頃には子供の教育費もかかるし、親も介護が必要だろうから、やはり老後のために投資する余裕はないでしょうが……」
年収650万円で共働き。世帯年収は1,000万円を超える。なぜ、そんなにお金がないのだろう?
つみたてNISAよりも「出世」のほうが稼げる!?
「居住費は駐車場代込みで約18万円。車のローンもあります。生活は節約をしていないわけではないですが、週に1回の飲み会と半年に1回の家族旅行、そして盆暮れの帰省で残りはほとんど消えてしまいます。飲み会は仕事上の人脈作りの意味もあるため、外せません。もう少し家賃の安い部屋に引っ越すことも考えましたが、やはり仕事のパフォーマンスを考えると……生活レベルは落としづらいです。残りは家族旅行ですが、これがなくなると、もう何のために働いているのか?という気分になります」
収入はあるわけだから、身の丈にあった生活をすれば、もう少し老後のために投資をする余裕も出てきそうではあるが、A氏は否定する。
「つみたてNISAなどの制度も知っています。でも、ずっと積み立てて、20年後、58歳になったときに増えていたとして、よくて利回り3〜4%、年間上限40万円だから、20年間で800万円投資しても複利で1,600万円くらいにしかならないでしょう。はっきり言って、損ですよ。仕事のパフォーマンス次第で、年収はこれから45歳までの7年間で300万円くらいは変わりますから。そうすると、そこから58歳まで、それ以上給与が上がらないとしても(上がるだろうけど)4,200万円も差が出る。だったら、今は投資よりも自身のパフォーマンスを上げることに集中して、仕事を頑張ったほうがいい」
「会社の業績アップ」に投資するサラリーマンたち
年功序列、終身雇用は崩れたと言われるが、世の中にはA氏のようなサラリーマンも多い。自身の資産形成を直接的に行うのではなく「会社の業績アップ=自身の収入アップ」と信じて、日々、懸命に働いている。
会社が競合との競争に勝ち、自身が社内での出世競争に勝つのであればいいのかもしれないが、それを達成できるのは一握りの勝ち組である。負けてしまったときのリスクはどうするのか? 資産を形成するには、もう間に合わないかもしれない。
だからと言って、投資のための「節約」に時間と労力を割くことを嫌がるサラリーマンは多い。そこで今回報じられた「奨励金の一部非課税制度」は重要となってくる。会社がメリットを考えて導入するのであれば、それをきっかけとしたい層は少なくないはずだ。
国や金融機関に「お金を巻き上げられるのでは?」
本業での業績アップにしか興味のなかった、ある意味“優秀な”サラリーマンが「どのファンドが有利だろう?」と投資の世界に参戦してくる。積立投資の仕組みや、投資対象の見極め方などを学ぶことによって、本業を見る視点も変わる。ファイナンスに強くなることで、起業や投資家への転身ができる人も出てくるだろう。A氏のように「飲み会」で人脈作りをするような人種も、「投資勉強会」などで新たな人脈を開拓するようになるかもしれない。
投資を学び、実践することは、それ自体が楽しみのある趣味的行為にもなる。実際、海外のビジネスマンが集まると「投資」に関する話題がメインテーマとなりやすい。その点、日本人の「サラリーマン」は、比較するとやはり驚くほど無頓着だ。
日本人は特に、投資を推奨されるほど、「国や金融機関に金を巻き上げられるのでは?」と疑心暗鬼になってしまう人が多い。もちろん、お金の話であるわけだから、その疑い深さは大切だ。投資案件を勧めてくる人は、ほとんどがポジショントークだと思って間違いはない。加えて「そもそも投資に回すお金など一銭もない」という状況では、興味が持てなくても仕方がない。
しかし、一度興味を持って動き出せば、なかなかに面白いものであるし、上達もする。ビジネススキルとして、本業へも好影響が出やすい。ここまで国が推奨してくるとなると、そのうち半ば強制的に参戦させられる……ということもないとは言い切れない。であれば、早めに上達しておいて「勝つ」という戦略も考えておくべきだ。