法人をつくり資産を管理しているサラリーマン投資家のなかには、会社まわりの手続きを自分で行っているケースも多いでしょう。この会社まわりの手続きは、法律の改正により必要な書類が変わることもしばしば。そこで今回は法律事務所に所属し、不動産関連の案件に多く携わっている司法書士・木宮瑛子氏が、法改正で変更が生じた「商業登記」にまつわる手続について紹介していきます。

会社設立時は「実質的支配者の申告」が必要

不動産投資家のなかには、資産管理会社を持っている方、または法人設立を検討している方が、結構いるのではないでしょうか。会社設立時には法務局の商業登記簿に会社の情報を記載する「商業登記」の手続きがありますが、この商業登記に関連して、近年、いくつかの改正が行われました。「こんなときどうする?」とならないように、今回は改正によって生じた3つのポイントを紹介します。

 

まずは会社を設立するときの変更点です。平成30年10月12日に改正された「公証人法施行規則第13条の4」より、「実質的支配者の申告」が必要になりました。これは会社を支配する個人を把握することで、会社の透明性を高めたり、暴力団員などによる会社の不正使用やマネーロンダリングを防いだりすることを目的としています。

 

公証人は、株式会社、一般社団法人及び一般財団法人の定款認証の際に、定款の認証を受けようとする者から、法人成立時の実施的支配者となるべき者の氏名のほかに、その者が暴力団員及び国際テロリストではないことを申告させなければならないことになったのです。

 

なお、公証人の定款認証を受ける必要のない合同会社のオーナーは、実質的支配者の申告をすることはありません。

 

この「実質的支配者」とは、設立する会社の議決権の総数の50%を超える議決権をもつ個人、つまり株式会社のオーナーのことをいいます。なお、50%超をもつ個人がいない場合は、25%を超える議決権をもつ個人全員が、実質的支配者となります。

 

手続きの際には、

・「運転免許証」

・「パスポート」

・「マイナンバーカード」

・「(外国人の場合)在留カード」

などのいずれか1点のコピーを本人確認資料として提出し、住所・氏名・よみがな・国籍・性別・生年月日・議決権割合・暴力団員等ではないことを申告します。公証人は、申告された内容につき、データベースにより、暴力団員等ではないことをチェックします。

役員変更時は「本人確認証明書」が必要

商業登記規則等の一部を改正する省令により、平成27年2月27日から、「株式会社」「一般社団法人」「一般財団法人」「投資法人」「特定目的会社の役員」の登記申請の添付書類として、本人確認証明書が必要となりました。

 

本人確認書が必要になるのは、株式会社の設立のときと、株式会社に新しく取締役、監査役が就任するときです。これは実在しない架空の人物を役員とすることを防いだり、勝手に役員として名前を使用されたりすることを防ぐためです。なお重任(再任)のときは必要ありません。

 

役員に就任するときに提出する本人確認証明書として有効なのは、下記のものです。これから1点、提出してください。

・「住民票」

・「戸籍の附票」

・「運転免許証の裏表コピーをとり、本人が『原本と相違がない』と記載して、記名押印したもの」

・「マイナンバーカードの表面のコピーをとり、本人が『原本と相違がない』と記載して、記名押印したもの」

 

法務局の登記官は、役員の就任承諾書に記載された住所・氏名が、本人確認証明書の住所・氏名と合致するかどうかをチェックします。

 

また法務局に印鑑を提出している代表取締役(会社の印鑑証明書が発行される代表取締役のことです)が辞任するときも、本人確認証明書を提出する必要があります。これは代表取締役自身が知らないうちに、勝手に代表取締役の登記を変更されること(会社の乗っ取り)を防ぐことが目的です。ちなみに平取締役や監査役が辞任するとき、代表取締役が任期満了によって退任するときなどは、本人確認証明書は不要です。

 

代表取締役が辞任するときは、辞任届に辞任する代表取締役が個人の実印を押印し、個人の印鑑証明書を提出。法務局は辞任届と印鑑証明書の陰影を照合します。

 

代表取締役が辞任届に、今まで法務局に届出ている印鑑(会社の実印)を押印すれば、本人確認証明書は不要です。会社の実印は、その代表取締役が管理しているものだから、会社の実印が押印してあれば、会社ののっとりではないだろうと推認されるためです。

 

また、法務局は、届出された会社の印鑑の記録を行っているので、会社の実印が辞任届に押してあるかどうかは、法務局登記官が陰影を照合することができます。

株主総会による変更のときは「株主リスト」が必要

平成28年10月1日以降、「株式会社」「投資法人」「特定目的会社」の登記の申請に当たっては、添付書面として、「株主リスト」が必要となりました。

 

これは、株主総会議事録の偽造等により不実の登記がなされることを防止したり、後日、株主総会決議による登記変更が行なわれたことについて紛争が起こったときの証拠のひとつにしたりする目的で、商業登記規則61条2項・3項の改正が行なわれたことにより必要になりました。

 

株式会社の登記変更で株主総会決議(株主全員の同意)が必要な場合には、株主リストを必ず提出します。代表取締役が単独でできること(「役員が引っ越したため住所変更が起きたので変更登記をする」など)や、取締役会だけでできること(「定款に定めがない会社で、自己株式の消却に伴い、発行済株式数の変更登記をする」など)以外は、原則必要となります。

 

株主リストには「株主の氏名又は名称」「住所」「株式数(種類株式発行会社の場合には、種類株式の種類及び数)」「議決権数」「議決権数割合」を記載し、代表取締役が証明する記名押印(法務局に届け出ている会社実印)をします。

 

株主リストに記載する株主とは、「議決権数上位10名」、または「議決権割合を多い順に足していって3分の2に達するまでの株主に該当する全員」を書きます。どちらか少ないほうで構いません。ただし自己株式等で議決権を行使できない者は除いてください。

 

なお、同順位の者が2以上の場合もよくありますが、同順位の者は全員書きます。また株主全員の同意が必要な変更の際には、株主全員を書きます。

 

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    本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「Estate Luv(エステートラブ)」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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