自社商品のアピールがしたいあまりに、しゃべりすぎてしまった経験はないでしょうか。本記事では、株式会社インタラクティブソリューションズの代表取締役であり、2000人を超える営業社員向け社内イントラネットを構築した関根潔氏が、「ダメ営業」について解説し、クライアントを満足させる方法を紹介します。

できない営業担当ほどよくしゃべる

あるIT企業の営業部長が話していたことですが、できない営業ほど短時間のうちにたくさんのことをしゃべるそうです。

 

「どんなことが相手の気持ちに響くか分からないから、資料をどさっと持っていって、とにかくたくさんしゃべる。全部外れるのが嫌だから、数撃って当てようというわけだ。でも相手のお客さんのことを考えているわけじゃないからニーズを引き出せず、どうしてもピントが外れてしまう。できないやつほど、行けばなんとかなるだろうと思っているんだ」

 

そう聞いて私も、なるほどと共感しました。ファミリーレストランなら、「和食、洋食、中華となんでもありますから選んでください」という姿勢でもいいのですが、訪問営業でメニューを全部見てもらうところから始めるのでは効率が悪くてしかたありません。だからどこから攻めようかと計画を立てるわけですが、顧客の状態・ニーズを正しく理解していない方には実は計画を立てるのは意外と難しく、慣れないと訪問するのと同じぐらいシミュレーションするのに時間がかかってしまいます。

 

アピールはもちろん大切だが…
アピールはもちろん大切だが…

 

ベテランの優れた営業担当はそのへんは慣れているので、あまり苦労せずに訪問計画を立てることができます。営業力がない人ほど、こうしたシミュレーションやプレゼンテーションの練習をすべきです。たとえ練習でもいざやってみると、意外と何を話していいか分からないものです。それなのに本番でやれるつもりになっているところに問題があります。これもロールプレイなどで実際にヒアリングを効率的にしていたり、その教育に時間を割けている会社が少ないと思います。

 

できない営業ほどたくさんしゃべっていて、しゃべったことで充実した訪問活動ができているつもりになっているかもしれません。大切なのは、自分は知識はあっても現場で相手に伝わる話し方ができていないのだと気づく・気づかせることです。

営業担当が現場で何をしているかを上司は知らない

これはまた別のIT企業の例ですが、若い営業担当の訪問先に上司がついて行きました。部下の営業に同行すると、どうしても手際の悪さの方に目が行きます。その上司は「だいぶ話せるようになったな」と感心するとともに、「なぜ今その話題を振るのかな」とイライラしながら聞いていました。

 

これも訪問に行く前に上司がロールプレイの相手になって、プレゼンテーションの練習をしていれば、本番ではより円滑に話が展開できたかもしれません。ただ営業担当者全員に上司が付き合ってロールプレイをする時間をとれないのが現実です。すると毎回、訪問した先の本番で練習を兼ねることになってしまいます。

 

もちろん上司は多くの営業担当と同行する時間的余裕があまりないので、営業の現場で担当者が何をしているのか完全には把握できません。日誌や口頭の報告は抽象的であったり、本人の理解で書かれていたりしてお客様目線ではありませんので、残念ながら詳細はあてになりません。

 

しかも担当者が同行を頼むのは、うまくいっているクライアントの前でいいところを見せたいか、そうでなければ攻略できないので上司の力を借りたいときのどちらかの場合が多いのではないでしょうか。全部のクライアントを一緒に回ることはできないので、部下がその中間の平均的なところでどのような営業活動・プレゼンテーションをし、顧客にどこまでご理解いただけているのかの実体を知ることはできません。

営業担当の仕事は見積もりと請求書を出すだけか

クライアントも、なるべくなら優秀な営業担当とお付き合いしたいと思っています。でないと話が進まなかったり、時間の無駄が発生したりします。

 

私がいたのは、日本ロシュ(現・中外製薬)とノバルティスファーマという外資系の製薬会社です。両社に在籍していたときにはITの利用部門の立場で、大手のシステム構築をしていただいている会社(SI会社)やITツールを売り込みにくる会社の営業を観察する機会に恵まれました。

