日本ではあまり馴染みのない「プライベートバンカー」。富裕層のために、金融資産のみならず、事業再構築・事業承継についても「投資政策書」を立案し、長期的に実行を助ける専門家のことを指します。本記事では、岸田康雄公認会計士/税理士が、プライベートバンカーに求められる役割について解説します。

1:お客様の幸せと人生の目的を理解し、実現を目指す

プライベートバンカーは、お客様の幸せと人生の目的が何かを理解し、それらの実現をお手伝いできるようになるべきだ。

 

お客様の関心事の例として不可欠なものは、経済と税制である。これらは、お客様の個人財産に直接影響を与えるものだからである。また、次世代への円滑な財産承継、インフレによる収入の目減り回避、不動産投資の成功も重要な関心事である。さらに、豊かな老後の実現、健康の維持、子供の教育も大切だろう。

 

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そこで大事になるのが「ウェルス・マネジメント」である。

 

ウェルス・マネジメントとは、お客様の財産管理、次世代への財産承継、その家族のファミリー・ミッションの実現を、資産運用と税務対策の両面からサポートすることを指す。

 

そして、ここでいうファミリー・ミッションとは、特定の個人又はファミリーの行動方針であり、価値観や目標を表明したものである。これを書面に記したものがファミリー・ミッション・ステートメントである。

 

ファミリー・ミッションを明確化しなければ、個人財産を維持することはできない。維持すべき財産は、①金融資産や不動産などの財的資本、②人的資本、③知的資本があるが、①財的資本の維持だけに注力するファミリーが多く、②人的資本と③知的資本が軽視され、その結果としてファミリーの財産を維持できなくなるケースがある。

2:仕事から趣味まで「お客様のニーズ」に対応する

お客様のニーズは、①ファイナンシャル・プランニング、②リスク・マネジメント、③趣味に大別され、子細は多岐にわたるため、プライベートバンカーとして提供すべきサービスの範囲は広い。

 

①ファイナンシャル・プランニングのニーズについては、有価証券投資、不動産投資、生命保険などのアドバイスを提供することである。これは従来型の金融サービスで問題ないだろう。しかし、②リスク・マネジメントについては、健康管理や家族の結婚、子供の教育、法律問題などのサポートとなるため、プライベートバンカーが単独で提供できるサービスではない。そして、③趣味については、エンターテインメント、レジャー、スポーツ、旅行、食事などであり、友達付合いと同じような関係となるが、お客様のこれらのニーズについても対応することがプライベートバンカーの役割といえよう。

3:お客様のリスク許容度に合わせて商品を提供する

お客様によってリスク許容度が異なるため、金融資産運用を提案するとしても、そのリスク許容度に応じて提案が異なってくる。

 

たとえば、自分はビジネスで成功し、役員報酬も多く受け取っており、金融ポートフォリオもリスクをとって運用したいという企業オーナーであれば、高い収益性が期待できる金融商品を提案すべきである。それに対して、自分の経営している会社の事業リスクが大きい、役員報酬の増減が激しいという企業オーナーであれば、本業で高いリスクを負担しているため、国債や公社債などリスクの低い金融商品を提案すべきである。

 

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企業オーナーに対するウェルス・マネジメントにおいては、お客様のリスク許容度の測定について、経営されている本業のビジネスリスクも考慮する必要がある。本業と金融資産投資のいずれもハイリスクな投資を行っている場合、リスク許容度を大きく超えてしまう可能性がある。また、本業の景気と金融商品の値動きの関連についても考慮しなければならない。たとえば、会社が営む本業の市況と反対の値動きをする金融商品に投資することによって、リスクヘッジすることも必要となる。

4:次世代への承継を考えた金融資産運用を提案する

一世代のみの資産運用を考えるのであれば、次世代へ資産を残すことは考えず、死ぬまでに必要な資金を得るための運用方法をとることになる。その場合、インカムゲインを個人の所得とすることを考え、分配重視型(一世代限りの取崩しを前提)の運用方法が望ましい。その際、ある程度のリスク許容度の引上げも可能となることから、ミドルリスク・ミドルリターンとすべきである。

 

これに対して、次世代への資産承継を考えるのであれば、次世代へ資産を残すことを考え、子供へ承継させる資産を確保するための運用方法をとることとなる。その際、残すべき資産と残す必要のない資産を区別し、残す必要のない資産を納税資金として準備することになる。この場合、自分の世代で使い切る資産だけでなく、子供の世代に残す資産まで獲得しなければならないから、ある程度の高いリスクをとって、高いリターンを目指さなければならない。

 

なお、残すべき資産と残す必要のない資産の峻別に際して、コア・サテライト戦略が有効である。コア・サテライト戦略とは、資産配分を行う際、運用資産をコア・アセットとサテライト・アセットの2つにわけ、資産配分の中核となるコア・アセットでは安定的な成長を追求する一方、資産配分の非中核部分のサテライト・アセットでは、リスクをとって比較的高いリターンを目指す戦略のことをいう。たとえば、コア・アセットでETFのインデックス運用を行い、サテライト・アセットで金やデリバティブへの運用を行うという配分である。

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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