公正証書、自筆証書、秘密証書…遺言書3つの方式
遺言書には以下の3つの方式が定められています。この方式以外で作られたものは、遺言書として法的効力を持たず無効となります。エンディングノートは、どの方式にも当てはまらないので遺言書として認められないのです。
◆公正証書遺言
●公証人役場で、公証人(法律家)に作成してもらうので一番確実な遺言書
●全国で年間に11万件ほど作成されている
●家庭裁判所での検認手続きが3つのなかで唯一不要である
◆自筆証書遺言
●自分で手書きするだけなので作成費用がかからず簡単にできる
●不備があると無効になる可能性あり
●遺言書の作成件数は不明だが、家庭裁判所での検認件数は全国で年間1万7千件ほど
◆秘密証書遺言
●「遺言の内容」を秘密にしたまま、「遺言の存在」のみを公証人に証明してもらう遺言書
●中身を誰にも知られずに作れる
●公証人も内容を確認しないので、不備があると無効になる可能性も高い
●上記2つに比べて圧倒的に作成件数は少なく、年間100件程度
「有効な遺言書」にするために必要な記載事項
遺言書は、相続人にとって強力な効力を持っているので、民法で厳格なルールが定められています。上記3つの方式で作成した遺言書の中身には、さらに以下の3つが備わっている必要があります。
◆遺言内容のルール
●身分に関すること(例:子の認知)
●財産の処分に関すること(例:遺贈)
●相続に関すること(例:相続分や遺産分割方法の指定)
この3つに関すること以外は、遺言書に記載があっても法的な効力は生じません。
◆形式のルール
公正証書遺言は、法律のプロである公証人が作成するので不備は考えなくてもいいでしょう。自分で書く自筆証書遺言、秘密証書遺言は次の点に注意して書く必要があります。
◆自筆証書遺言の場合
●本文は自筆(自筆証書に相続財産の全部または一部の目録を添付するときは、その目録については自書しなくてもよい)。ワープロ書きは無効
●日付、署名、押印必須。
◆秘密証書遺言の場合
●手書きの必要なし。ワープロでも他人が書いたものでも可
●署名、押印必須。遺言書内と封筒の印影が一致しないと無効
◆意思能力の有無
遺言書は、満15歳以上で「意思能力」がある人なら誰でも作れます。この2つを持っている人は遺言能力があるとされています。ですが、この「意思能力」の有無について、後々相続人間で争いになることがあります。
「意思能力」とは、自分で物事を考えて判断し、その結果を認識できる能力のことです。つまり、本人が遺言書の内容をちゃんとわかっているかどうかが、重要なポイントとなってくるのです。
この意思能力の有無を客観的に判断するため、よく裁判で引合いにだされるのが、「長谷川式認知症スケール」です。これは、認知症であるかを診断するために行われるテストの1つですが、事前にこのテストを受けて、一定基準を満たしていれば、後々紛争となった場合でも、意思能力があったと認められる重要な資料となります。
軽度の認知症と診断されていても、意思能力がないとまではいい切れません。その場合は自筆証書ではなく公正証書で作るなど、なるべく能力があったと客観的に証明できるような資料を多く残していくことが大切です。
無効とされた遺言書の事例
せっかく遺言書を書いても、無効になった事例が多くあります。
◆自筆証書遺言の場合
自筆証書では、遺言書の内容以前に、形式的な不備で無効になることも多いです。下記がその例になります。
●日付を◯年◯月吉日と書いた
●実際の作成日とは違う日付を書いた
●紙ではなく、録画・録音で遺言を残した
●夫婦2人、同一の証書で書いた
●手が震えるので、他人に添え手をしてもらって書いた
●赤のボールペンで斜線が引かれていた
●添付の不動産目録が自筆ではなく、ワープロで打ったものだった
●署名押印が、文書にはなく開封済みの封筒だけにあった
◆公正証書遺言の場合
公正証書遺言で無効になるケースは、主に前述の「意思能力」の有無です。
●公証人が読み聞かせ時に頷いただけで、一言も言葉を発しなかった
●当時認知症であったにも関わらず、複雑な内容の遺言であった
●遺言作成の2ヵ月前に、成年後見開始のために医師が鑑定をしており、鑑定結果を受けて作成日の3週間後に成年後見が開始されていた
有名な例を挙げれば、第二次世界大戦中に「命のビザ」を発給して6000人のユダヤ人をナチスの迫害から救ったことで有名な外交官・杉原千畝氏の妻・幸子さんが残した公正証書遺言が、作成時に本人は入院していて意思能力がなかったとして、相続人間で争いになっていました。一審では遺言書は無効としたものの、控訴審では本人の症状は重くなく、作成翌月には退院して講演活動を再開していたとして、一転して遺言書を有効とする判決を下しました。
このように、客観的に判断できる証拠を多く揃えておくことが、有効性を証する手助けとなるでしょう。
◆まとめ◆
どういった形式かはさておき、遺言書を書く人が年々増加する傾向にあることは、家庭裁判所や日本公証人連合会の統計上からも明らかです。
遺言書が普及してきたのは、メディアで取り上げられる回数が増え、インターネット上で簡単に遺言書にまつわる知識を得られようになったのも、要因のひとつといわれています。
親世代の相続でトラブルに巻き込まれた方が、「自分の時はトラブルにならないよう遺言書で対策しておこう」と、作成されることも多いようです。円満に相続するための遺言書が、かえって争いの火種とならないよう、専門家に相談しながら作成するのが確実といえます。
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