 

ある社内システムの選定で、多くのベンダーが提案するから聞いておいてくれと事業本部長に指示されることがよくありました。それまで特定のSI会社としか付き合っていなかったので、会社ごとの違いも分かり、いい経験になりました。

 

皆さん分厚い提案書をお持ちくださっていましたが、すでに私たちとしては実施済みの内容だったり不要なものが大半で、ご準備いただいているページは多くても実際に相手を知っての提案にはなっていません。事前の情報収集が不足していたのです。

 

そのうちに私自身の時間もとれなくなり、SI会社に現状の課題と要望を先に伝えて、答えを持っている人だけ来てくださいというやり方に変えました。慣れてくると、それも電話で済ませるようにしました。結局、全社に会っていたときの10分の1程度のはるかに短い時間でできることが分かりました。これはよく考えてみれば忙しい医師ができるMRを選別してお付き合いをするのと似ています。

 

では、大手SI会社の多くの営業はこのときに何をやっているかといえば、大部分の人はほとんどの提案や内容説明をプリセールスエンジニアやシステムコンサルタント、システムエンジニアなどに任せていました。よくいえば業務を分担し、営業担当者自身はほぼ見積もりを出すことと、契約を交わすことに専念していました。

 

もちろん営業ですからその案件だけでなく、次につながる話を拾う必要もあるはずですが、業務内容を掘り下げ、課題をさらに聞き出し、提案につなげようとするには知識も足りないので、話題についてこれていませんでした。SI会社にとってチャンスの芽となりそうなことはたくさんありましたので、一応説明はしましたが、理解できるレベルにいないことが多くありました。

 

本来、最前線で顧客と対面する営業が顧客の業種ごとに知識を身につけ、顧客企業社内のすべてのニーズをコントロールして、なんでもまず私に聞いてくださいという立場でもいいはずです。そうすれば提案営業になると思います。

 

しかし大手企業になるほど分業化されるので、見積もり作成と請求書の提出、打ち合わせの日程調整だけで多忙な仕事になってしまい、提案以前に自社の特徴や取扱い商品に関する理解も進んでいないというのが現実かと思います。

営業の日々の売上を、担当が即答できるか

危機感を持っている企業は、こうした会社とは営業のあり方や意識が違うのだと思います。

 

例えば、以前私が働いていた製薬会社は2社ともグローバル企業ですが、運営とスピードはベンチャー以上に常に機動力と判断力が求められました。社員は所属する部署がどれだけ会社に最大貢献ができるか、自分自身の権限で何ができるかを常に意識していました。

 

私がマーケティング部門でネット広告を使ったウェブマーケティングをしていたときには、ウェブ経由で医療機関に患者さんを誘導したか、それが薬の売上につながったかを様々な調査データと合わせて日々把握し、次の展開を考えることが求められていました。

 

また、製薬会社といえども営業部門のマネージャーや支店長はもとより、営業担当は全員が部門や自分自身の毎日の売上の変動を答えられて、マーケティング部門では自分が担当する製品が今日はいくら売れているか、次のアクションはいつ何をする予定になっているかを計画し、頭に入っているのが当然なのでいつでも言えるような会社でした。

 

今の日本で、それぐらいの認識を持って動いている企業がどれぐらいあるでしょうか。以前と比べると、営業担当がこなさなければならない仕事量・幅は増えていますし、内容も多様になっています。現場で対処を済ませてしまい、できるだけ顧客の疑問を持ち帰らずにその場で解決することがますます求められるようになっているのではないでしょうか。

 

営業担当一人ひとりがその場で判断してスピーディーに行動できる会社が、これからの時代を生き残ることができる会社だと思います。業種によっても異なりますが、このような認識は外資系以外の日本企業ではまだまだ足りないかと感じます。

最強営業部隊をつくるタブレットPC活用戦略

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関根 潔

幻冬舎メディアコンサルティング

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