22日現在、ドル円は1ドル=106円半ばで推移。FOMC議事要旨の公表はあったが、大きな動きは見られなかった。経済指標発表などのイベントは、ドル円に限らず数値の上下に少なからず影響を与えるが、昨今では、それよりもトランプ大統領の一言(ツイート)のほうが市場を揺るがす局面は多い。この現象について、検証する。

FOMC議事要旨は「わかりにくい」?

21日に公表された7月のFOMC議事要旨では、今回の利下げは「調整」の一環であり、長期的な計画の初動ではないというパウエルFRB議長の意向が記されていた。一方で、大幅利下げを求めるメンバーが複数いたことも判明。これを受け、市場はダウ平均株価が240ドル高と上昇。小売業の好決算も影響したが、FOMC議事要旨に関しては、さらなる利下げの可能性を読み、好感したと見られる。

 

ドル円は上昇を見せたが、107円には届かず、半ばで推移。ダウ平均株価、ドル円の上昇という結果からは「利下げ」への期待も読み取れるものの、「はっきりはしない」ことで小幅の動きとなったようだ。

 

あらゆる可能性を排除しないことを前提としつつ、パウエルFRB議長は追加の利下げに関して、慎重な態度を示した。米国の政策金利の決定は、一国のどころか世界経済に大きな影響を与えるものであるわけだから、これは当然の姿勢だ。しかし、市場の多くの人にとって奥歯に物が挟まっているような物言いは、やはり「わかりにくいもの」と言える。

 

各社の報道を見ても、NY株式市場の上昇などから、市場が議事要旨中の「利下げへの可能性」が読み取れる部分を重視したという結果からの推論しかできていない。もし反対に下落していたとしても、議事要旨を読むとパウエルFRB議長は利下げに慎重とも読み取れ、いかようにも切り取れるように上手く(?)できている。

 

報道による二次情報ではなく生の情報を読むと本質がつかめる……とはよく言われるが、Fedの公表する議事要旨の原文は長く、利下げ決定にいたるまでの検証や今後の方向性について、正確な議事録ではなく「要旨」が記されているに過ぎない。

 

Fedに掲載されているFOMCの議事要旨
Fedに掲載されているFOMCの議事要旨

 

実際、今回のFOMC議事要旨に関して22日にブルームバーグが報じた記事には、「議事要旨はFOMC政策の検証に関する長々とした議論から始まっており」との叙述もあり、いかにそれが「結局のところ、どういうことなのか」を短期間で解釈することが難しいことがわかるだろう。

トランプ大統領の「わかりやすさ」と影響力

これに対し、同等どころかそれ以上に影響力と責任を持っている(はずの)トランプ米大統領の発言は非常に明快である。先日も「グリーンランドを買う」と、普通に考えたら突拍子もないこと(とはいえ米国はお金で買うことで領土を拡大してきた歴史はあるのだが)を発言したばかりのトランプ大統領だが、その発言はストレートで、「わかりやすい」。

 

就任当初は、「何を言い出すのか? 本気なのか?」という印象が強く、その発言に関して半信半疑の投資家も多かったが、現在では本当に実行にうつすと知られて(恐れられて?)おり、市場への影響は特に大きい。

 

今回、小幅な動きであった(FOMCの議事要旨が「どちらとも取れる」ものであるから当然ではあるが)ドル円であるが、トランプ大統領のツイートひとつで大きく動いてしまうこともある。記憶に新しいのが、中国対する制裁課税第4弾の発表「ツイート」だ。米中貿易摩擦への懸念が強まり、円買いが進んだ。

市場が動くタイミングを見計らってのツイートか?

サブプライムローンの崩壊の際、そのデフォルトに賭けて成功した投資家と失敗した投資家の違いは、売買のスピードではなく「タイミング」であったが、相場には溜まっていたマグマが吹き出すような形で暴落する状況と、瞬発的に局面が方向転換を見せる状況の2つがある。

 

前者は滅多にあることではなく、タイミング次第では考え方は正しくても負けてしまうが、後者は比較的起こりやすく、そのサインの多くは政治的なイベントや重要な経済指標の発表などのイベントである。後者の場合、言うまでもなく、情報を素早く正確に捉えて動いたほうが有利となる。

 

トランプ大統領は、自身のツイートを「イベント」とすることに成功している。中国への制裁課税第4弾発表など、唐突な印象はあるが、タイミング的にはFOMCが0.25%の利下げを発表してから、わずかな期間でのツイートであり、これを受けてNY市場が下落したのを見て、「利下げが足りない」とつなげている。

 

常に刺激的なことをツイートしているので、トランプ大統領が重要な経済指標の発表など「市場が動くタイミングを見計らって発言している」と考えるのは発展しすぎかもしれないが、意図はどうあれ、市場に大きな影響を与えることに成功しているのは間違いない。

「わかりやすさ」には勝てないのか?

トランプ大統領のツイートは、なぜそこまで市場に大きな影響を与えることに成功しているのか。「米大統領だから」と言ってしまえばそれまでだが、発言の趣旨がFOMCの議事要旨やパウエルFRB議長のように読みづらいものであったら、そこまでの影響力ではなかったであろう。ポイントはやはり「わかりやすさ」にある。また、過激という意味ではエンターテインメント性も持ち合わせている。

 

簡単で、わかりやすく、面白いものであれば多くの人が理解しやすく、理解可能であれば、素早く動きやすい。昔、『ラッキーマン』の著者であるガモウひろし氏の漫画で『根暗仮面』というものがあったが、主人公の本質追求仮面は、群衆を味方につけた悪役(?)「楽しけりゃいいじゃないか仮面」に敗れた。

 

本質というものは多面的で複雑なものであり、正しく語ろうとするほど、難解な表現になってしまう。もちろん短時間で理解できるものではない。しかし、市場には素早く状況を理解したいというニーズがある。ここでいう状況とは、売りと買い、どちらが大きくなるか、すなわち、価格が上がるか下がるかだ。

 

トランプ大統領のツイートは、方針が明確であり、文法上の誤りはよく指摘されているものの、誰にでもわかる簡単な単語でつぶやかれる。英語に苦手意識のある日本人でも、おそらく理解できるであろう。ただのツイートが大きな影響力を持ってしまうことの善し悪し、トランプ大統領のことが好きか嫌いかは別として、株式市場だろうと為替市場だろうと投資に興味があるのならば、これからも彼のツイッターをフォローせざるをえない。

 

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